経済愛好家・肉乃小路ニクヨが語る!貯金と投資のリアルアドバイス|新生活のお金のコツ
4月から始まる新生活。新しい環境に身を置くことにドキドキとワクワクを感じながら、少なからず不安もあるのではないだろうか。特に、一人暮らしを始める人や新社会人にとって、「お金」との向き合い方は大きな課題の一つだ。限られた収入のなかでどうやりくりすればいいのか、将来のために貯金は必要なのか――そんなことに頭を悩ませている人もいるはず。
新生活のそんなお悩みを抱えるあなたに「お金」についてのアドバイスをくれるのが、“経済愛好家”の肉乃小路ニクヨさんだ。ドラァグクイーンとして活躍しながら、証券会社や銀行、保険会社など多様なキャリアを歩んできたニクヨさんは、実体験をもとに「お金」や「生き方」について発信している。昨年9月の取材記事 「お金は稼ぎ方と貯め方だけおさえていれば大丈夫、なんてない。 ―肉乃小路ニクヨが語る、お金に価値を与える増やし方と使い方―」
では、お金の概念的や精神的な価値について伺った。本記事では、読者のリアルな悩みに寄り添う具体的なアドバイスが満載。新生活を迎える人が知っておきたいお金との付き合い方や考え方について話を聞いた。
「お金」は単なる数字ではなく、人それぞれの価値観や生き方を映し出すものだ。しかし、新生活を迎える多くの人にとって、お金に関する知識は意外と限られている。節約を重視するべきか、それとも自己投資に使うべきか。そんな迷いを抱えながら、正解のないお金との付き合い方に悩むこともあるだろう。
特に、日本社会では「貯金こそ正義」といった価値観が根強い一方で、昨今は「経験に投資せよ」といった考え方も広がりつつある。固定観念に縛られず、自分にとって本当に価値のあるお金の使い方をそれぞれ見極めることが、これからの時代に求められているのかもしれない。本記事ではよくある新生活のお金の悩みにお答えいただきながら、ニクヨさんのお金との付き合い方に、ヒントをもらう。
最初は必要最低限で大丈夫
ーー家賃・初期費用が高すぎて、引っ越しできるか不安だという人も多いと思います。家賃設定はどう決めればいいでしょうか?
若いうちは家賃はできるだけ抑えるのが賢明です。ただし、公共交通機関を利用しやすい駅近の物件を選ぶのがポイント。部屋の広さよりも、外出の利便性を重視するとよいでしょう。また、24時間ジムの会員になれば、シャワーをそこで済ませることも可能。お風呂付きの物件にこだわらない選択肢もあります。
私の場合は、父が母に内緒で30万円をくれたのですが、私がそのことを母に話してしまい、その範囲内で生活することになりました。最初は駅から遠い物件を選びましたが、後になって通勤やアルバイトのために駅近の重要性を実感しました。
ーー家具・家電を揃えるお金が足りないという人は、引っ越す際はどこに使い、どこを節約するのがいいでしょうか?
家具・家電は一度に揃えなくても大丈夫。まずは最低限必要なものだけ購入し、あとは生活のなかで「本当に必要だ」と感じたものを少しずつ揃えていきましょう。勉強や仕事は外(図書館やカフェなど)ですませることも可能なので、生活空間を有効活用する工夫も大切です。
ーー新しい環境に身を置くと、交際費・社交費が何かとかさむと思います。でも人間関係は未来への投資だとも言われています。いくらまで交際費に使うかなどはどうやって決めればいいでしょうか?
交際費がかかりすぎる原因は「人間関係」という抽象的なものに対してお金を使ってしまうこと。自分を企業の社長と考え、出費を「経費」として見極めることが重要です。企業が身の丈に合わない経費を使うと破綻するのと同じように、自分の経済状況を把握したうえで適切な額を設定しましょう。
ーー病院代や家電の故障など、予想外の出費がでてくることがあります。どのくらい貯金をしておけばいいでしょうか?
