高齢者なら持ち家でなきゃ、なんてない。
株式会社R65の代表取締役、山本遼さん。2012年に愛媛大学を卒業後、不動産会社に就職。その後独立し2016年に法人化した。現在、12棟のシェアハウスや日替わり店長のスナックを運営する傍ら、高齢者も入居可能な賃貸住宅の取り扱いに取り組んでいる。「高齢者の住まい探し」には既成概念が存在するというが、それは一体何か。また、その既成概念を取っ払うために山本さんは現在、どんな取り組みをしているのだろうか。

2018年12月、全国宅地建物取引業協会連合会が会員に対して高齢者への賃貸住宅の斡旋に関する調査を行ったところ、高齢者への斡旋を「積極的に行っている」と回答した事業者はわずか7.6%。「高齢者の諸状況により判断している」が56.1%、「消極的」が11.5%、「行っていない」が24.8%と、高齢者の入居に対して前向きでない回答が大半を占めた。高齢化が進む日本で、高齢者の賃貸契約に関する取り組みや意識は依然として消極的なのが現状だ。山本さんが「高齢者の住まい探し」を取り巻く状況や既成概念を意識するきっかけはなんだったのだろうか。
「高齢者だからこう」という決めつけは意味を成さない
2016年にR65不動産を法人化した山本さん。どのような経緯で法人化したのだろうか。
「大学を卒業した後に就職した不動産会社が、ご高齢の方との賃貸契約をお断りしている、それを知ったことが起業を決意した一番のきっかけでした。会社員2年目のある秋の日のこと、80代の女性が家を借りるためにご来店されたのですが、話を聞くとそれまで不動産店を散々まわり、僕が勤めていた会社で5軒目の訪問だった。というのも、多くの不動産会社はご高齢の方と賃貸契約をしない。その事実を知ってとても衝撃を受けました。その女性はすごくお元気な方なのに、なかなか家を借りられない状況だった。実は、家または部屋を貸す側からすると、高齢者が賃貸契約する際に、孤独死や認知症、年金が少なくなるなどの理由から“家賃が払えないんじゃないか”という懸念があるようなんです。僕はこの現状を知り、当時の上司に『高齢者向けの不動産をやりましょう』と提案しましたが、課題がいろいろとあるため事業としては成り立たないと反対されてしまったんです。それなら自分でやってみようと起業をしたんです」
山本さんはさっそく高齢者の住まい探しを始めたが、そこには既成概念が存在していた。さらにそれが、高齢者の暮らしに少なからず影響をもたらしてしまっているという。
「そもそもですが、高齢者は人生における選択肢が少ないです。高齢者が何かを発言していてもなかなか周りの人に聞いてもらえないことがあるし、それもあって当事者として自分の強い意思を発信してくれる人が少ないイメージがあります。でも実際に65歳くらいの人や80代の人とお話ししても、言っていることは僕らとあまり変わりません。なのに、高齢者は頑固だとか凝り固まっているという既成概念的なイメージから年代を越えて意見を互いに交わす機会を奪われてしまっている。そのため当事者として高齢者の発信が他の世代に届きにくい。結果として、美化されたもの、事件性のあるものぐらいしか高齢者の暮らしは表に出てこない。でも、賃貸を借りているご高齢の方って600万人くらいいらっしゃるんですよ。東京の人口の半分くらいの人数。賃貸を借りている高齢者がそんなにたくさんいるのに、賃貸を借りようとする高齢者って変な人なんじゃないか、というふうに思われがちな部分がある。そういうところが高齢者の住まい探しを阻む一番の理由なんじゃないでしょうか」
年代を超えて、賃貸のあり方も変わっていかなければいけない
起業後、高齢者向け賃貸住宅を取り扱うために動き始めた山本さん。どんなことから取り組んでいったのだろうか。
