運動は毎日継続しないと意味がない、なんてない。
人気YouTuber、のがちゃん。2018年にフィットネス系チャンネル「のがちゃんねる」を開設し、現在は登録者数86万人を超えている。もともとはデザイナーとして活動しており、フィットネスやスポーツに縁があったわけではない。そんな彼女の原点は、中学や高校時代のダイエット。食べないダイエットなどに挑戦しては、リバウンドの繰り返し。当時の経験と現在のYouTube活動から見えてきたのは、「継続の大切さ」だ。多くの人が直面する体作りや健康について、のがちゃんの考えを伺った。

近年高まり続ける、フィットネスや健康のブーム。AYAさんなどをはじめとした人気トレーナーがメディアに登場し、SNSではフィットネスに関する情報がバズるなど、ずいぶんとフィットネスが身近なものになった。しかしその一方で、日本のフィットネス人口は国全体の3%程度と、海外に比べて少ないのも現状だ。その背景の一つとして、「そもそも運動が嫌い」「すぐ挫折してしまう」など、継続の難しさが挙げられるだろう。
運動を始める際、人はついつい「2週間で5㎏減!」などといった短期戦で結果を求めがちだ。そして達成できなかった時には、「自分はダメだ」「できなかった」と落ち込んでしまう。しかし、本当に運動とは「根性論」が必要なのだろうか。のがちゃんの目指す運動のあり方や、継続のコツは一体どんなものなのだろうか?
昔は、ダイエットで失敗の連続だった
「のがちゃんねる」を開設したのは、2018年冬のことだった。
「もともとフリーランスでデザイナーをやっていて、その中で新しいことを始めたいなと思って、最初は軽い気持ちで始めました。私がそれまでやっていた仕事って受託して作るものだったので、誰かのために作って、完成したら自分の手元から離れていってしまう感覚だったんですよね。だから自分のためにモノづくりをしたいなと思ったのがきっかけですね。
機材を全部用意してスタートしましたが、最初は結構大変でしたよ。カメラの前でしゃべるなんて経験がなかったので、最初のあいさつだけで何十回も撮り直したり、レンズに向かってしゃべりかける恥ずかしさがあったりで。撮ったものを見返して、自分の映った顔を見てまた恥ずかしくなるみたいな……(笑)。メニュー作りに関しては、いろんな動画や本を片っ端から調べましたし、もともと自分もずっとダイエットをしたりジムに通ったりはしていたので、その時のことを思い出しながら試行錯誤でやっていましたね。今はヨガとピラティスの資格を持っているので、それを生かせていますね」
中学・高校時代は帰宅部で、スポーツに没頭しているタイプの女の子ではなかった。当時は無理なダイエットを繰り返しては失敗していたという。
「今はリアルな情報がたくさん得られる時代ですけど、昔って本当に雑誌の後ろのページについているダイエットサプリの広告が全て!みたいな狭い世界観で(笑)。友達間の情報やそういう広告を本気で信じて、楽に痩せる方法を探したり、食べないダイエットに走ったりしましたね。でもやはり成長期で食べ盛りですから、ご飯をセーブするとおなかがすくんですよ。その分お菓子を食べてしまって結局痩せない、ということもありましたね。断食に取り組んだりジムに通ってみたりしても続かなくて……失敗の連続でした。
今振り返って思うのは、中学生や高校生、大学生って一瞬一瞬が大事じゃないですか。“次の夏休みに太ってたら意味がない”って思ってしまうし、“2週間後に遊ぶ日までに痩せていたい”って思うし。大人になった今と時間軸が違うので、焦ってしまう気持ちはしょうがないのかな。だって高校1年生の時に、“高校3年になるまでに痩せてたらいいな”なんて気長に思えないですよね(笑)。
体作りを長い目で見られるようになったのは、YouTube活動を始めてからですね。“7日間腹筋チャレンジ”とか“30日間チャレンジ”という企画を作る中で、“続けた結果どうなるか”という見方ができるようになったんですよ。目的が“痩せる”ではなくて“続ける”に変わったら、気づいたら結果がついてきた。しかも、つらくなくなったんですよ」
