空き家は役に立たない、なんてない。

少子高齢化による人口減少や若者の地元離れなどにより、全国で空き家が増え続けている。その深刻さたるや2033年には3軒に1軒が空き家になると言われるほど(野村総合研究所調べ)。景観や治安といった地域の問題を引き起こす原因にもなりやすいためネガティブな印象を持たれがちだが、LIFULLが取り組む地域創生のカギはこの空き家にあるという。

2017年にスタートした「LIFULL HOME'S空き家バンク」というプロジェクトでは社会問題のひとつとして挙げられる空き家問題を「自由な生き方を手に入れるチャンス」ととらえ、新しいライフスタイルの提案を行っている。多くの人が「役に立たない」「古くて住めたものではない」という感覚でとらえがちな空き家が持つ可能性とは? LIFULL 地方創生推進部の渡辺昌宏さんに話を伺った。
全国には、活用可能な空き家が多数眠っている
「LIFULL HOME'S空き家バンク」は国土交通省のモデル事業としてスタートし、自治体ごとに異なっていた取得情報を共通データベース化、横断的な検索サービスを実現し利用者にとって使いやすいサイトにすることを目的にスタート。空き家バンクを中心とした具体的な取り組みは、①全国の空き家を掘り起こしデータベース化、②相談しやすい空き家の相談窓口の構築および再構築、③市場性が低い空き家のプロデュース、④空き家相談の担い手育成を目的とした人材の育成を行う、などがある。
「空き家バンクでは利用者アンケートから、物件情報だけでなく地域情報など重ねて調べたいとのニーズにより、最近ではまちの情報の充実やハザードマップなど、空き家がある周辺のデータを充実させることにも力を入れています」と渡辺さん。
今でこそ空き家の可能性について熱い思いを語る渡辺さんだが、以前は空き家に対してネガティブな印象を持っていたと話す。だが全国の自治体を飛び回り、さまざまなケースの物件を目にするうちにその概念は大きく覆されたという。
「衝撃だったのは、まだ快適に使えそうな家屋や先人の技と知恵が詰まった伝統的な家屋などが、誰にも使われず放置されていること。総務省が発表した土地統計調査によると、全国の空き家の数は846万戸、うち賃貸用、売却用、二次的住宅以外の人が住んでいない「その他の住宅」は347万戸。国土交通省の調査では、そのうち103万戸は腐朽破損がない住宅とされている。そのくらい再利用できる物件の数は多い。だからこそ、全国の空き家をデータベース化していけば、多様な生き方やニーズを持つ利用者に活用してもらえる機会に結びつけることができるかもしれないと考えるようになりました」
人々のつながりの再構築で「また行きたい」と思わせる
魅力的なまちづくりを目指す
空き家バンク利用者の多くを占めるのは25~45歳。移住や趣味のためのセカンドハウスといった人生を豊かにするような使い道のほか、シェアオフィスやゲストハウス、カフェといった事業に活用するなど用途はさまざま。利用者が自身の夢や目的をかなえるツールとして空き家を活用する一方で、彼らを受け入れる地域側にも多くのメリットが生まれている。
「ただ空き物件が活用されたということだけではないと思うんです。多様な人たちが空き家を通じて移住・活動し、地域の人たちとの暮らしや活動を共有することで新たなコミュニティが生まれて結びつきが強くなる。このような、『人々のつながりの再構築』が地域課題の解決には大切なことだと思います」
空き家バンクを通じて空き家の活用が進むことで、人々の交流の場や多様な空き家の活用から、新たな活動が生まれ、まちの魅力が高まれば、人々が訪れやすくなるし、「また行きたい」「住んでみたい」と思う人たちの増加にもつながっていく。そして地域に関心を持つ人々が増えることで、その土地で育まれてきた魅力の再認識や維持につながり、その魅力を後世につなぐ取り組みや担い手が生まれてくるのかもしれない。
渡辺さんが空き家問題の解決に励む原動力は、長い年月をかけ、先人たちが磨き続けてきた「日本の魅力」を次世代につなげたいという強い思いにある。
