自分は「偏見」を持っていない、なんてない。
ユニリーバ・ジャパン(以下、ユニリーバ)は2020年春より、採用選考において顔写真やファーストネームなど、性別に関わる情報の取得を廃止した。無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)を排除するための「ブラインド採用」だ。社内のブランドチームから提案を受け、施策の導入をリードしたのが同社の人事総務本部長・島田由香さん。人や組織と関わり続けてきた島田さんに、私たちはバイアスとどう向き合っていけばいいのかを聞く。

世の中にはびこる「男だから〇〇」「女だから〇〇」といった偏見は、採用選考の場でも根深い問題だ。意識なく差別してしまうアンコンシャスバイアスもあり、公平を期するのはなかなか難しい。そこで、履歴書から性別が分かる情報を排除することで色眼鏡を外せれば……と動きだしたのが、ユニリーバだ。ブランドチームと協力して施策を推進した人事総務本部長の島田さんは、この制度にどんな思いを込めたのか? 導入時の苦労も含め、バイアスと向き合うために企業や個人ができることを探る。
バイアスを完全になくすことはできない。
でも、正直に伝え合い、仕組みを整えていくことで社会は変わるはず
誰もが心地よくいられる組織をつくりたかった
ベンチャー企業や外資系企業で、長らく「人・組織」に関わるキャリアを積んできた島田さん。2008年からはユニリーバにて、働く人たちが一番心地よくいられる環境をつくりたいという思いで人事の仕事に取り組んできた。それは、社会にはびこるさまざまなバイアス(偏見)と向き合って、状況を改善していく作業でもあった。
「私自身は、とても恵まれた環境で働いてきたと思います。新卒入社したベンチャーではやる気さえあればどんどん仕事をやらせてもらえるし、外資系では『向かう方向は同じであってもいかに人とは違う意見が出せるか』が大切でした。多様であることが尊重される風土だったため、女性であろうと、子どもを産もうと、十分に心地よくいられました」
ただし、違和感を覚える場面がまったくなかったわけではない。
「ある時、役員会で参加者8人のうち女性が私1人だけだったんです。多い時には女性が3人いるタイミングもあったんですが、何度かの入れ替わりを経て、その時はそういう性別構成でした。
すると、会議中になんとなく『私VS私以外』みたいな雰囲気を感じる瞬間があって……意見が合わないとかじゃないんですよ。なんとなくの感覚なんです。もしかすると私がいない場で事前に話が進められていたのか、『この議論に私は含まれていない』という感覚を覚えたんです。ただ、私以外の方々に悪気があったわけではありません。だからこそ、正直に『みなさんは数の上でのマイノリティになったことがないのかもしれませんが、私はなんとなく疎外感を感じています』とその場で伝えました。同じ仲間なのだから伝えておく必要があると思ったんです。
ちなみに、その後また女性の役員が増えたんですね。そうしたらなんだか安心できて……でも『女性がいると安心できる』という私の感覚も、ある意味また別の“無意識の偏見”だなと。だから本当に、バイアスに関わるトピックは難しいなと感じました」
難題だけれどもそれに悩まされる人がいる以上、放置しておくわけにもいかない。島田さんの耳には、多くの苦しみが聞こえてきた。
「特に、かつての制度のまま変わっていない企業に勤める女性たちには、いくつかの共通した苦しみがあるように感じました。例えば、育児休暇を取得しているあいだに自分の居場所がなくなってしまったと感じていたり、子育てしながら思いきりは働けず、辞めざるを得ない状況になってしまったり、出社後に過剰な気遣いを受けて、これまた思うように仕事ができないといった悩みがそうです。そして、そういう先輩を見てきた若い世代が『そうなりたくないから仕事は休めない。だから産めない』と感じる、二次的な問題もありました」
誰もがその人らしくある“Be yourself”の考え方
全ての人は、違って当たり前。だからこそ個人の状況や個性にかかわらず、誰もが自分の強みや可能性を伸ばせる組織をつくらなければならないのだと、島田さんは語る。ユニリーバは、まさにそうした空気のある会社だ。“Be yourself(あなたらしく)”を大切にする企業文化のもと、お互いの個性を尊重し合っている。
「ユニリーバでは何かを決める時、リーダーが『Aがいい』と言っても、そのまま決まることはありません。別の意見も踏まえて、全員が納得するまでディスカッションをします。もちろんカオスになるけど(笑)、そのカオスこそ“Be yourself”なんですよね。大きな方向さえ一緒であれば、みんなそれぞれのやり方で向かえばいい。誰もがその人らしくあってほしいし、自分も自分らしくありたいと思う私にとってはベストな場所だなと、心から感じています」
さらに一人ひとりの個性に寄り添っていくため、社内改革にも取り組んだ。特に採用では、通年採用に切り替え、面接に携わるマネジャー教育を通して、採用にかける時間の在り方を変えていった。
