現代社会の女性は活躍しなきゃ、なんてない。
女性目線で考えるダイバーシティ推進のプロジェクト「MASHING UP」編集長の遠藤祐子さん。性別、世代、国境、業種の枠を超えて、さまざまな人がつながり合い、多彩なバックグラウンドを尊重していく社会づくりの中で、女性が、人が生きていくことの尊さを問い続けている。だからこそ、「活躍という言葉で女性をあおるのは嫌」という言葉が出てきた。その真意に迫る。
近年、日本の社会では、女性の活躍が目覚ましい。多様化する時代に入り、女性が活躍する社会と謳われるようになった。社会で、家庭で、女性たちは確かにパワフルに生きている。そんなときだからこそ、改めて問う、女性の輝き方とは。
女性が活躍することが大事なのではない。
それぞれの良い生き方ができることが大切
遠藤祐子さんが編集長を務める「MASHING UP」には、気になるHot Wordが上がっている。#ダイバーシティ #わたしの働き方改革 #ハラスメントの境界線……。現代社会の問題を提起するような言葉が並ぶが、「ダイバーシティや女性の活躍というのは、もともと自分の中に持っている要素で、何かにすごく突き動かされているというよりは、自然に息を吸って吐くみたいな感じでコンテンツを作れているんです」と言う。その原点となるのは、幼少期の家庭環境だ。
「大げさに聞こえてしまいそうですが、原点として大事にしているものに弱い人、小さい人を大切にするという思いがあります。こういうと怒られそうですが、今で言うところの”意識高い系”の両親だったので、毎年決まった額をチャリティーに寄付したり、母がボランティアをしていたり。MASHING UPの前身であるcafeglobeにジョインしたときも、当時の編集長が社会的なイシューを積極的に取り上げるタイプで、どのテーマを取材しても面白かった。そうした環境がバックグラウンドにある中で、女性向けの話題に関心があったのは、母の影響もあっていわゆる女性誌が好きだったことがあるのかなと思います」
女性がNOと言えるようになった
女性誌のライターを出発点として、その後も女性向けメディアでモノづくりに関わってきた遠藤さんの歩みには、女性というキーワードが欠かせない。だからこそ、現代社会における女性のあり方を聞いてみる。
「女性を含め日本人の価値観が変わった背景にはいろいろあると思いますが、やっぱり東日本大震災は大きいものだったと思います。経済効率だけを追求する生き方に対して疑問が生じ、身近な人を大事にしようとか、社会や地域、横のつながりを大切にしようという“絆”がキーワードになりましたよね。日本が大きなショックに包まれる中、起業する人も、ただ儲ければいいではなくて、人のためになるよう意識するような風潮も広がったと思います。日本全体を通してターニングポイントになったものだったのではないかなと。それから、海外を中心に活発になっている#Me Too運動の影響もあると思います。“言ってもいいんだ”という気風が少しずつ出てきましたよね。例えば仕事を行う中で、昔ながらの”女性としての役割”を押し付けられそうになったときに『NO』と言いやすくなったのではないでしょうか。」
多くの女性たちが声を上げる以前は、差別やハラスメントだと感じていない部分や、たとえ感じても泣き寝入りをしなければいけないこともたくさんあっただろう。しかし、今は、その流れも大きく変わってきている。
「女子アナと呼ぶのに、なぜ男子アナとは言わないんでしょう。これは一例ですが、これまでは当たり前だったことが、『あれ?』『おや?』と疑問を持って声を上げられるようになってきているのは、国を挙げて旗を振っている「女性活躍推進」という動きの影響はあると思うんです」
女性活躍という言葉があるのに、男性活躍って言わないのはなぜ?
