「どんな仕事もきっと楽しい」仕事の達人観察図鑑で養うプラス思考
日常の中で何気なく思ってしまう「できない」「しなきゃ」を、映画・本・音楽などを通して見つめ直す。
今回は、木こり・羊飼い・ボクシング選手・百貨店の販売員・落語家など100人の仕事の極意を紹介した『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』(金井真紀・筑摩書房)をご紹介。仕事が面白くない、やりがいがない、職場の人間関係がわずらわしい、お金のために働いている……こんなふうに仕事をネガティブに捉えてしまう経験は誰にでもあるのでは? 本書からは、仕事のポジティブな側面を捉える視点がもらえるはず。
金井真紀(2022年)『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』筑摩書房
『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』概要
テレビ番組の構成作家・酒場のママ見習いなどを経て文筆家・イラストレーターになった金井真紀さんの著書で、100人の達人に仕事の極意を聞いてまとめた1冊。ぽつんぽつんと呟くような文体で端的に本質をつく文章は、ふだん読書をしない人でも読みやすそう。
取り上げている達人はタレントやスポーツ選手など、いわゆる”かっこいい”仕事に就く人ばかりではない。メーカーのクレーム対応係や百貨店の販売員など、私たちになじみがあり、大変さが想像できる達人も登場する。本書が良いのは、クレーム対応係と聞いて想像するような愚痴が出てこないところだ。登場するクレーム係は「喧嘩するなら勝ちにいきますよ」と話すが、喧嘩をする相手はクレーマーではなく自分の会社だ。「お客さんと一緒に本気で会社と戦えば、お客さんは必ず商品を買ってくれる。クレーマーは最高のファン予備軍」と言う。本書を読むうちに、どんな仕事にも面白い側面があると気付かせてくれるのだ。
仕事は楽しくない、なんてない
仕事に限らずどんな物事も、個人の性格や育った環境、経験してきた教育現場・職場などによって捉えかたが変わる。物事をネガティブに捉えたとして、それが悪いとは限らない。ただ仕事に関しては、仕事を通して自分の価値を社会に見出すという側面がある以上、面白いものとして捉えたほうが得だと思うのだ。「つまらない」と感じる仕事を通じて社会に自分の立ち位置をつくるよりも、「楽しいな」と前向きに働いたほうが、自分は価値のある存在だと捉えやすそうではないか。本書は、自分の仕事に楽しさを見出す視線を養ってくれるだろう。
紹介されている仕事の極意は多様だ。その中からピンとくるものを探して真似から始めるのもいいし、自分の仕事の極意を考えてみてもいい。一例として、どんな仕事にもありそうなシチュエーションに対する極意をまとめてみる。
【仕事に困った時の極意】
- 映画の背景画家: 困るほど燃えると考える
- ゴルフ選手: アンラッキーの次は必ずラッキーが起きると考える
【プレッシャーに押しつぶされそうな時の極意】
- 木こり: 自分しか気づかないレベルの進化を信じる
- 照明デザイナー: 最後は開き直って「俺を雇った建築家の判断ミスだ」と思う
この本の魅力は著者の描くイラストにもある。一人の達人に一つのイラストが掲載されていて、のほほんとしたイラストが極意をさらに魅力的にしている。一つ紹介すると、プロ試験でカラスにボールを取られたゴルフ選手のページには、ゴルフボールをくわえたカラスとハンガーをくわえたカラスが「お宝対決」をするイラストが載っている。
最後に料理カメラマンの極意を紹介したい。
飲食店の取材後に「撮影したものを食べていってください」と言われるが、1日に何軒も取材をすると5軒目くらいからおなかがキツくなってくる。その中で、カメラマンだけが何軒目であっても態度を変えず「せっかくやから」と、機嫌よく料理を味わうそうだ。
撮影二日目、気づいたら「せっかくやから」がみんなの合言葉になっていた。
「このあと一杯行きますか」「せっかくやから」
「川沿いの道を歩いて行こうか」「せっかくやから」
(中略)
口々に言って、笑って、どんどん楽しくなる。
せっかくやから精神、尊い。
※出典:金井真紀(2022年)『世界はフムフムで満ちている 達人観察図鑑』筑摩書房,212ページ
次に仕事で迷ったときは「せっかくやから」と言ってみよう。仕事の範囲が広がって、新たな仕事の楽しさを見つけられるかもしれない。
文:石川 歩
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