私はコロナ禍を経験して、会社員なら半年分、フリーランスなら1年分の生活費を蓄えておくべきだと実感しました。貯金のコツは、収入が入ったらすぐに別口座に移すこと。そこから固定費を差し引き、残りを日割り計算して一日あたりの予算を決めると、使いすぎを防げます。ちなみに私は家計簿なしでお金を管理していました。一日あたりの予算を決め、それを守るだけで自然と貯まります。特に浪費癖のある人には、この方法が有効です。
生活の安定は、好きな仕事を続けるための基盤
ーー今の仕事は好きだけど、収入が安定しないため、転職すべきか、アルバイトを増やすかなど迷っている方は、どのような基準で考えればいいでしょうか?
仕事が好きでスキルが身につき、将来的に安定する見込みがあるなら続ける価値はあります。しかし、生活が不安定な状態が続くなら、転職や収入の安定化を検討すべきです。生活の安定は、好きな仕事を続けるための基盤になります。多くのドラァグクイーンのように、本業を持ちながら自分のやりたいことを続けるスタイルも一つの選択肢です。
ーー将来の貯金や投資を始めるべきか悩んでいる方も多いと思います。旅行など、今できることをやりたいけれど、将来も不安という方には、どんなバランスが理想的でしょうか?
30代半ばまでは、会社員なら半年分、フリーランスなら1年分の貯金があれば投資をしなくても良いと考えます。その理由は、この時期は自己投資を優先し、収入を増やすチャンスがあるからです。旅行も単なるレジャーではなく、自己成長やネットワーク構築の視点を持つと、より有意義な時間になります。
ーーキャリアアップや収入アップを目指すために、お金をどのように使うべきでしょうか?
自己投資と金融投資の二本柱で考えると良いでしょう。交際費も目標に合ったものであれば必要経費ですが、見栄のための支出は極力控えること。虚栄心と野心のバランスを意識しながら、成長につながる投資に注力しましょう。
大事なのはまず「決めること」
ーー新社会人として、自分が望むスタートラインに立てなかったという方は、これからどうすればいいでしょうか?
世の中は意外とリカバリー(回復・復旧)やリトライ(再挑戦)が許されるものです。ただし、それは努力している人に対してのみ。仕事をただこなすのではなく、工夫しながら良い仕事をすることが大切です。
良い仕事をしていれば、必ず誰かが見ていて引き上げてくれます。私は図抜けて仕事ができたわけではありませんが、お金の匂いに敏感になって、流行りの業種を見極め、努力が適正に報われる仕事を選択してきました。この点は自慢できるポイントです。
ーー将来の目標が決まっていれば経済的なことも逆算しやすいと思うのですが、自分が何をしたいのか分からないという方に、夢や目標の見つけ方のアドバイスはありますか?
大事なのはまず「決めること」だと思います。それが将来変わっても別にいいんです。目の前の目標を決めて取り組んでみることが大切です。他には、身近なロールモデルを見つけるのもいいと思います。私の場合は会社の尊敬できる女性の上司でした。悩んだときは「彼女だったらこの状況でどうするかな」というのを考えて行動していました。
また、今はインプットする段階なのであれば、アウトプットを意識してインプットすることをお勧めします。たとえばただ本を読むのではなく、読書会を開くことで読んだ内容をアウトプットすることになる。そうすると、人に内容や意見を伝えることを前提に読むので、吸収できるものが変わってきます。個人でやるんだったら、感想をブログにアップするなどでもいいと思いますし、SNSで細かくまとめるのでもいいと思います。大事なのは、インプットしたものを言語化することだと思うんです。インプットしたものがどういうものだったのかを、完璧でなくてもいいから、いったん自分自身で言語化することが大事です。読書に限らずインプットは、自己投資であり、うまく活用すれば、今後の仕事に活きてきます。自分への投資として考えて、うまく吸収していくのがいいと思います。
ーー新生活のなかで、自分は十分ではないのではないかと、インポスターシンドロームのようなものを感じてしまうこともあります。そういった際にどのようにマインドチェンジをしていけるでしょうか?