「それぞれの地域には長い時間をかけて育まれ、根づいてきた独自の伝統や文化がたくさん存在しています。それらが担い手を失い、喪失の危機にさらされつつある。空き家問題の解消が郷土で受け継がれてきた魅力の維持や地域ならではの個性を担う人材を見つけること、そしてゆくゆくは地域を発展させることにつながっていけばすばらしいですよね」
人材不足を補うために地域ごとにプロを育てる
LIFULL HOME'S空き家バンクがスタートしてからもうすぐ2年。参加する自治体の数は560に増え、利用者の数も右肩上がりに。ただ住むだけではなく、「東京から岡山へIターンし喫茶店をオープンさせた」「釜石市の物件をDIYして商店街の活性化に取り組んでいる」といったコミュニティづくりや関係人口の増加などの成功事例も増えてきた。地方創生への確かな手応えを感じる一方で見えてきた課題もある。
「空き家対策を進める自治体側にも悩みがあります。『相続人が多数いるなどの場合、事務負が大きい』、『全般的に人手が足りない』といった声も多く聞きます。空き家の相談窓口が開設されても人材不足により十分な対策が取れなかったり。物件によっては持ち主の事情や思い入れといったデリケートな側面への配慮も必要。持ち主にとって最良の生かし方をしてもらうためにも、より丁寧なコミュニケーションや地域との連携が欠かせないと考えるようになりました」
これらの課題解決のため本格的に動きだしたのが人材の育成。その一環として5月と7月に開催されたのが「空き家相談の担い手育成講座」だ。主な参加者は自治体の職員や地域おこし協力隊、不動産関係、建築関係など実際に空き家対策に関連性が高い人たち。どちらの回も定員を上回る参加希望者が集まり、空き家問題に対する関心の深さを改めて浮き彫りにした。
「同講座が目指すのは空き家の掘り起こしから、活用希望者とのマッチングまでをワンストップで対応できる人材の育成。地域ごとに空き家の相談の担い手を増やすことと並行し、我々と自治体とで連携しながら課題を解決していくための体制づくりにも励んでいます」
「空き家相談の担い手育成講座」開催時の様子
空き家を放置しないための準備と心構えがトラブルを防ぐ
“空き家をどう活用するか?”という話ばかりが前面に出がちだが、管理されていない空き家を減らすためには「将来を見据え事前に準備することが必要」と渡辺さんは語る。
「空き家は管理されなければいろんな問題を起こします。景観が損なわれたり動物が住みついたりするほか治安の問題もある。このようなことは、まちの魅力に影響を与えることにもつながります。使えるものをできるだけ活用していくことや使えないものを、使えないと決めることもひとつの対策ですが、ご自身と関係がある住宅や土地が“空き家”になる前の事前準備についても意識を広める必要があると思っています」
全体の56%は相続のタイミングで空き家になるケースが多いという。将来、実家などの空き家問題に直面する可能性のある場合、どんな準備をしておいたらいいのだろうか?
「まず将来的に物件を残したいかどうかを考えてみること。もし残すならその建物を存続させるための可能性を空き家になる前から追求しておく。一例としては人に貸す、地域のコミュニティスペースや宿泊施設として活用を検討するなどですね。事情によっては更地に戻し活用を検討するのもひとつの選択です。一番良くないのは何もせずに放置しておくこと。人が住まない家は傷みが早く短期間で使えない状態になりがちですので、将来を見据え、事前に準備を行うことをお勧めしています」
「地域×空き家」は生き方の幅を広げる可能性も!
社会問題の解決や地域のため、と考えるとスケールの大きい話になってくるが、豊かな人生を送るための選択肢のひとつととらえ、サービスを活用している人も多い。
撮影/尾藤能暢
取材・文/水嶋レモン

株式会社LIFULL 地方創生推進部
インターネット黎明(れいめい)期より17年、株式会社ぐるなびに携わり
日本の食文化に触れ地域の豊かさを実感。
長い年月をかけ先人たちが磨き続けてきた「日本の魅力」を
次世代につなげたいという思いから地方創生に取り組む。
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