「ユニリーバの採用では、応募してくださった方々の良さや強みを存分に聞き、シェアして、感じたことを真摯(しんし)にフィードバックしています。せっかくの面接という機会なのだから、人生がより良く変わるきっかけになるような時間にしたいと考えているんです」
筋の通ったアクションが、世の中の風向きを少しずつでも変えていく
顔写真やファーストネームなど、見た目や性別にまつわる情報を履歴書から排除する「ブラインド採用」を導入したのも、もっともな流れだ。島田さんは「その仕事に情熱を持って取り組んでくださる方や、世の中に良いインパクトを与える可能性を持った方なら、本当は良い意味で“誰でもいい”はずです」と、ほほ笑む。
「この施策が始まったきっかけは、同社のビューティケアブランド『LUX』チームからの申し出でした。チームの調査によると、全国の企業で採用に携わる人々のうち約4人に1人が『採用過程において、男性と女性が平等に扱われていない』と感じていることが分かりました。さまざまな髪のダメージと向き合ってきたLUXだからこそ、これからは社会のダメージもケアしていきたい。そんな思いを込めて、新卒採用から変えたいのだと相談を受けたんです。ブランドが掲げている目標を、具体的なアクションで世に投げかけていくことは、とても素晴らしいと感じました」
ブランドメッセージに沿ったアクションを増やす流れは、社内で数年前から強まってきていた。しかし、多くの人が関わる採用方法の変更となると、一筋縄ではいかない。特に難航したのは、人事部内での合意を得ること。顔写真はともかく、履歴書からファーストネームをなくしてしまうと、応募者の情報管理が非常に難しくなる。例えば、何人もいる「佐藤さん」をミスなく見分け、スムーズにやりとりするのは現実的に不可能ではないか? 採用エージェントにそんなオーダーをしたら、情報をマスキングする手間がかかる分、紹介が少なくなるのではないか? 議論は紛糾した。
「問題は山積みだったけれど、私はそれでもやったほうがいいし、やるべきだと思っていました。人事部内から『島田さん、それはきれいごとですよ。現場を分かっていなさ過ぎる』と言われたこともあります。だけど、私たちはじゃあどう実現するかを考えるべきだと思ったんです。
最終的には採用エージェントの方々と直接話し、LUXがこの施策にどんな思いを持っているかを伝えました。そうしたら、その場にいた全員が賛同してくれた。『もちろん手間はかかるけれど、これで世の中が変わるのであれば、やってみたい』と言っていただけた時から、ぐっと人事部内での風向きが変わったんです」
バイアスはなくせないもの。だったら、素直に向き合えばいい
ブラインド採用の導入によって、ユニリーバの採用状況がさほど大きく変わることはなかった。しかしそれよりも、JIS規格にも顔写真欄のない履歴書が登場したことが、島田さんはうれしいという。
「バイアスがかかるのは、採用だけではありません。評価などにも影響してくるのは、もう防ぎようのないこと。だからこそその振れ幅を織り込んで、1人の評価を複数人で担うなど、仕組みのほうを整えていくしかありません。完全にはなくせないのだから、誰にでもバイアスがあると自覚することが大切だと思うんです」
自分で薄々気付いているバイアスもあれば、まったく自覚していないアンコンシャスバイアスもある。しかし、それを指摘し合える環境なら、むやみに恐れなくてもいいはずだ。もちろん伝える時には『あなたへの攻撃ではなく、その考え方に違和感がある』という姿勢を示すのも大切。違和感を覚えた時に声を上げて、言われたほうも素直に受け入れられる組織であれば、少しずつでもバイアスは減っていく。
「それから第三者の立場ではなく、もし自分自身が周囲のバイアスによって苦しんでいるなら、もっと自分の声を聴いてほしいと思います。まわりの声ばかり優先しているから、枠にはめられて、どんどんつらくなっちゃう。自分を信じてみてください。怖いかもしれないけれど、自分の声をちゃんと聴いて動ける人のことは、誰かが必ず見ていてくれるから」
誰もが自分らしく働けるように――。社会のバイアスに押しつぶされず、正しく輝けるように。島田さんは今日も自身の声に耳を傾けて、社会に真っすぐに向き合いながら進んでいく。
取材・執筆:菅原さくら
撮影:内海裕之

ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社人事総務本部長。慶應義塾大学卒業後、パソナを経て、米国ニューヨーク州コロンビア大学大学院にて組織心理学修士号取得。日本GEにて人事マネジャーを経験し、2008年ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス入社。R&D、マーケティング、営業部門のHRビジネスパートナー、リーダーシップ開発マネジャー、HRダイレクターを経て現在に至る。
Twitter @yukashimadaHR
Instagram @yuka_shimada2008
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