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STORIES 2019/02/26

どんなに頑張っても、未来は変えられない

興味のあることを「いつでもできる」と後回しにしてしまう人は多い。そのひとりであった片山貴信さんはバイク事故で重度の障がいを負った際に、そのことを心の底から後悔したという。奇跡的に回復を果たした彼が現在挑んでいるのは、健常者ですら登頂が困難な世界の山々。自ら困難に挑み続ける理由と、そこに込められたメッセージとは?

障がいがある、と聞くと「大変そう」とか「できないことが多い」というネガティブなイメージばかりが浮かびやすい。だが、バイクによる事故で障がい者になった片山貴信さんは「左腕は二度と動かせない」という医師からの宣告を努力と根性で覆し、自分の好きなことや夢を叶えるために精力的な活動を行っている。「挑戦し続けることで多くの人に勇気を与えたい」と語る片山さんの生き様には、「二度と後悔したくない」という強い想いがあった。

「いつかやろう」と思っていたことを
全て失い、人生に絶望した

片山さんの人生は幼い頃からチャレンジの連続だ。

「小学生の頃は塀の上からどれだけ遠くまで飛べるかとか、排水溝をどう飛びこえるかという挑戦的な遊びが好きでした。ブランコから飛び下りる技もいろいろ考えてましたね。普通に飛ぶだけじゃ面白くないから身体をひねりながら飛んでみたり、後ろ向きに飛んでみたり。でもある時、口から地面に落ちてしまい、こんなタラコ唇になっちゃったんですけど(笑)」

遊び方はわんぱくだが、「クラスでのポジションは2~3軍。人見知りで大人しくて目立たないタイプ」だったという。そんな引っ込み思案だった少年が「強くなろう!」と決めたのは小学校5年生の時。しつけの厳しさから「親父よりも強くなりたい」という想いが強くなり、思春期の頃はケンカに明け暮れた時期もあった。

いわゆる“やんちゃ”をやりきった19歳の頃にのめり込んだのはバイクの勝負。スクーターに負けたことが悔しくて、毎日走り詰めてテクニックを磨き、約10カ月でそのエリアのトップの座に上り詰める。だがその2カ月後、バイクで峠を走行中に事故を起こしてしまい10日間意識不明の重体に……。目覚めた彼を待ち受けていたのは苛酷な現実だった。

「気がついたら病院のベッドで、左腕と右足が吊られて酸素マスクをつけている状態。左腕は上腕骨粉砕骨折、左ひじ脱臼粉砕骨折、左前腕骨折、右足は大腿骨粉砕骨折で粉々。神経も損傷していたのか動かないだけでなく、手や指の感覚がまったくない。医者からは『右足は完全には曲がらない、左腕はもう動かない』と言われました」

思い通りに動けないストレスと寝たきり生活によるイライラが募り、家族や友人に当たり散らす日々。何よりもストレスを感じたのは“あの時あれをやっておけばよかった”という後悔だったという。

「バイクでこうなったという、やってしまったことに対する後悔は全然なくて。スノボとか行ったことのないサーキットのレースに出場したりとか、『いつかやろう』と思っていたことが全部できなくなったという現実に心の底から絶望していました」

できないことを嘆くより、できることを探すほうが大切だと気づいた

自暴自棄になっていた片山さんを変えたのは、彼と同じく交通事故のリハビリに励む小学生の男の子のひとことだった。

「『一生ひざが曲がったままか、のびたままのどちらを選ぶ?』という問いに、その子は迷わず『のびたままがいい』と答えたんです。理由は“走れる”から。難しいことを考えず、今できることを素直に選んだだけだと思うんですけど、そんな単純な理由で決めてしまうのか!と衝撃を受けました。一方の私は『あれもできない』『これもできない』という後悔にとらわれてばかり。そこでようやく『おれ、何してるんやろ?』と目が覚めて、やれることをやってみよう!という気持ちに切り替えられたんです」

その一歩として始めたのが、二度と動かないと宣告された左腕に対する自己流のリハビリ。針の先端で肌をつついて感覚のある部分を探すという地道な作業だったが、約8カ月後に奇跡は起きた。

「小指がちょっとだけ動くようになったんです。先生もめちゃくちゃびっくりしてましたね(笑)。そこから本格的なリハビリや手術などの治療が始まって、ちょっとずつ指や腕が動くようになっていったんです。『二度と動かない』と言われていたので、これ以上悪くならないならってダメ元で何でもやってみようという試みだったのですが、諦めなくて本当によかった!」

回復とともにできることもどんどん増え、リハビリのかいあって右足も徐々に動くように。事故から4年後には「障がいがあっても表彰台に立ち、バイク雑誌で特集されたら引退する」という目標を掲げてバイクレースに復帰。さらにその4年後、レースで入賞し、カラー2ページで特集されるという2つの目標を見事に達成した。

