家庭の問題は夫婦だけで解決しなきゃ、なんてない。【後編】

犬山紙子

夫婦や子育ての問題を解決するワクチンは「口に出す」「人に頼る」ことが重要と語る犬山さん。だが日本においては「察する」ことや「空気を読む」ことが重要とされ、気持ちを口にしにくい。またカウンセリングも日本ではまだ一般的ではないせいか、第三者の専門家にも悩みを打ち明けにくい。そのようなものに対する様々なハードルを下げる方法はあるのだろうか?

今年に入ってのコロナ禍は、多くの人の生活の在り方を変えたといわれている。その社会的な変化は「働き方」だけに止まらず、夫婦の関係や子育てといった家庭内の身近な事柄にも影響を与えているはずだ。

今年3月に「すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある」(扶桑社新書)を出版したばかりで、プライベートでは母親という顔も持つ犬山さんはこの状況の中で、今の世の中の動きをどう感じ取ったのか。今回は彼女自身の活動経歴を辿りながら、これからの夫婦間の関係や子育てとの関わりを中心に、今彼女が考えることについて伺った。

自分が悩んだときに、社会ではどういう解決策があるんだろうって知識として持っておいて、そこから考えていく

「やっぱりカウンセリングを受けた人の体験を聞いてとか、友人が受けたとかそういったところで身近なものになって、じゃあ行ってみようかっていう人が多いと思います。私の場合は海外ドラマが昔好きでよく見てたんですよ。海外ドラマの人たちって、もめるとすぐにカウンセリングに行くじゃないですか。それでこういう使い方するんだっていうのが頭にあったので、それほど抵抗なく行ってみたんです。

しかも全然相手に気を使わずに、誰にも知られたくないこと言えるっていうのがすごいし、資格を持つ何百人も診てるプロが、これまでの経験則からこうした方がいいとか、あなたにはこういうところがあるとか言ってくれるので、その力って欲しいじゃないですか。

あとカウンセラーは傾聴ができる人たちなので、絶対私たちの意見を否定しない。なのでそういった専門家に頼ることは、本当に人生で『ヤバい』ってなったときからではなく、そうなる前から必要だと思うんですよね」

専門家の存在は夫婦間の問題にも有効だが、そのような専門家へ相談することは一般的にはハードルが高く感じられることも多い。他にも解決の糸口はあるのだろうか?

「傾聴のスキルは夫婦間にも使えます。夫や妻が何か言ってるなとか、そういうときに相手の話をちゃんと傾聴するだけでも全然違う。実は私は傾聴が全くできませんでしたが、勉強することで変わることができました。そしてカウンセラーの先生以外にも、自分の話を傾聴してくれる友人ができたっていうのも大きいです。友達が傾聴してくれて『私、今まで傾聴ができてなかったの、めっちゃ恥ずかしい』みたいな気持ちにもなったり。まずは自分が悩んだときに、他の方々はどうしているとか、社会ではどういう解決策があるんだろうって知識として持っておいて、そこから考えていくとそれがワクチンになる。つまり知識はワクチンになるということです」

子育てをする母親が「孤育て」に陥らないために

夫婦には子育てという大きな課題があるが、世間では「ワンオペ」「孤育て」というような言葉で語られることも多い。そういった孤独感を乗り越え、コロナ禍以降もこの変化をポジティブに捉えて子育てに向き合うにはどうしたらよいのだろうか。

「これも本当に環境によって違うと思うんですけど、子育ては一人ではできないので、他者の力を借りることが大事。それがパートナーだったりとか地域や行政だったりとか、対象はさまざまですが、一人で抱え込まないことがその後ポジティブになるためには必要です。『人に頼ることは甘え、親なら一人で全部やれて当たり前』のような考え方は、自分が笑顔になれないから子どもも笑顔にならない、という負の連鎖を生むもの。今、本当に人に頼ることの大切さを痛感しています。

そしてSOSを出すのって訓練しないとできない。例えば『今すごく子どもの相手が大変だから見てて』って友達に言えますか? 普通はなかなか言えないですよね。それをちょっとのわがままでいいから、まず言う訓練を今のうちからしておく。これは自分が人にそれをやると、そのうち相手も自分に頼ってくる。つまり相手のことも助けられるんです」

どうやら子育てで陥りがちな孤独感にのみ込まれないためのワクチンは、身近なところにもあるようだ。

「今は難しいですが、友達が子どもに会いに来てくれるだけで、心が本当に楽になるんです。子どもがいる中に友達が来てくれると、親は大人としての会話ができるし、子どももすごいうれしそうなんですよね。子どもって私と夫の価値観を一番もらうと思うんですけど、いろんな人から多種多様な価値観をもらってほしいから、私の友人だったり、おじいちゃんおばあちゃんだったりとか保育士さんとかと接することは、子どもにとってすごくいいことなので、ただ遊びに来てくれるだけですごくうれしい。