完璧を求めちゃいけません。失敗することは当たり前だと私は思っています。私もいまだにできていないことがたくさんありますし、改善して成長する伸びしろがあると自覚しています。仕事や人生において、PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Action)が大事だと言われていますが、その中で一番難しいことはDoです。実行(Do)したら、まずは、トライした自分を褒めてあげましょう。それから冷静に分析をするのがいいと思います。モヤモヤ考えても生産的ではありません。とりあえずたくさん寝て、次の日に冷静に考えましょう。
でも私も最初からそういうふうに考えられていたわけではないかもしれないです。今のように考えるようになれたのは、最近読んだ本の影響かもしれません。その本はマーガレット・ミッチェルの小説『風と共に去りぬ』です。その中の“After all, tomorrow is another day”(だって、明日はまた別の日ですもの)という言葉は現代人にとってもとても大切な言葉だと思いました。完璧を目指さず、日々の変化に対応しながら、まずはやってみて、そこから学んでいくということでいいと思うんです。人生はそうした日々の挑戦と改善の積み重ねです。トライアンドエラーで改善しながら人生を向上していくのが大切だと思います。
取材・執筆:南のえみ
撮影: 白松清之

慶應義塾大学在学中の1996年より女装を開始する。並行して会社員としても勤務。主に銀行と保険会社でキャリアを積む。セクシャルマイノリティーとしての葛藤で苦しんだ青少年期とショウガール、ゲイバーのママ、会社員時代に鍛えた人間観察力を活かして、経済、お金、恋愛、ライフスタイル等について語る。
Instagram nikunokouji294
X @Nikuchang294
みんなが読んでいる記事
-
2025/08/07暮らしと心のゆとりのつくり方 〜住まい・お金・親の介護のこと〜
独り暮らし・資産形成・親の介護など、人生の転機に必要な住まい選び・不動産投資・介護の知識をわかりやすく解説します。
-
2022/09/15家の天井は高いほうがいい、なんてない。伊礼 智
豊かに暮らせる「小さな家」づくりで知られる建築家の伊礼智さんは、これまで狭小地の住宅を含め、数々の「天井が低い家」を設計してきた。一般に、住宅市場においては「天井は高いほうがいい」とされがちだ。ハウスメーカーのテレビCMや住宅情報誌などでは、明るく開放的な住まいとして天井の高さをアピールすることが少なくない。 一方、伊礼さんが設計する多くの住宅の天井高は2100~2200ミリメートル。これは、建築基準法で居室に対して定められている天井高の最低値だ。ハウスメーカーが通常推奨している天井高は2400ミリメートルとされているので、それよりも約20~30センチメートル低いことになる。 「天井は高くなくてもいい」。伊礼さんから、家に対する一つのこだわりを脱ぎ捨てるヒントを伺った。
-
2023/12/20人と一緒に食事をするのは楽しいはず、なんてない。-会食恐怖症とは?克服方法とは?山口健太さんに聞いてみた-山口 健太
一般的に「食事=楽しい」と言うイメージがあるいま、中には人知れず食事に苦しんでいる人もいる。会食恐怖症は、人と一緒に食事を摂ることに不安や恐怖を感じる症状だ。会食恐怖症の当事者はなぜ、会食に不安や恐怖を感じてしまうのだろうか。会食恐怖症の経験者、また克服支援の第一人者として活躍する山口健太さんに話を伺った。
-
2024/03/14アンコンシャスバイアスの対策とは? 個人・職場・企業への影響と対策事例
私たちの身の周りには、多くのアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)が存在しています。アンコンシャスバイアスを完全になくすことはできませんが、悪い影響が出ないように対策することは可能です。この記事ではアンコンシャスバイアスの対処法について紹介します。
-
2024/07/02【後編】生成AIとは? 生成AIの必要性とビジネス変革の背景・リスク・活用実態を解説
ここ数年で知名度が急激に高まった生成AI。ニュースやインターネットなどで「生成AI」という言葉を耳にしたことはあっても、この技術が私たちの生活やビジネスをどのように変えるのかについて、具体的にイメージが沸かない方も少なくないのではないでしょうか?ここでは、社会に計り知れないインパクトを与えるといわれている生成AIについて解説します。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」