心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【つくしの場合】
誰かと一緒に生きていきたい。そう思った時、あなたは誰とどんな関係性で生きていくことを望むだろうか。心地よいパートナーシップは、一人ひとり違う。しかしながら、パートナーシップのあり方にはまだまだ選択肢が乏しいのが現状だ。
既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援する「LIFULL STORIES」と、社会を前進させるヒトやコトをピックアップする「あしたメディア by BIGLOBE」では、一般的な法律婚にとどまらず、様々な形でパートナーシップを結んでいるカップルに「心地よいパートナーシップ」について聞いてみることにした。既存の価値観にとらわれず、自らの意志によって新しいパートナーシップの在り方を選択する姿には、パートナーシップの選択肢を広げていくための様々なヒントがあった。
今回話を聞いたのは、つくしさん。看護師として北海道の病院に勤めたのち、職を変えて上京。2020年には性教育YouTuberのシオリーヌさんとの結婚を発表。2022年に第一子が誕生すると約1年間の育休を取得。現在は兼業主夫として週4日は働きながら、子育てに奮闘している。そんなつくしさんにとって心地良いパートナーシップとは?
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心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【シオリーヌの場合】
今度付き合うなら「話し合いができる人」
つくしさんがシオリーヌさんと出会ったのは北海道で開催された、看護師のコミュニティイベントだった。もともと看護師をしていたつくしさんは当時、北海道在住で、シオリーヌさんの存在はYouTubeなどを通じて知っていたという。
「病院で働いていたのですが、自分の今後の働き方にすごく悩んでいた時期でした。本当は病院でずっと働いていくつもりだったのですが、人間関係がうまくいかなかったり、いろいろと悩みがあって病院を辞めました。リゾートバイトをしたり、いろんな環境で働いてみようと思って、その一環で関東に住むことを決めたタイミングでもありました。
そんな時に、イベントで詩織(シオリーヌ)と出会いました。もともと動画を見ていたので、『本物のシオリーヌだ』と、有名人に会った時のような気持ちでした」
その後、上京したつくしさんは、シオリーヌさんと再会。共通の友人も交えた食事の場で盛り上がったのが、『今度付き合うなら、どんな人がいい?』という話題だった。
「自分としては、話し合いがちゃんとできる人がいいなと思っていました。今まで自分が交際してきた経験の中で、何か思ってることがあるのに言ってもらえない、でも態度はすごく悪いから自分が頑張って察していかなきゃいけないということがあって、すごく疲れたんですよね。だから、もし次があるのなら、ちゃんとコミュニケーションを取って、改善していける相手がいいなと思っていました。そこで、詩織も同じように言っていて、共通点を初めて意識した瞬間でした」
意気投合した2人はとんとん拍子に交際を始め、同居するようになった。しかし、シオリーヌさんと恋人関係になるにあたって、つくしさんにはある心配があった。
「年齢差は気にならなかったし、子どもが欲しいという詩織の希望は一緒に叶えたいと思っていました。でも、それよりも僕が気になっていたのはお金のことです。当時、僕は安定した職に就いていなかったので、今後、一緒に生活していく基盤を築いていけるのだろうかと不安だったんです。
たぶん、自分の中に『男が稼がなきゃ』みたいな意識もあって、自分の収入が少ないことにコンプレックスを感じてしまっていたんだと思います。でも、詩織と何度か話し合いを重ねる中で、男の自分が1人で頑張って稼いだり、思い詰めたりしなくても、2人で一緒に生活できればいいんだと思えるようになりました」
これに対し、シオリーヌさんは「私は働く気満々だから、自分の分まで養ってもらおうなんて考えていませんでした」と明るく話す。
「話し合いがしたい」と言いながら話し合いから逃げていた
シオリーヌさんの柔軟な考え方や男女の対等なパートナーシップに対する思いは、つくしさんにも徐々に影響を与えていった。
「もともと看護師だったので、他の人よりはハードルが低かったかもしれませんが、それでも詩織と出会ってから、より女性の身体のことやフェミニズムについても自分ごとのように考えられるようになりました。
告白する時も、性感染症の検査を受けて、その結果を待ってから告白に行こうとしていたんです。実際には、告白の日に結果が届くのが間に合わなかったのですが……。でも、詩織の動画を見たり、話を聞いているうちに、こういうことも信頼関係を築くのに大事なんじゃないかなと思って」
しかし、最初から互いの考えを完全に受け入れられていたわけではないという。「話し合いができる人」がいいと言いながらも、それを実践できない自分もいたと、つくしさんは振り返る。
