【前編】民間シェルターとは? 種類・利用実態・利用期間・DVや虐待を受ける女性や子どもへの支援を解説!
家庭内での虐待やDV(ドメスティックバイオレンス、家庭内暴力)は、さまざまな社会問題とつながっています。根本的な解決を目指すべきなのはもちろんですが、当面、被害者を保護するための措置が必要であり、それが「民間シェルター」です。
この記事では下記の5点を解説します。
前編
後編
民間シェルターとは?
「民間シェルター」とは、民間団体が運営している、暴力を受けた被害者が緊急一時的に避難できる施設です。被害者の一時的保護に加え、相談対応や被害者の自立支援サポートなども行っています。
NPO法人や社会福祉法人等の法人団体もあれば、法人格を持たない運営形態を採っている施設もあります。各都道府県・政令指定都市が把握している民間シェルターを運営している団体数は全国で124(2022年11月1日現在)です。なお、民間シェルターは被害者の安全確保のため、所在地は公開されていません。
民間シェルターにはDVシェルターのほかに子どもシェルター、難民シェルター、ホームレスシェルターなどさまざまなものがあります。最近では、パートナーからのDVではない人たちを対象とする「若年女性支援シェルター」と呼ばれるものも存在します。
行政が運営する「公的シェルター」も、各都道府県に設置されています。主たる運営は地方自治体が担っており、運営費は税金によって賄われています。この場合、滞在できるのは2週間程度が一般的です。心身の回復やカウンセリングにもう少し期間が必要な方には、数カ月ほど利用できる「ステップハウス」という施設に入るという選択肢もあります。
また、家庭環境や困窮といった問題を抱える女性を保護する「婦人保護施設」、トラブルに見舞われた母子家庭が入所する「母子生活支援施設」といったように、DV被害者に限らず、支援を必要としている一個人、世帯を対象にした公的施設が存在します。
※出典:民間シェルター | 内閣府男女共同参画局
※出典:婦人保護施設 | 内閣府男女共同参画局
※出典:母子生活支援施設 | 内閣府男女共同参画局
困窮や性被害、健康問題、住居など、生活上の困難を抱える女性の課題が複雑化・複合化する中で、相談や自立支援に伴う制度の見直しの必要が指摘されてきました。これを受け、2022年5月にさまざまな問題を抱える女性を支援するための新法「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(困難女性支援法)が可決、成立しました。
2024年4月に施行される「困難女性支援法」により、各都道府県にある婦人相談所は「女性相談支援センター」、婦人保護施設は「女性自立支援施設」といったように、関連する機関や施設の名称変更も行われることが決まり、公的シェルターの名称や種類、役割も大きく変わる可能性があります。
安全な逃げ場を求める女性がシェルターを必要としている
内閣府委託事業「DV被害者等のための民間シェルター実態調査及び先進的取組事例に関する調査報告書」(2021年3月)によると、2019年度における民間シェルターの利用者数は全体で3,414人、うち同伴児童は1,473人でした。同伴児童以外の利用者本人は女性が1,826人(94.1%)、男性が108人(5.6%)、その他が7人(0.4%)で、利用者の大部分が女性であることが分かります。
入所理由の52.3%は「配偶者からの暴力被害」、10.9%が「子ども・親・親族からの暴力被害」、4.7%が「交際相手等からの暴力被害」で約7割が暴力を理由とした入所でした。次に多かったのは、「住居問題・居住場所なし」で17.8%でした。こうした調査から、特にDVの被害に苦しむ女性が一時的に安全に逃れられる場所として民間シェルターを必要としていることが浮かび上がってきます。
同報告書によると、「民間シェルター等の強み」に関する回答の中で「被害者の状況に配慮したきめ細やかな支援」が最も多く86.7%で、「規則に縛られない柔軟な支援」が65.0%、「退所後のケアなどの長期的な自立支援」が62.5%でした。民間シェルターがこうした強みを生かし、多様な取り組みを行うことで、DV被害者など支援を必要とする人たちの受け皿になっていく必要があるでしょう。
※出典:DV被害者等のための民間シェルター実態調査及び先進的取組事例に関する調査報告書| 内閣府男女共同参画局
DVシェルターを利用する方法や注意点
DVシェルターに避難する必要性を感じたら、DVの相談先の広報チラシやカードなどに公的機関とともに民間シェルターの連絡先も載っていることがあります。お住まいの地域の情報にアクセスし、探してみましょう。
入所する際には、現金や預金通帳、印鑑、キャッシュカード、健康保険証などに加え、調停・裁判で証拠となる書類や財産に関する書類なども忘れないようにしましょう。また、施設によっては年齢制限があり、必ずしも子どもと同伴で入所できるとは限らない点も覚えておく必要があります。
また、施設利用はあくまでも緊急一時的である点に注意すべきです。前述したように、公的シェルターは2週間程度の利用制限を設けているところがほとんどですが、民間シェルターはその限りではありません。施設利用中に、保護命令の手続きや就労へのサポート、場合によっては保育園や学校の転園・転校手続き、生活保護の手続きなどが必要になるケースもあります。
DVシェルターにいる間は、加害者からの追跡の危険があるため、手紙の投函(とうかん)や携帯電話の使用、友人や親族に所在を知らせることは避けなければなりません。
女性だけでなく子どもへの被害も無視できない
内閣府男女共同参画局による報告書「DVの現状等について」(2020年11月27日)によると、子どものいる被害女性の約3割が「子どもへの被害経験」も認識しているとのことです。
2019年度の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)改正では、配偶者間のDVが児童虐待とも密接に関連しているとして、相互に協力すべき機関として児童相談所を明記しました。また、これまで保護対象が被害者だけでしたが、子どもなどの同伴家族も保護の適用対象に含まれることが明確になっています。
また、2023年2月には、言葉や態度による精神的暴力でも裁判所が保護命令を出せるようにするDV防止法の改正案が閣議決定されました。被害者の子どもへ電話することを禁じる項目も新たに追加するなど、被害者保護をより強化した法改正に注目が集まっています。
※出典:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律
後編へ続く
NPO法人全国女性シェルターネット共同代表を務める傍ら、広島大学ハラスメント相談室准教授としても活躍中。1967 年和歌山県新宮市に生まれ、ジェンダー論を中心に社会学を専門に研究。名古屋大学大学院文学研究科博士後期課程修了後、1997 年頃より「キャンパス・ セクシュアル・ハラスメント全国ネットワーク」設立に関わる。以後、DVや性暴力などに関する被害者支援にも積極的に携わる。
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