確かに、いつのころからか、女性活躍という言葉に踊らされるように、日本の女性たちは、いくつもの“顔”を持つようになった。女性の社会進出や地位向上はうれしいものだが、同時に遠藤さんは、一つの思いを話してくれた。
「女性活躍という言葉があるのに対して、男性活躍って言わないですよね。男性はもう十分に活躍している、ということだと思いますが、さあ女性を活躍させろ!というプレッシャーには違和感がありますよね。だけど、そんなに活躍しなきゃいけないのかしら、って。別に輝かなくたっていいですよね。普通に考えると、職業を持ち(持ってなくても)健康で文化的で幸せな生活を送れることって、あたりまえであって欲しい。だから……これも極端な発言で、誤解を恐れずに言いますが、誰も活躍しなくていいと思っています。人は必ずしも、成功するためやお金儲けをするためだけに生きているのではなく、幸福になるために生きてる。だから女性が輝くとか活躍するとかではなくて、LIVE YOUR LIFEが重要で、それぞれの良い生き方ができることの方がいいことだと思うんです。だから、活躍しなくても自分が幸福に生きられる方が、ずっといい。活躍という言葉で女性をあおるのも嫌だし、有名にならなきゃいけないとか、立派じゃなきゃいけないという感覚は、むしろない方がいいと思います。悲しいことに、今の女の人は、そういう人ばかりがフォーカスされがちなので……」
自分の人生を愛して生きられるように
肩の力を抜いて、自分の道を、自分の幸福を考える。「活躍しなくていい」という言葉の裏側にあるのは、「その時代に合った形で女性をエンパワーするコンテンツを提供する仕事をして、女性を応援したい気持ちがいつもある」という遠藤さんからのメッセージなのだ。現在携わっているオンラインメディア「MASHING UP」にも、女性をはじめとする多様な人々が、しなやかに自分の人生を輝かせる社会を創出するコンセプトがある。
「個人が発信できるようになって、メディアの形が変わってきているし、ビジネスも変わってきています。メディアが一方的に情報を配信するだけ、というスタイルでは、現代にはフィットしません。海外のスピーカーやビジネスパーソン、憧れの女性キャリアの人と実際に会って話せて、自分もディスカッションの輪に入ってエンパワーされて、受け取ったものを自分も発信したり、次の人に渡せたりする形が今のスタイルなのかな。作り手と読者はどんどんフラットな関係になりつつあるので、イベントやカンファレンスを運営しています。女性向けのメディアをつくっていくスタンスは変わらないけど、そのときそのときに取るベストな形やトレンドを考えていますし、やっぱり、女性のエンパワーメントが私のライフワーク。このことには関わっていくと思います。その上で、私も含めて今いろいろな人が、それぞれの人生を、さまざまなことに振り回されずに『Get Real Love Your Life――自分の人生を愛して生きられるようになるといいよね』って思います。これはcafeglobeの元々のコンセプトでもあるんですけどね。でも、もしゴールがあるとしたら、読者の皆さんが、自分で自分の人生がよかったと思える一助になるメディアをつくっていきたいですね」
MASHING UP編集長。
株式会社メディアジーン執行役員。女性誌のライターを経て、2005年株式会社カフェグローブ・ドット・コムに入社、cafeglobeの副編集長、編集長をつとめる。2012年8月より株式会社メディアジーンにおいて、cafeglobe編集長、MYLOHAS編集長を経、2015年7月女性メディア統括プロデューサーに。2015年11月よりメディアジーン編集部門執行役員。
多様な暮らし・人生を応援する
LIFULLのサービス
みんなが読んでいる記事
-
2024/09/30女性だと働き方が制限される、なんてない。―彩り豊かな人生を送るため、従来の働き方を再定義。COLORFULLYが実現したい社会とは―筒井まこと
自分らしい生き方や働き方の実現にコミットする注目のプラットフォーム「COLORFULLY」が与える社会的価値とは。多様なライフスタイルに合わせた新しい働き方が模索される中、COLORFULLYが実現したい“自分らしい人生の見つけ方”について、筒井まことさんにお話を伺った。
-
2024/03/29歳を取ったら諦めが肝心、なんてない。―91歳の料理研究家・小林まさるが歳を取っても挑戦し続ける理由―
「LIFULL STORIES」と「tayorini by LIFULL介護」ではメディア横断インタビューを実施。嫁舅で料理家として活躍する小林まさみさん・まさるさんにお話を伺った。2人の関わり方や、年齢との向き合い方について深堀り。本記事では、まさるさんのインタビューをお届けする。
-
2023/09/12ルッキズムとは?【前編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)
人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
-
2023/02/27アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)とは?【前編】日常にある事例、具体的な対処法について解説!
私たちは何かを見たり、聞いたり、感じたりした時に実際にどうかは別として、「無意識に“こうだ”と思い込むこと」があります。これを「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」と呼びます。アンコンシャスバイアスによるネガティブな影響に対処するための第一歩は、「意識し、理解する」ことです。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。