そういうことを言い出せない人の為に子ども食堂とかがあると思うんですけど、コロナ禍のせいで子ども食堂も開けないというところがあったり。周りに頼れる人がいる環境を、子育てする人のために整えることが本当に急務なんですけれど。

そして公的な支援は恥ずかしがらずにまず受けるのが大事。今回のコロナ禍で公的な支援を受けた方もたくさんいると思うし、今回は特別定額給付金をほぼ国民全員がもらっているので、公的な支援との距離が近くなって、そういったものを申請するハードルが下がったと思います。

そこで生活保護に対するバッシングとか、自己責任論とかも話題になりますが、そのようなものはなくしていかないと。それはそのまま思いつめちゃうとか、児童虐待などにつながってしまいますよね」

聞く側の傾聴という能力、そして悩みを抱える側のSOSを発信する力の双方が大事だという犬山さん。

彼女は守られるべき子どもに対する支援活動も行なっている。その活動のきっかけはなんだったのだろう。

「子どもを誰が守るべきかって、大人ですよね。それに対して『私が何かしたか? 何もしてない』って気づいたんです。自分一人が動いても絶対何も変わらないだろうなっていう諦めだったり、つらすぎて見たくないという気持ちだったりとか、そういうのがあって今まで何もしなかったんです。でも見て見ぬふりしている方がきつい。もちろん子どものためでもあるんですけど、自分のためっていうところがすごく大きくて。自分をより好きでいるためには、みたいな。どちらかというとやらせてもらっているというのが正しいニュアンスです。

それで始めたら、けっこう同意してくださる方たちがたくさんいて。大人が過剰に代弁するぐらいじゃないと、子どもの権利はなかなか守れない。

11月は児童虐待防止月。今年も社会的養護が必要な子どもを支援する団体さんへのクラウドファンディング「こどもギフト」を実施する予定です。

そしてこれから動こうと思っていることですが、例えばおむつを買うとその売上金の一部が児童虐待防止のためにオレンジリボン運動*とかに寄付されるとか、『つらい時はここに相談してね』みたいな窓口とか、つらいときのためのライフハックがついているとか、そんなおむつを考えてます。この話をどこかの企業さんに持っていくために、いま企画書を書いてるところ。まだ全然『できたらいいな』の話です。
*オレンジリボン運動….「子ども虐待のない社会の実現」を目指す市民運動

そしてこういった活動をするにあたって、チームを組んでいます。『こどものいのちはこどものもの』っていう名前で、私と眞鍋かをりさん、福田萌さん、坂本美雨さんとファンタジスタさくらださん、あと草野絵美さんでやっています。呼びかけに対してみんな即レスで『やる』って言った人たちです」

今年に入っての社会の急激な変化により、経済的な悩みを抱える人、夫婦関係や子育てで悩んでいる人は多い。そんな状況に陥ったとき、大切なこととは。

「まずはSOSを出すこと。急に収入が安定するわけでもないんですけど、やっぱり不安って一人で抱えると本当に押しつぶされる。誰かと共有するとそれをどうにかするための情報が集まってくるので、『こんなの人に言っても仕方ない…….』じゃなくて、本当に軽いものから重いものまで、何でも誰かと共有すること。

それには悩みを共有できる信頼のおける人が必要。もしそういう人が周りにいなかったら行政に相談すること。行政をフルに使うことは私たちの権利として当然なので堂々と頼る。それらができたときにはちょっとだけポジティブになれるはずです」

どんな問題にも解決策は必ずある

その解決策にたどり着くためには、まずはSOSの発信をすること。そしてそれをシェアできる味方をつくること。悩みをシェアすることで、それを解決するヒントが少しずつ集まってくる。そして余裕があれば、自分が周囲のSOSを受信する力も備えておく。

そんな言葉を明るく柔らかい口調で語る犬山さん。そこには100年に一度とも言われるこの状況を、ポジティブに乗り切るためのメッセージがたくさんちりばめられていた。

〜家庭の問題は夫婦だけで解決しなきゃ、なんてない【前編】へ〜

自分の不安を誰かに共有する一方、誰かの不安を一緒に共有することで自分が誰かのためにもなれる。そういったことも自分のその後のためのポジティブな経験になるはずです。まずは「周りに誰かしんどい人はいないかな」って考えて、その人にLINEしてみるとか、そんなちょっとしたことから始めてみるのもいいかもしれないですね。

編集協力/IDEAS FOR GOOD、撮影/須合知也

 犬山紙子
Profile 犬山紙子

1981年、⼤阪府⽣まれ。イラストエッセイスト、コラムニスト。⼤学卒業後、仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職し上京。東京で6年間のニート生活を送ることに。そこで飲み歩くうちに出会った女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めるとネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで粛々と活動中。

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