YouTube活動の中で、のがちゃん自身の内面も変化させたフィットネス。成功の秘訣は、目標設定の仕方にあるようだ。
運動に必要な「継続」とその成功のコツ
とはいっても、その「継続」そのものが難しい。仕事で疲れて眠い日もあれば、やる気が起きない日だってあるのが人間だ。
「継続が大事といっても、私も本当に1日も欠かさず毎日やっているわけじゃなくて、3週間くらい休むことだってあるんですよ。でもその時に“ああ、休んでしまってダメだ”と思うのではなくて、“また今日からやろう”と思うことが大事ですね。やらなかったことにフォーカスするのではなくて、“今日やらないよりやるほうがマシだ”と切り替えるんです。
私も以前はそんな経験がありましたね。1日50回、1週間毎日腹筋をやるって決めていたんですけど、前の日にサボっちゃったから今日は100回やらなきゃとなるんですよ。でも100回となるとハードルが上がってまたサボっちゃって。じゃあ次の日に150回やらなきゃ……と挽回を考えた結果、“せっかく続けたのに3日もサボるなんて自分はダメだ”と責めちゃうんですよね。過去にサボったことは一度忘れて、今日やるのかやらないのかだけを考えると意外とできますよ」
YouTube活動を通して、生活にフィットネスが染みついたというのがちゃん。彼女にとって、運動とはなんなのだろうか。
「シンプルに、“人間にとって必要なもの”ですね。もう痩せたい痩せたくないとか関係なく、健康を維持するうえで大事なものだと考えています。とはいっても、運動が苦手だったり嫌いな人もいると思います。そういう意味では、本当にハードルを下げることが大事ですね。
私自身、運動を続けてきて気づかされたのは、運動ってやればやるだけハードルが下がっていくんですよね。最初は2分間の運動がものすごく大変だったとしても、3日後、1週間後には絶対少しは慣れてくるんですよ。競技になると逆にどんどんハードルは上がっていくものですけど、健康のための運動はやればやるだけ慣れて楽しくなる。だからそれを信じて、最初からすごいことをしようとしないで、他人と比べないで、10秒でもいいから積み上げていった先に結果が待っているというところにフォーカスをしていってほしいなと思います」
人生やライフスタイルまで変わるフィットネスの可能性

昨年8月、これまでの活動に加え、オンラインジム「KIUi」を開設。会員向けにオンラインレッスンを配信している。
「コロナ禍でみんなが外出できなくなったことがきっかけで、開設に至ったんですけど、ライブ配信はやっぱり違う良さがありますね。YouTubeを一人で40分見るのがつらかったとしても、ライブ配信の40分はあっという間に過ぎちゃうんですよね。ワークアウト系とヨガ系のレッスンを配信する他に、別の先生を呼んでヨガを配信してもらったり、メンバー同士でのセッションやランニングサークルのような活動をしたりするようになっていて、好評をいただいていますね。
実は『KIUi』には裏テーマがあって、私がサボらないためにやっているんですよ。動画配信だけだと、私も無意識にサボっちゃうこともあるから。私も人間ですから、動画を出しているからって完璧に“習慣マスター”になっているわけじゃないんですよ。だから、私自身の継続のためにやっているという面もありますね。一般的に、レッスンにおけるトレーナーの立ち位置は“教える”なので、必ずしも一緒に動く必要はないかもしれないけど、私は必ず全部やっていますね。だからもう毎回汗だくで(笑)。『KIUi』の名前の由来も“Keep It Up!(続けよう!)”という意味で、やはりここでも継続に対する思いを込めています。
私のライブ配信は毎週日曜の朝なんですけど、この時間帯に起きて運動をするのって、大げさじゃなく人生変わるんですよ。特に社会人だと、週に2日しかない休みの日の朝はゆっくり寝て過ごしたいもの。だけどそこで体を動かすことで、次の1週間も快適に過ごせるんですよね。“人生で初めて続きました”とか“体が引き締まって人生が変わりました”と言われるとすごくうれしいし、続くことが成功体験なんだなと、会員の皆さんから改めて学ばせてもらうことも多いですね」