「まずはご高齢の方を受け入れてくれる大家さんを探すところから始めました。なかなか見つからず苦戦しましたが徐々に理解をいただけるようになりました。同時に、大家さんから『孤独死のリスクにどう向き合うか』という質問を多く頂くようになりました。今は見守り機器を付けて孤独死などに対応できるようにすることと、保険で孤独死の損害をカバーできるようにする、という部分に力を入れています。見守り機器は、特にプライバシーに配慮し、自分自身が使っても気にならない、という点に注意しています。たとえば、これまでの賃貸では子どもが親を見守るためのものが多かったんです。監視カメラや生活動態がはっきりわかるものを付ける、というようなこと。でも、常に誰かに見られているって誰でも抵抗があるじゃないですか。なるべく賃貸向けにアレンジしたものが必要だなと思いました。そこで100社くらい見守り機器会社の方に会って、納得のいく2社くらいから機器を導入しています。賃貸の保険は既製品を使っているので従来と大きな違いはないんですけど、周りの大家さんはすでに高齢者の方の入居を受け入れているので、普通の保険料率とは違う特別なものを作っていただいています。保険屋さんも孤独死などに関するデータなどを持っていないので、今までは取り組み自体も積極的には行われていませんでした。その分、契約料を多めに設定するなどの策を取っています。今まで賃貸住まいの方は病院で亡くなることが当たり前だったと思うんですけど、何で家じゃいけないんだろうっていうところに僕は疑問を抱いていた。高齢化が進むなか、賃貸のあり方も変わらなければいけない、そういう時代にしていきたいと思いましたね」
とはいえ、高齢者の暮らしにおいて既成概念はつきものだ。
「そもそも、『高齢者はこうだ』という既成概念を切り崩すことはとても難しいことだと思っています。だからこそ僕たちは『高齢者の暮らしは特別なものじゃないんだよ』とずっと言い続けることにしています。もちろん要介護状態にある人もいますが、介護期が特殊なわけではない。それを言い続け、仕組み化し、当事者を増やしていくことが大事だと考えています」
R65不動産の必要性をなくしたい
今後、山本さんはどんな挑戦をしていきたいのだろうか。
「1つは、R65不動産で対応できる場所を増やすことです。現在R65不動産では、賛同し、賃貸物件を紹介してくださる不動産会社さんが増えました。そういった不動産会社さんが増えることで、今は東京、神奈川といくつかの都道府県のみで展開しているR65不動産ですが、いずれ全国で対応できればと思っております。その中で僕が今一番興味あることは、街のなかに街、即ち経済圏をつくることです。今、具体的に取り組んでいるエリアは北千住と、東急世田谷線沿線です。三軒茶屋~松陰神社前までのあいだで、一戸建てをどんどん借りて、経済圏をつくる取り組みをしています。今回のコロナ禍で、徒歩圏でできることってすごく多いとわかってきました。出勤をする必要がなくなったじゃないですか。朝夕の満員電車もそうですし、何かと電車に乗って移動していたのが全部Zoomとかでできるようになりましたし、すごくストレスも減ったんですよね」
高齢者の住まい探し、街づくりに向き合い、みんなが心地よく過ごせる世の中を実現するべく日々挑戦を続ける山本さん。世の中がどう変わっていけば良いと考えているだろうか。
「最終的には『R65不動産』というものの必要性をなくしたいんです。賃貸に見守り機器を付けたり、保険を付けたりすることやご高齢の方を不動産会社でご案内することは、本来は全然特殊なことじゃないはずなんですよ。引っ越しのニーズもパイもあるし、ちゃんと事業として取り組めばちゃんと経済としても成り立つのに、誰も手を付けてこなかった分野です。そこで僕らの成功例をどんどん発信して、まねするところが出てきてほしい。同業者が増えればR65不動産にお客様が殺到することなく、どんどん分散していろいろなところでご高齢の方が賃貸を借りられるようになる。そういう世の中になるのが理想です。目の前にある課題、そして既成概念を、自分たちの事業で取り除いていきたいです」

1990年生まれ、広島県出身。2012年に愛媛大学を卒業後、不動産会社に就職。2016年にR65不動産を法人化(株式会社R65)。高齢者向けの賃貸住宅を取り扱い、話題となる。「ガイアの夜明け」他、多数のメディアに出演。シェアハウス12棟に加え、日替わり店長のスナックも運営。高齢者の住まい探しや街づくりに関して世の中に発信、貢献を続ける。
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