シェルターの住環境整備は妥協しなきゃ、なんてない。
株式会社LIFULLで秘書業務を行う新垣ユミさん。LIFULLの社是である「利他主義」に強く惹かれて入社を決めたという。秘書業務の傍ら社内で熱心に社会貢献活動の促進に尽力している一人である。そんな彼女のベースには「利他主義」にもつながる「目の前にいる誰かを幸せにしよう」という強い想いがあった。
住宅弱者と呼ばれる、DV被害者や虐待を受けた子ども、難民、ホームレスなど、様々なバックグラウンドを理由に賃貸物件を借りにくい人たち。その人たちを一時的に保護する住まいであるシェルターへの支援を行う「えらんでエール」という取り組み。“シェルター”というものの秘匿性ゆえに、世間からの認知度が低く、運営資金が十分でないことから住居環境の整備が行き届かなかったり、運営面で行き詰まり閉鎖をしてしまうなど、日本には住宅弱者を守る十分な環境が用意できていないという問題がある。その問題を解決すべく、「えらんでエール」を立ち上げた新垣さんが活動を通じて知った現状、そしてLIFULL HOME'Sとしてできるその課題への取り組みについて、お話を伺った。
家にいることが必ずしも
安全じゃない人もいる。
そんな人たちが一瞬でも
ホッとする住環境を届けたい
まずは、新垣さんのこれまでの経歴、現在の活動についてお話を伺う。
「大学で建築を学んだ後、内装デザインの会社を経て2010年にLIFULLに中途入社しました。入社してからは取締役とCTOの秘書を担当させてもらっています。今回お話しすることにもつながってくるのですが、2016年に役員と一緒に、社会貢献活動支援制度と委員会を立ち上げました。社員の社会貢献活動を促進するための動きで、社内ではOne P’s(ワンピース)活動と呼ばれています。そして2019年に、委員会を中心に住宅弱者への支援の取り組みとして事業とひもづけて何かできないかと考え、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALLの立ち上げに至りました。そのプロジェクトの施策の一つである 『えらんでエール』でプロダクトマネージャーとして企画立案を行っています」
「えらんでエール」はどんなプロジェクトなのだろうか。
「LIFULL HOME'Sは“したい暮らしに出会おう”というコンセプトで自分の自己実現や住みたい暮らしを探すことができる住宅情報サイトですが、生命を維持するために家が必要であるとか、身の安全がそもそも守られていない、最低限の住にすら不安を抱えている方々も一定層いるというのが現状です。
『えらんでエール』ではこの社会課題に対して、まずは一時保護となるシェルターを住環境から整えることで、誰もが安心安全な暮らしに出合い、ひいてはシェルターから自身の次の家を探す際には、LIFULL HOME'Sで真のしたい暮らしに出合える世界、そんな世界を目指して活動を行っています。LIFULL HOME'Sでユーザーの方が物件を問い合わせした後のアンケート画面で、DVや虐待被害者、経済的困窮により親と暮らせない子どもたち、日本にいる難民の方々、ホームレスなど生活困窮者の方々など、自らエールを届けたいと思う対象者を選ぶと、ユーザーに代わって、LIFULL HOME'Sがその方々の住まいを支援する団体に寄付を行うという仕組みです」
『えらんでエール』単体でなく関係者を巻き込み解決していきたい
住宅弱者を保護するためのシェルターはどんな問題を抱えているのだろうか。
「そもそも、民間シェルターって私もこのプロジェクトを通して初めて理解をしたんですね。行政が税金で運営する公的シェルターというのがだいたい各都道府県に1つ以上あるのですが、それだけでは賄えなくて、例えば弁護士団体等が民間シェルターを立ち上げているのが現状です。しかし、民間シェルターでは財政難、人材不足の観点からなかなか住まいの改善や施設の維持が難しい状況にあり、相次いで閉鎖しているとの報道をよく目にしていました。そして昨年の夏前、内閣府がシェルターへの財政支援をおこなう旨の報道がありました。シェルターは秘匿性が高いこともあり、そもそも世間に知られておらず、社会的な負が見えづらいという悪循環になってしまっている状況も問題だったんですよね。国もようやく動き出してはいますが、LIFULL HOME'Sとして『住』領域での社会的課題を考えた時に、『もしかしたらとなりに住んでいる人は、安心な暮らしをしていないかもしれない。』という観点で住宅弱者に対して何かできないか、というところから『えらんでエール』は立ち上がりました」
開始から約1年が経過し、これまでいただいたエールではどんな課題を解決してきたのだろうか。
「2019年の開始から1年で約2500エールをいただき、9つの団体に寄付を行ってきました。支援の内容はそれぞれのシェルターが抱える課題に合わせたもので、例えば、一軒家をシェルターとして使っていたけれど、そのエリアがハザードマップで水害が危険な場所だとわかり、移転を検討しているという場所の支援を行いました。その他も、より落ち着ける室内にするためにインテリアを充実させた、ですとか、清潔なフローリングに変えるリフォームをしたという声をいただいています」
多くの施設の環境を改善してきたが、資金面での支援だけでは解決できない別の課題も見えてきたという。
「子どもシェルターやDV被害者のシェルターの支援を行った際には資金面だけではない別の課題と向き合うことにもなりました。この2つのシェルターに関しては、特に秘匿性が高く、物件を探すのが難しいんです。場所は絶対に知られてはいけなく、また不特定多数の子どもが出入りするということもあり、周りの住民の方へ理解していただくことも必要になります。現在では、弁護士や大学教授などの社会的立場の高い方が借りていたり、理解のあるオーナーの方がいたおかげで借りることができているというケースがほとんどなんです。私自身、『えらんでエール』の活動以前はこういった課題について知らなかったので、資金面で支援ができたことももちろんですが、現状を知れたということが大きかったです。今後、少子高齢化で家を借りる人が少なくなる中で、本来オーナーさんは貸す人を選べなくなっていくはずなのですが、実際にはまだ選んでいる状況です。一方で、借りたいのに家を探せないで困っている人もたくさんいるという現状があるので、今後『えらんでエール』のみならずいろんなセクターを巻き込んで解決していきたいなと思っています」
