子育ては自己犠牲、なんてない。―病気と挫折を乗り越えた子育てTikToker竹田こもちこんぶが語る、子どもとの時間が与えてくれるもの―
「子育て」には多大な労力と精神力が必要だ。しかし、そんな苦労を「親はみんな耐えている」「家庭のことを外に持ち出すべきではない」といった既成概念に抑制され、自分の内側にため込んでしまう人も多いのではないだろうか。
竹田こもちこんぶさんはTikTokで人気に火がつき、『R-1グランプリ』への出場やテレビ番組への出演経験も持つお笑い芸人だ。その発信内容は、4人の息子たちを育てる日々の苦労。竹田さんはどのように現在の活動スタイルにたどり着き、なぜ多くの共感を集められるのか? 直接話を伺うため、静岡県富士市を訪ねた。

日々生まれる課題に昼夜問わず取り組む「子育て」。子ども一人ひとりの個性に向き合うことが求められる、正解のない営みだ。当然、そこに伴う苦労は計り知れない。株式会社ネスタの調査(※)によれば、育児をする母親の約86.4%が子育てに不安や悩みを持っているという。
「気をつけて! 子どもに気をつけて!」。おもちゃの銃を構えながら、子育てと戦う漫談を持ちネタにしているのが、4人の男の子の母でありお笑い芸人でもある竹田さんだ。彼女はこのネタでお笑い賞レース『R-1グランプリ』の3回戦に進出。『ぐるぐるナインティナイン』(日本テレビ系列)内の人気コーナー「おもしろ荘」にも出演し注目を集めた。そしてTikTokでは33万人以上のフォロワーを集め、投稿には育児に苦しむ視聴者から共感のコメントが大量に届く。
次世代を担う子どものために親が夢や仕事を犠牲にせざるを得ないケースもある中、芸人として、表現者として挑戦を続ける竹田さん。その原動力はどこにあるのだろうか? 「夫の地元で、嫁いできたんです」と語る静岡県・富士市の自宅で話を聞くと、その人生には挑戦と挫折の歴史があった。
※株式会社ネスタ:【2021年度】「子育ての困りごと」に関するアンケート
子どもとの時間が与えてくれる、かけがえのないもの。竹田こもちこんぶが「子育て」と「表現」を続けられる秘訣
「苦しむなら、“自分が選んだ苦しみ”で生きたい」。闘病の中で見いだした人生の指針
大学時代の竹田さんが情熱を燃やしていたのは「演劇」だった。「目立ちたがり屋だけど引っ込み思案」という性格だった竹田さんが、唯一自分を表現できる場所が舞台の上だったという。
「高校生までは素直に自分を表現できず、斜に構えた性格でした。でも、大学で演劇にどっぷりハマりました。舞台上で役やセリフを与えられれば、思い切って演じることができたんです。初めて生で見る演劇に『こんなに面白い世界があったんだ』と衝撃を受けました。その時から、『楽しいこと、面白いことをいろんな人に伝えたい』と思うようになり、それは母になった今も続いています」
しかし程なくして、竹田さんを病魔が襲う。稽古の一環でランニングをしていた時、経験したことのない体調不良に見舞われた。病院で告げられたのは、甲状腺の病気である「バセドウ病」という診断だった。
「体重が大きく増えたり、眼球が突出してしまったりという症状が出ました。周囲から『整形したの?』など心ない声をかけられたこともあり、精神的に追い詰められた時期でしたね」
竹田さんの病状は思わしくなく、手術に踏み切ることとなる。オペは部分麻酔で行われ、竹田さんは手術中も意識がある状態だったという。その間、極度の苦しみがあったことは想像に難くない。
「手術を受けながら、いろいろな思いが頭を駆け巡りました。そして、こう思ったんです。『今後の人生も苦しい思いをするなら、“自分が選んだ苦しみ”で生きていきたい』と。信じた道を突き進む性格は、この時からだと思います」
この経験は、現在の育児にも生きている。病気の竹田さんに寄り添った母の姿が、今も竹田さんの脳裏に焼き付いているという。
「母は昔から、私に対して『好きなこと、やりたいことをしなさい』と自由を与えてくれる人でした。それに加えて、手術に際しては金銭的な援助を惜しまず、お医者さんにも『あの子の将来のために、どうか後遺症が残らないようにしてください』と頭を下げてくれていたんです。今の私の子育てへの姿勢には、母の影響があると思います」
「夢を諦めて、子育てに専念するつもりだった」。それでも止められなかった情熱
病気から回復し、大学を卒業後も演劇を続けていた竹田さん。ひょんなことから『キングオブコント』に出場するためにお笑いコンビを結成することになった。ピン芸人としての活動も始め、お笑いの道にのめり込んでいく。
「病気を経験した私にとって、ネガティブなことも笑いに昇華してポジティブに変換するお笑いの道は本当に魅力的で、本気で打ち込みました。当時、ある大手芸能事務所の所属を懸けたオーディションを受けて、かなり好感触を得ていたんです。
しかしその時、年齢はすでに34歳。その少し前に結婚もしていましたし、『女性として、子どもを産むタイムリミットも迫っている』と感じていたので、合格できなければここで終わりにしようと決めていました。そして、あと一歩のところで不合格になってしまいました。こうして私は『子どもを産んで育てていく』道へと大きく方向転換したのです」
それまで、竹田さんは東京都、夫は静岡県で働く遠距離夫婦だったが、竹田さんが夫の元へ引っ越した。長男が生まれ、お笑いの活動は中断。本格的に子育てに取り組んでいく。
「子育てを始めて、自分の時間はほとんどなくなりました。次男、三男も生まれて、とにかく怒涛(どとう)の日々。つらすぎて涙が出ることもあります。でも、そんな中でも『表現したい』という欲求は消えるどころか、あふれ出てきて仕方がなかったんです。だから、年に1回の『R-1グランプリ』だけは出続けることにしました」