「僕は話し合いをしたいって言いながら、自分から切り出すのがすごく苦手で。最初の頃は特に、何かあった時に話し合いのきっかけをくれるのは、いつも詩織だったんです。1回それが原因で喧嘩しました。『話し合いをしようと言うのって負担が大きいことだと思うんだけど、つくしはそれをしようとしないよね』と言われて、すごく反省しました。
今は、経験を重ねて、僕も以前よりはできるようになってきたと思います。話し合いをしようと言い出したり、喧嘩になる前にうまく穏やかな話し合いに方向転換をしたり、お互いに経験を重ねてこそできるようになったところですね」
当たり前に育児をするだけで……
2022年、そんな2人の間に、第一子が誕生した。不妊治療を経ての妊娠・出産だったというが、つくしさんはどのように向き合っていたのだろうか。
「コロナ禍というのもあって、妊婦健診は病院内には僕は入れず、いつも駐車場で待っていました。でも、不妊治療の間は病院が寛容だったのもあって、いつも同行していました。妊活に臨む時は一貫して、妊娠・出産は2人で計画・運営するものだという話をもともとしていて。だから毎回一緒に病院に行くようにしていました。良く考えると、妊娠した人は都合の良し悪し関係なしに、検診のために自分の時間を割かなければいけないのに、僕は自分が都合のいい時だけ行くのも不平等ですよね。だから、最初から『一緒に行こう』と言っていました。
でも、実際に病院に行ってみると、2人で来ている人は本当に少なかったです。不妊治療って本当に大変で、3日に1回は通うような時もあるし、待ち時間がものすごく長い。それなのに、1人で通う人ばかりだというのは、驚きましたし、しんどいだろうなと思います」
シオリーヌさんの出産後、つくしさんは1年間の育休を取得した。これはつくしさんの希望でもあり、シオリーヌさんとも事前に話し合って決めていたことだという。
「もともと育休を取りたいと思ってて、詩織も『いいと思う』と言ってくれていました。子どもが保育園に通えるようになるタイミングを考えて、1年ぐらい取りました。自分は仕事にプレッシャーを感じてしまうので、どちらかというと仕事よりは家の中のことをするのが好きで。育休を取って子どもと一緒に過ごす時間をたくさん取れることは自分にとっては喜ばしいことだったんです」
いざ育休を取ろうと、当時勤めていた会社に申し出ると、あっさりと許可が出た。対して、予想外の反応だったのは、知人・友人などからの反応だった。
「会社は育休などの制度が整っていて取得を推奨してくれていたので、育休を取りたいって言ったときにもすごく賛成してくれたんです。でも逆に周りの人から『大変だったでしょう』と言われたり、『協力的でいい旦那さんだね」』なんて言われたり。自分としては、当たり前に自分の子どもの親としてやっているだけなので、少しモヤモヤしましたね。詩織は『自分のしたいこと頑張れるのは、いい旦那さんのおかげだね』みたいなことを言われることが多いみたいで、お互いにそのモヤモヤを共有したりはしています」
変わらずに仲良しでいるために、変えること
とはいえ、育児に追われる生活の中で2人のなかですれ違いが起こることもあるという。そんな時にはどう乗り越えているのだろうか。
「やっぱり子育てで忙しくて話し合う時間が取れなくなったり、気持ちに余裕がなくなっちゃってお互いに少しイライラしてしまう時はあります。仲良くいるためにはお互いに余裕があることがすごく大事なんだなっていうのを最近強く思うようになりました。
いつもよりちょっとだけギスギスした雰囲気が毎日続くのも嫌だなと思ったので、月次で定例ミーティングを設けて、改めて思ってることは正直に伝えようって確認し合いました。変わらない関係性も素敵だけど、子どもが生まれると1日の中で子育てに取られる時間がすごく多いので、2人の在り方もその都度変えていかなきゃいけないんだと思います」
変わらずに仲の良い2人でいるために、柔軟にコミュニケーションの取り方を変える必要があるのだ。根底に深い信頼関係があるからこそ、お互いの意見を正直に言い合い、誠実に向き合うことができるのだとつくしさんは語る。
「言いたいことを言えるし、否定せずに互いを一回受け入れた上で、意見交換ができる関係性が良い関係だと思います。喧嘩をしても仲直りしようとか、話し合おうって思えるのは、やっぱり相手も話し合いを大事にしてるということがわかっているからこそ。
そうなるためには、急に大きい話し合いからするんじゃなくて小さな話し合いからするのが良いと思います。例えば、今まで話し合ってこなかったのに、結婚や妊活の話をいきなりすると難しいですよね。だから、靴下が脱ぎ捨ててあったら『なんでここにあるの?』とお話するところから始めるのが良いのではないでしょうか」
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心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【シオリーヌの場合】
取材・文・編集:白鳥菜都
写真:服部芽生
1997年生まれ。北海道室蘭市出身。看護師、リゾートホテルのコンシェルジュ、イラストレーターなど幅広い職を経験。現在は医療系企業に勤務。
Twitter @DosankoTsukushi
Instagram @dosankotsukushi
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