家庭の問題は夫婦だけで解決しなきゃ、なんてない。【前編】
イラストエッセイストとしてデビューし、現在コラムニストやイラストレーター・漫画家として多数の著書を出版されている犬山紙子さん。現在はTVコメンテーターやタレントとしても活躍し、TV、ラジオ、雑誌、Webと、その活動の幅を広げている。そんなマルチに活躍する犬山さんだが、コロナ禍によって大きく変わりつつある今の社会をどのように捉えているのだろうか。
連載 家庭の問題は夫婦だけで解決しなきゃ、なんてない。

今年に入ってのコロナ禍は、多くの人の生活の在り方を変えたといわれている。その社会的な変化は「働き方」だけにとどまらず、夫婦の関係や子育てといった家庭内の身近な事柄にも影響を与えているはずだ。
今年3月に『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社新書)を出版したばかりで、プライベートでは母親という顔も持つ犬山さんはこの状況の中で、今の世の中の動きをどう感じ取ったのか。今回は彼女自身の活動経歴をたどりながら、これからの夫婦間の関係や子育てとの関わりを中心に、今彼女が考えることについて伺った。
承認欲求や成果に代わるものへ
世の中では少し前から「働き方改革」の名のもとにさまざまな働き方が推奨されているが、コロナ禍まではオフィスに出勤し、副業は禁止といった昭和型の働き方がまだまだ主流だった。それがこのコロナ禍で一気に揺らいでいる。
犬山さんは多数の著書を出版したり、多方面にわたるマルチな活動をしていることで知られているが、そのような働き方にたどり着く経緯はどんなものだったのだろうか。
「けっこう遅咲きなんです。22歳の新卒のときに仙台の出版社で雑誌の編集者を1年半やって、その後は母の病気が難病だったのもあり、家で介護するために退社しました。29歳まで介護をかなりメインにやっていたんですが、家にいながらできて、かつ自分のしたいことを目指そうと思いました。それで漫画家を目指すことに。出版社への持ち込みなどを経て、29才でイラストエッセイストとしてデビューしました」
デビュー後すぐにTVでコメンテーターなどもこなすマルチな働き方を実現した犬山さん、何かそれまでとその後で大きく変わったことはあったのだろうか。
「出す前は本さえ出してしまえば、自分の中にある承認欲求などいろんなものが成仏するのかなと思っていました。でも出版した後も全然成仏しなくて、むしろ加速するというか。今度はもう次の本が出せないかもしれないという恐怖もありました。
なので自分の価値を、本を出すこととか、そういった成果に結びつけてしまっていたっていうのは今になって思います。本を出した後も変わらず自分は何者でもない。果たして本当に素晴らしい作品だったりとか、素晴らしいまではいかなくても読んだ人がちょっとほっとしたり楽になったり、みたいなものが書けているのかという自問自答が始まる。
まだ承認欲求も全然あるし、成果も気になるんですが、今はそうじゃない方へシフトする過渡期。でもそこに対しては、結婚後に夫の考え方に感化されてきています。それは自分の作品を好きな人が『好き』って思って読んでくれて、その人に届けばそれでいいという考え方。
妙に焦ったりすると自分の大好きな人を応援できなくなってしまうとか、ちょっと嫌なところもあるなっていうのを感じているので。この先の人生長いですから、暮らしていく中でなるべく自分が楽に、好きなことを続けていけるためのマインドづくりのような、そんな感じの過渡期ですね」
コロナ禍で可視化されたもの
犬山さんの考え方にも影響を与えたという、結婚後の夫婦という関係性。
そして1児の母である犬山さんにとって、その夫婦関係も含めて、このところの社会の変化によって変わりつつあるものがあるという。
「夫がまさに音楽のベースを担当しているので、それに関連する仕事が軒並みなくなってしまって。真横で『あ、こんなに仕事ってなくなるんだな』っていう感じで見てたんですよ。自分の大好きな仕事がどんどんなくなっていくのは、やはり精神的にもつらいことだと思うんです。自分の思いだとかそういったものの表現の場とか機会、そういうものが減っていく。
音楽だけじゃなくて、一見必要不可欠じゃないと思われがちな『文化』っていうものがどんどん淘汰(とうた)されていってしまうのかなっていう不安がこのところ強くて。影響を受けてない人たちの分まで割を食っている人がいる。なぜか血を流さなきゃいけない人たちと、さほど血を流さない人たちに分かれているという印象です。
社会を見ていても、お昼の仕事とか堅気な仕事に対して、夜の仕事や、芸術だとかには『守らなければいけない』という意識が低いように感じて。どの仕事でも生活が苦しくなるのには変わりないのに。そしてそれは私たちの生活も確実に貧しくなることなんじゃないでしょうか。だって大好きな音楽や本、映画だったりとか、そういったものがない世界って本当に恐ろしいじゃないですか。生きるために必要なものなんですよね、文化って。