「竹田こもちこんぶ」を名乗り、抱っこひもで息子を背負いながら漫談をするスタイルはこの時に生まれた。子育ての毎日の中にネタ作りや練習に充てられる「隙間時間」はなく、熱意だけで活動していたという。
「生活の全ては子どもとの時間。ネタは『R-1グランプリ』の会場に向かう新幹線の中で考えて、ぶっつけ本番で披露していました。そのネタで、プロ芸人の中でも難関の一つである『R-1グランプリ』3回戦まで進出できたんです。ただ、その先には進めなくて。本当に悔しかった」
その悔しさをバネに、竹田さんは新たな挑戦を始める。TikTokでの発信だ。そのきっかけになったのは、子育てと芸人活動に全力で挑む竹田さんの姿に心を打たれた友人たちだった。
@takeda_komochikonbu #子どもに気をつけて #おもしろ荘フルver #本日も家事育児お疲れ様です #4兄弟の母 #竹田こもちこんぶ ♬ オリジナル楽曲 – 竹田こもちこんぶ
「私はSNSに疎くて、TikTokが何なのかもよくわかっていませんでした。でも、友人が『あなたのネタは、同じように子育てに励む人に届けるべき。賞レースよりも、SNSで発信したほうがいい』と強く勧めてくれて。私自身、もっと表現したいという気持ちもあり、『そこまで言うなら』と始めてみたら、子育て中の親御さんたちからたくさんのコメントをいただけたんです。
その中には、私よりももっとつらい環境で子育てをしている人がたくさんいました。そしてある時、私の動画のコメント欄が、そうした親御さん同士がやりとりして、励まし合う場になっていることに気づいたんです。『表現したい』という欲望を抑えきれずに始めたアカウントが、自分と同じように子育てに苦しむ人の役に立つならそれも悪くないと思い、続けていくことにしたんです」
自分にうそのない発信をしたい。育児とTikTok活動、そこから感じたこと
子育ての中でも抑えられなかった「表現への欲望」がきっかけだったTikTok。それが、竹田さんの予想をはるかに超えた広がりを生んでいく。
「とある児童虐待防止活動をしている団体が運営するYouTubeチャンネルから、いきなり出演依頼があったんです。『児童虐待をなくすには親が子育ての悩みを打ち明け、ストレスを発散することが重要。竹田さんの活動は、そのお手本になる。うちのチャンネルで話してほしい』と。
私自身は、日本社会の子育て環境を改善させたり、他の人の子育てを支援したりできるほど立派な人間ではないと思っています。でも、私がやりたくてやっている活動を、そうした支援に利用してもらうのはうれしいことだと心から思います」
竹田さんの自宅の至る所に、子どもたちが描いた絵や工作が飾られている
そして、TikTokで子育てを発信することは、親たちに対してだけではない効果もあるという。
「TikTokは若い世代の利用者がとても多いSNSです。私の動画のコメント欄にも、『中学生なのに生意気言ってすみません』と言いながらコメントしてくる子がいたり、息子たちと行った公園で『TikTokをやってる人ですよね』と声をかけてくる子がいたりします。
子どもの立場からしても、親の本音は家庭ではなかなか聞く機会がないはず。それに、好きでよく見るSNSで得る情報は、実生活で大人から聞く話よりも頭に入りやすいのではと思います。そういう意味でも、私がTikTokをやる意味はあるのかなと思っています」
演劇、お笑いでの挫折を経て、子育てと独自の表現活動にたどり着いた竹田さん。改めて、竹田さんが苦しみ続けたからこそ得た気づきを聞いた。
「子育てによって、表現者としても成長させてもらったと思っています。私は役者としても芸人としても、どんなに頑張っても『一流』にはなれませんでした。でも、子どもが生まれて、時間と精神の余裕が全くなくなって、それでも『表現したい』という欲求があふれ出てしまう状況になって初めて、人に伝わる表現をすることができるようになった。それは、作られた台本やセリフではなく、子育てのリアルな叫びをそのまま発信したからだと思います。
これからも、自分にうそのない表現をしていきたい。それが、社会の中で同じように悩む人がいることに周囲が気づいたり、支援の輪が生まれたりするきっかけになればと願っています」
その時、「ああ、私たちは家族なんだ。全員心がつながっているんだ」と実感させられました。そういう瞬間は、子どもたちから「お金ではない大切な時間」を受け取っていると感じます。
もし芸人としてもっと売れれば、東京で刺激的な現場に呼ばれて、報酬ももらえる。一方、「子育ては一銭にもならない」「子どものためには仕事や夢を犠牲にしなければならない」と言う人もいます。でも、私はそうは思わないんです。子育てって、自分の全てを子どもに捧げるだけのものじゃない。子どもとの時間から、親もかけがえのないものをもらっているんです。子育てに苦しんでいる人や、これから子どもを授かるかもしれない人には、ぜひそれを知ってほしいなと思います。
取材・執筆:犀川 及介
撮影:服部 芽生

1978年、千葉県生まれ。静岡県在住。明治大学文学部文学科英米文学専攻卒。劇団員、お笑い芸人を経て結婚。4人の息子に恵まれる。現在も芸人としての活動を続けながら、おもにTikTokなどのSNSで活動。子育てあるあるを中心とした動画を発信し、多くの共感を集めている。
TikTok @takeda_komochikonbu
Instagram @takeda_komochikonbu
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