オンラインという場所で、多くの人とのつながりを広げるのがちゃん。今後の目標について聞いた。
「運動を一生レベルで続けていきたいですね。形や内容を変えても運動を嫌いにならずに続けていきたいというのが目標です。あとは発信者である以上、ライフスタイルもぐちゃぐちゃにならないように、気をつけていきたいです」
発信者から視聴者へ、トレーナーから生徒へという一方通行ではない。“一緒に頑張る”というスタンスが、のがちゃんの人気のヒミツなのだろう。完璧に継続”ができる人間なんて、なかなかいない。必要なのはストイックさではなく、過去や未来にとらわれず、今日の自分を楽しむこと。その積み重ねが、なりたい自分になるカギのようだ。

1994年生まれ。YouTuber。YouTubeチャンネル「のがちゃんねる」ではワークアウト動画を中心に発信しており、チャンネル登録者は86万人を突破。趣味は読書とヨガ。全米ヨガアライアンスRYT200取得。著書に『夢を叶えるマイノートのつくり方』『腹筋が割れる!のがトレ』がある。2020年には、のがちゃんねる主宰オンラインジム「KIUi」を開設する。
Twitter @nogachannel
YouTube のがちゃんねる https://www.youtube.com/c/nogachannel/
みんなが読んでいる記事
-
2024/10/2465歳で新しい仕事を始めるのは遅すぎる、なんてない。 ―司法試験にその年の最年長で合格した吉村哲夫さんのセカンドキャリアにかける思い―吉村哲夫
75歳の弁護士吉村哲夫さんは、60歳まで公務員だった。九州大学を卒業して福岡市の職員となり、順調に出世して福岡市東区長にまで上りつめるが、その頃、定年後の人生も気になり始めていた。やがて吉村さんは「定年退職したら、今までとは違う分野で、一生働き続けよう」と考え、弁護士になることを決意する。そして65歳で司法試験に合格。当時、最高齢合格者として話題になった。その経歴は順風満帆にも見えるが、実際はどうだったのか、話を伺った。
-
2024/02/14年齢による差別「エイジズム」【前編】代表例や対策・取り組みを解説
総務省によると、2023年9月15日時点での総人口に占める高齢者の割合は29.1%と過去最高に達しました。日本の高齢者人口の割合は世界で最高と言われています。高齢者を含め、一人一人が生き生きと活躍するためには、高齢者に向けられるエイジズムの克服が求められます。この記事ではエイジズムについて解説します。
-
2024/04/02縦社会のしきたりは時代遅れ、なんてない。―落語家・瀧川鯉斗が伝える未来を切り拓くための「教わる」姿勢の重要性とは―瀧川 鯉斗
令和初の真打(しんうち)に昇進し、気鋭の若手落語家として活躍する瀧川鯉斗さん。ファッション誌のモデルを務める端正なルックスで世間から注目を浴びている。10代で落語の世界に飛び込んでから真打に昇進するまで14年。長い下積みや修行の日々は決して平坦な道のりではなかったという。「落語が何かも分からなかった」と話す鯉斗さんが、厳しい修行や縦社会のしきたりを乗り越え、落語に情熱を傾け続けられるのは一体なぜなのか
-
2024/04/23自分には個性がない、なんてない。―どんな経験も自分の魅力に変える、バレエダンサー・飯島望未の個性の磨き方―飯島 望未
踊りの美しさ、繊細な表現力、そして“バレリーナらしさ”に縛られないパーソナリティが人気を集めるバレエダンサー・飯島望未さん。ファッションモデルやCHANELの公式アンバサダーを務め、関西テレビの番組「セブンルール」への出演をも果たした。彼女が自分自身の個性とどのように向き合ってきたのか、これまでのバレエ人生を振り返りながら語ってもらった。
-
2023/09/23ルッキズムとは?【後編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。