【後編】アクセシビリティとは? 障がい者や高齢者を含むWebアクセシビリティ対応の重要性と事例
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後編
Webアクセシビリティと合理的配慮
障がい者に対する不当な差別取り扱いをなくすための法律に「障害者差別解消法」があります。正式名称は「障害を理由とする差別の解消の促進に関する法律」であり、すべての国民が障がいの有無に関わらず、お互いに人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現のため、2013年6月に制定されました。
2015年2月に内閣府は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」を打ち出し、2015年4月1日から施行されました。さらに2022年5月に同法は改正され、2024年4月1日からこれまで民間企業にとって努力義務だった「合理的配慮」が法的義務に変更されました。
現代社会における情報の重要性に鑑み、国や地方公共団体だけでなく、すべての民間企業も障害者に対する「合理的配慮を的確に行うための環境の整備」の一環として、Webアクセシビリティは努力義務の対象になります。具体的には、ユーザーアクセスが多い企業情報を発信するコーポレートサイト、サービス提供を行うWebコンテンツなどはJIS X 8341-3:2016に準拠し、Webアクセシビリティに配慮した対応が求められます。
※出典:ウェブアクセシビリティとは? 分かりやすくゼロから解説! | 政府広報オンライン
日本企業のWebアクセシビリティ対応と事例
障がいのある人への合理的配慮を的確に行うための環境の整備の一環としてWebサイトを運用する事業者へのWebアクセシビリティ対応が求められています。
しかし、欧米と比較しても日本では対応に大きく遅れが生じているようです。令和2年の総務省「通信利用動向調査報告書(企業編)」によると、「自社ホームページにおけるJIS X 8341-3:2016」への準拠の状況に関して、「この規格を満たしている」と回答した企業は全体の4.6%に過ぎませんでした。もっとも多かったのは「この規格およびアクセシビリティとは何かを知らなかった」と回答した企業が全体の51.7%で、全体の半数を超えていました。
総務省の調査からもわかる通り、日本社会においてはまだまだWebアクセシビリティへの取り組みが遅れており、アクセシビリティに対する認知度を高めるための仕組み作りが求められています。
Webアクセシビリティ対応方針を宣言する企業事例
海外と比べ、Webアクセシビリティ対応に遅れを取っている日本ではありますが、Webアクセシビリティの確保・向上を目指し、さまざまな企業が取り組んでいます。ここではその一部を紹介します。
例えば、花王グループはWebアクセシビリティ方針ページで、ユーザーに向けて以下の方針を宣言しています。
花王グループは、「人にやさしい情報発信」として、誰にでも使いやすいウェブサイトの実現をめざし、ウェブアクセシビリティ確保と向上に取り組んでまいります。
花王はESG(環境・社会・ガバナンス)戦略「Kirei Lifestyle Plan (キレイライフスタイルプラン)」に基づき、生活者の視点から持続可能でこころ豊かな暮らしの実現をめざし、環境や社会に配慮した取り組みを強化しています。ウェブアクセシビリティの取り組みを通じ、より多くの利用者がより多くの利用環境から、より多くの場面や状況で、製品を選択したり使用したりするために必要な“情報”を手軽に得られることをめざします。
また、企業理念である「花王ウェイ」には「正道を歩む」という基本となる価値観があります。この「正道を歩む」の言葉の通り、対応して完了という一過性の取り組みとしてではなく、終わりのない継続的な改善プロセスとして、長期的な視点でウェブアクセシビリティの確保・向上を日々検討し、実施してまいります。
※引用:花王|ウェブアクセシビリティ方針
具体的には、使い方イメージや製品情報、グラフなどの画像について、視覚情報と同じ目的を果たす「代替テキスト」を用意したり、文字と背景色のコントラスト比が低いため、見えづらかったり、読みづらかったりする配色がされていないことを確認したりしています。
また、ANAも年齢や障がいの有無に関わらず、誰もが快適にWebサイトを利用できるようにJIS規格に適合する取り組みが行われています。また、ページ内で動画再生を行う場合、映像のみ、音声のみが伝達手段であっても内容が理解できるようにし、不足が考えられる場合には追加のテキストを提供します。
ANAは「すべての人に優しい空」の実現を目指して、どなたでも安心・快適に飛行機をご利用いただけるよう日々取り組んでいます。
ANA公式ウェブサイトは、年齢や障がいの有無に関わらず、誰もが快適にご利用いただけるよう、W3C勧告「WCAG 2.1」及び日本産業規格「JIS X 8341-3:2016」適合レベルAA対応を目指します。
障がい者や高齢者に限らないWebアクセシビリティの対象
Webアクセシビリティの対象は、決して高齢者や障がい者に限りません。
前出の田中みゆきさんは、アクセシビリティの根底にあるのは「情報保障」という考え方で、それは人間の尊厳にも関わる権利の保障と関係していると語ります。
「自分にとっての『普通』が、そこに当てはまらない誰かを排除する可能性があることを、常に念頭に置いてください。自分とは違う人も自分と同じように尊重される必要があるということ、それを絶対に忘れないでほしいです」
まとめ
アクセシビリティとは、単にWebサイトを誰にとっても「見やすくする」というデザインの問題だけではありません。自分とは異なる誰か、高齢者や障がい者にとっても自分と同じレベルで情報にアクセスできるかを考えることです。
そのために、まずは自治体や企業が先頭に立って「合理的配慮」を提供し、アクセシブルな仕組みづくりを始めなければなりません。
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静岡県立大学名誉教授。社会学博士。有限会社エクストラ取締役社長。障害学会会長。
16歳の時に網膜剥離のため失明。東京大学に点字入試で初めて合格した人としても知られている。東京大学大学院社会学研究科修士課程、博士課程を経て、1989年に静岡県立大学国際関係学部専任講師となる。1997年からは同教授として、社会学・障害学の教育や研究に取り組む。また、視覚障害者の支援機器開発・研究にも携わる。
2012年から10年間、内閣府障害者政策委員会委員長を務める。また、2017年から2020年まで、国連障害者権利委員会委員(2019年から2020年までは副委員長)を務める。
日本における障害学の発展と、視覚障害者の支援機器開発、障害者の人権確保に尽力する。
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