ちなみに夫の場合は音楽以外に漫画を描いたり、エッセイとか文章などの収入があるのでまだやっていけてますが、今回のコロナ禍で不安を抱えてしまった人たちが多いと思うので、リスクの分散という意味での副業(複業)を始める人も増えそうですね。
そしていい面についてというか、やっとという面では家事育児を多く担当していた人の仕事がこのコロナ禍で同居相手に可視化されたことは大きい。ないことにされてる家事っていっぱいあるじゃないですか。『トイレのあそこをちょっと拭いた』とかも家事。会社に行っちゃったら家の中は見えないし、見えないものって優先順位が低くなっちゃう。家事は会社での仕事と同じく大切なことだし、つらいし、大変。それが見えることで家事育児の分担もコロナ前よりは進むのかなっていう印象があります」
コロナ禍によりパートナーや夫婦間の関係や分担が変わり始めた現在。それらと切り離すことができない親子関係や子育てについては、どう変わっていくのだろうか。
「私は子どもといる時間のベストバランスっていうのは結構手探りなんです。働きながら『仕事は夕方に入れたい。でもここに仕事を入れたら子どもといる時間が確実に減るな』とか、そういう戦いの繰り返しでした。でもリモートが多くなったので、その時間を使って子どもと家に居れるのはめちゃくちゃうれしい。メンタルの調子がすこぶる良いんです。
子どもと毎週一緒に居られてないな、みたいなこれまで常にあった罪悪感が消えていたりとか。子どもともたっぷり一緒に居ながら、仕事量もそれほど変わらずやれている。そしてプライベートの時間もちゃんとある。
もちろん父親にもあるとは思うんですが、母親が育児に対して抱える罪悪感ってすごいんですよね。保育園に預けるだけでも『自分が悪いんじゃないか』と思ったりとか、取材の中でも常に罪悪感を感じている人が多いと聞きます。このタイミングで自分の仕事量が変わる中で、その罪悪感との付き合い方や『これくらいの仕事量がいいんだ』というような気づきの機会になるのではないでしょうか」
もちろん今回の変化にはポジティブな面がある一方で、ネガティブな面も存在する。
「やっぱり格差を感じてしまいますね。例えば今年8月に入ってから自殺者の数が増加しているんですが、その中での女性の割合が増えているらしいんです。確かなことは分からないですが、やっぱり非正規雇用の割合は男性よりも女性の方が多いから、貧困などにつながっての自殺者の多さなのかな、とか考えることがあります。なので本当にこのコロナ禍の中で仕事を失うかもしれない、子どもを食べさせていけないかもしれないって追い詰められている人たちにとってみれば、とてつもないストレスだと思います」
夫婦や子育ての問題を解決する「ワクチン」
犬山さんは、今回の新刊の中で、そのような夫婦間の課題の中で心の問題も含めて取り上げながら、それらの問題を解決するヒントを「ワクチン」と表現している。夫婦の問題を治すワクチンとは何だろうか。
「夫婦の点で言うと、お互いが味方同士なのか敵同士なのかということで、全然変わってくると思うんですね。例えば相手に対して不満があったときに、『なんで私ばっかりこんなにやらなきゃいけないんだ』みたいな、そういう積み重ねの中で敵対しがち。
そうなったときって人が近くにいても孤独なんです。敵が周りにいると、一人のときより孤独感がより強い。今抱えている私たちの不安って絶対一人で抱えちゃダメなもので、誰かと共有することが大事。共有するだけで心のストレスの具合がちょっと軽減される効果があるので、絶対に一人で抱え込まない。そのためにはパートナーと味方同士になっていく必要があるんですよ。
でも一度険悪なムードになると、味方同士になるってめちゃくちゃ難しい。それでもいったん、相手が好きな飲み物でも入れて、『今ある不安を共有したい』という話をする。そして最後に『私はあなたの味方だから。お互いに私たちは味方ですよ』ってことをまず言い合う。そこから主題を話し合うんですね。いろいろなやり方はあるはずですが、味方同士で共有して問題を一緒に解決していくっていうチーム感みたいなものを、お互い意識的に口に出すことがすごく大事だと思います」
〜家庭の問題は夫婦だけで解決しなきゃ、なんてない【後編】につづく〜
編集協力/IDEAS FOR GOOD、撮影/須合知也

1981年、⼤阪府⽣まれ。イラストエッセイスト、コラムニスト。⼤学卒業後、仙台のファッションカルチャー誌の編集者を経て、家庭の事情で退職し上京。東京で6年間のニート生活を送ることに。そこで飲み歩くうちに出会った女友達の恋愛模様をイラストとエッセイで書き始めるとネット上で話題になり、マガジンハウスからブログ本を出版しデビュー。現在はTV、ラジオ、雑誌、Webなどで粛々と活動中。
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