誰しもが“したい暮らし”に出合える世界へ
「えらんでエール」はあくまで仕組みであるという新垣さん。その先には「えらんでエール」というプロジェクトだけでなく、LIFULL HOME'Sとして解決していく課題があるという。
「また、その先にある課題も見えてきました。シェルターというのはあくまでも一時的なものなので、一時保護から自立した時に子どもが両親を保証人にせずとも家を借りるようになることや、DV被害を受けていて働いたことがない女性の就労の問題、難民や生活保護者が家を借りる際の問題など、“自立への課題”をどう解決していくかという点です。まだ具体的には検討できていないですが、どれも『FRIENDLY DOOR』という、LIFULL HOME'S ACTION FOR ALL内のもう一つのプロジェクトにつながってくることなんですよね。LIFULLとしては、不動産会社と借りたい人とのネットワークのハブになることで、困っている人が、“一瞬ホッとできる場所”である“家”をまずは探せるようになっていけばいいなと考えています。そして最終的には、『FRIENDLY DOOR』、『えらんでエール』というプロジェクト自体必要のない世界になればいいよね、と『FRIENDLY DOOR』のプロジェクトオーナーのキョウさんとも話をしています」
この活動を通して感じるやりがいとは。そこには幼少期の経験も関係しているという。
「この活動を通じて、現在にいたるまで手応えというものはなく、おそらくずっとないんだろうなとも思っています。ただ、一方でDVや虐待などの社会問題は犯罪とか人権に近い内容なので、私たちには直接アプローチができないものなのですが、『住』という観点でだったらLIFULLでもできることがあるなと改めて感じています。少し遡った話になりますが、私が大学に入った理由の一つに、自分が小さいころに病気がちで病院に行くことが多かったということがあります。病院って内装が白くて、もともと具合が悪いから行くのに余計に具合が悪くなるな、と感じていたんです。だから空間と心理的作用の関係性に興味があって、大学では人間工学や感性工学の研究もしていました。関連して、医療や福祉の分野でのちょっと弱っている人たちと空間のありかたにも興味があり、プライベートでは長期入院用の小児病棟でボランティアをしていました。今回こうしたシェルターへの支援を通して、シェルターと医療の空間のありかたは近い状況だと思ったんですよね。カーテンの色一つ変えただけで気持ちは明るくなりますしね。そういう、心理的なものって人間に共通していることだと思うので、そういう部分で間接的にでもお手伝いができていることにすごくやりがいを感じています」
秘書業務と社会貢献活動という多様な働き方で活躍する新垣さんが、今後実現していきたいこととは。
「今後実現していきたいことは大きく2つあります。私はLIFULLが好きで、どちらもLIFULL内でやっていきたいことですが。1つ目は自分が立ち上げた、One P’s(ワンピース)活動をLIFULL社員の文化にしていくことです。2つ目は、社内でのパラレルキャリアという働き方を広めていくことです。こういうキャリア設計を行っている人はあまり社内にいないのですが、これをやると活動の幅や考え方、見えるものが広がり、自動化や省力化など自分の既存の業務を見つめなおすきっかけにもなります。なので、社内のみんなにもこんな風な働き方もできるんだよということを広めていきたいです。
また、こういう話をすると、意識高い人が良いことをしている、と思われるかもしれませんが、決してそういうことではないということも伝えたいです。というのも、いろんな文献でも自分の社会貢献活動と幸福度には相関関係があると証明されていて、ボランティアやNPOなどのサードプレイスがある人はそれがない人の3倍、自分のキャリアや人生を前向きに考えられるという数値もでており、人生の満足度があがると言われているんです。なので、LIFULLで働く人は仕事のためだけにLIFULLにいるのではなく、いろんな制度を使ってもらってその人の人生をハッピーにしてもらえたらなと思っています。私自身、『えらんでエール』というプロジェクトにはやりがいや思い入れも感じていますが、LIFULL HOME'Sという住宅分野の事業には500~600人の社員が関わっているので、みんなで住宅弱者について考えていくことで、誰ひとり取り残すことなく、誰もがしたい暮らしに出合えるような世界を実現してきたいと、いう壮大な夢を描いています」
撮影/加藤木 淳
1985年生まれ。東京理科大学卒業後、内装デザイン会社を経て2010年株式会社LIFULLに入社。
入社後は一貫して取締役秘書に従事。現在は事業・システム両面におけるテクノロジー領域の担当として経営幹部を補佐している。
2016年社会貢献活動支援プログラム(One P's-ワンピース-)立ち上げ。
One P'sの由来は「One Percent, One Person, One Piece” for Peace」。
〝一人ひとりの相手への思いやりの行動がたとえ小さいものだとしても、その行動を集めれば、大きな力となって、社会をより良く、よりPeaceにできるはず。みんながひとつになって“世の中をもっとPeacefulに。”
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