レース引退後は、スキューバダイビングやスノーボードをのんびり楽しんでいたという片山さん。彼が再び高みを目指すようになったのは、テレビで見た剱岳に興味をもったことがきっかけだった。

「最初のうちは会社の後輩や友達に誘われたら行くという感じで、全然本気じゃなかったんです。けど登り続けるうちに、雪山の美しさと面白さにハマりだして。さらにクライミングジムでザイルパートナーと出会って八ヶ岳を登ったのを機に、岩登りにも夢中になった。そこから登りたい山がどんどん増えて、2015年からは年に1~2カ所を目標に海外の山にも挑戦するようになっていったんです」

南米最高峰のアコンカグアの山頂。2度目の挑戦で登頂に成功した瞬間、涙があふれたという。

山頂に立つことだけが登山の成功ではない

「未経験から登山を始めてまだ5年」というが、過去の挑戦で成功した山はエクアドルのカヤンベ(標高5790m)、ロシアのエルブルス(標高5642m)、アルゼンチンのアコンカグア(標高6962m)など、難易度の高い名峰ばかり。

もちろんどの山も一筋縄で登れたわけではない。山頂まであと少しというところで限界に達し、やむを得ず引き返したことも一度や二度の話ではないと片山さんは語る。

「初めてアコンカグアに挑戦した時は、想定外の事態で計画が大きく狂い、それも原因で肺水腫にかかり、ヘリで搬送される羽目に。2018年8月に挑戦したスイスのマッターホルンでは、山に入る直前に急性胃腸炎になってしまって……。なんとか調整して入山したものの、山頂まであと1時間半(標高で残り400m)くらいのところで諦めざるを得ない状況に。あの時はザイルパートナーも一緒だったので本当に申し訳なくて……」

事故の後遺症も大きなハードルだ。左腕の変形が原因で血流が悪く、高山では凍傷にかかりやすい。左腕を伸ばしきった状態で岩をつかんでも力が入らないため自分の体を引き上げられない。重い荷物を背負って長時間歩くと右足の動きも悪くなるし、骨移植で摘出した骨盤の形も悪く腰に激痛が走る。

山や高所に対する恐怖感もいまだにぬぐえないという。しかし、「バイクの時もそうですが、生死ギリギリの環境であらゆる限界を乗り越える挑戦が好きなんでしょうね」と片山さんは照れくさそうに笑う。

「初めて八ヶ岳の崖に挑んだ時も、最終ピッチで何度も失敗して正直諦めかけたんです。ザイルパートナーに励まされてなんとか登りきることができたんですけど、感情が振り切れたのか勝手に涙が出てくるんですよ。泣いたのはこの時とリベンジで挑んだアコンカグアの登頂に成功した時だけです。このやりきった感がそれまでの恐怖や苦労を大きく上回るんです。この感覚をずっと求めていたいんでしょうね。リハビリやバイクの成功体験を通じて『やったらできる!』と実感できたことも大きい。だから山に登り続けてるんだと思います」

最終目標は北米最高峰のデナリ山(標高6190m)に登頂すること。今はスキルを上げるため、目の前の課題にひとつずつ向き合っている最中だという。目標とともに難易度が上がっていくことに不安はないのか? 失敗を恐れず高いハードルに挑戦し続ける理由を伺った。

マッターホルンに登頂できなかった時、SNSに『山頂に立つことだけが成功ではないし、山頂に立たなかったことが失敗でもない』というコメントをもらって気づいたんです。大切なのは自分の納得度がどこにあるか。もちろん山頂に立つことが目的で登っていますが、途中で諦めたとしても「ここまでやりきった!」と思えたら失敗じゃないんだなって。
だから私にとっては難易度とか「できるかどうか」で判断するのではなく、「好きならやる」という感じ。私の場合は過去の後悔があったから余計に、やらずに諦めるのはもったいないと思うんです。だから金銭的にでも体力的にでもちょっと無理すればできることなら全然やっちゃいますね(笑)。どんな障がいがあったとしても自分次第で未来は変えられるし、夢も叶えていけるんです。山に登り続けることで、このことを多くの人に伝えられたら本望です。
Profile 片山 貴信

1974年生まれ。兵庫県出身。会社員。
19歳の時にバイクで事故を起こし、左腕はもう動かない、右足は完全にのばせないという宣告を受けるも、過酷なリハビリ、十数回の手術を経て奇跡的に回復。
2014年から本格的に登山を始め、2015年からは海外遠征を開始。
欧州最高峰のエルブルスや、南米最高峰のアコンカグアなどの単身登頂に成功している。
サンテレビ「ひょうご発信!」、シャナナTV「目からウロコ」などに出演。

オフィシャルブログ http://katayan2002.blog.fc2.com/
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