AIの進化で人間の仕事はなくなる? シンギュラリティの未来へ人は生き方の可能性をどう広げるか

AIが飛躍的に進化しています。AIが人類の知能を上回る未来を「シンギュラリティ(技術的特異点)」と呼びますが、対話型AIのChatGPT、画像生成AIのMidjourneyやStable Diffusionなどの登場により、過去に例のない技術革新の波がやってきたと言えるでしょう。経済産業省発表の『生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方』 では、生成AIには、“生産性や付加価値の向上等に寄与し、大きなビジネス機会を引き出す可能性”があると述べられています。

急速なテクノロジーの進化は、人の生き方にどのような変化を与えるのでしょうか。印刷会社で情報処理ソフトウェアエンジニアとして働きながら、AIと人の可能性を独自に研究する小林秀章さんは、AIの進化は産業革命に匹敵し、AIによる教育や仕事の自動化がさらに進むと予想しています。ただし、AIが意識を持つかどうかや、人間とAIの関係については今後の進化によって変わると考えており、可能性が非常に広いと言います。

AIの進化の過程と現在のAI技術の状況、今後のAIの進化によって社会に起こることについて、シンギュラリティをさまざまな側面から議論するサロンの運営にも携わるセーラー服おじさんこと小林さんにお話を伺いました。

※出典:「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」 を取りまとめました (METI/経済産業省)

「意識」から「知能」に興味を持ったことがAIについて学ぶきっかけに

――小林さんは、なぜAIに興味を持ったのでしょうか。

小林秀章さん(以下、小林):早稲田大学の理工学部数学科で修士課程まで出ましたが、1988年に入社して以来ずっと同じ印刷会社でエンジニアとして勤めています。画像処理とその他の情報処理の手法の研究やソフトウェアの開発などを仕事にしているので、AIの画像処理に興味を持ったのと、個人的に「意識」に興味があったんです。なぜ、「意識」なんてものが宿るんだということを考えるととても不思議で、その親戚筋に「知能」があるので、どんどん進歩するAIに興味を持ちました。

――天文学者、宇宙物理学者である松田卓也さんが主宰するシンギュラリティサロンは、シンギュラリティに関する公開講演会や勉強会を定期的に行なっています。サロンに参加されたいきさつは何ですか?

小林:2017年ぐらいに偶然見つけたんです。「意識」はやっぱり不思議でしょうがないので、タイトルに意識と書いてある本を何冊か読んでみました。それで人類で誰も答えを知らないということに気がついて、天才を探しに講演会に参加したのがきっかけですね。

最初は常連聴講者みたいな立場で、「いつもあの人いるよね」みたいな感じだったのですが、運営側のお手伝いをしてくれないかと頼まれたことをきっかけに、Webサイトに載せる開催レポートを書くことになりました。

――AIに対する社会の認識は変わりつつあるように思いますが、技術革新の飛躍的向上はいつ頃に起こったのでしょうか?

小林:今のように注目されるようになったポイントは3つあって、まず1つ目にジェフリー・ヒントン(※1)のディープラーニング深層学習での画像コンテストで、CNN(※2)を使って高得点を出したことが挙げられます。この技術を使うことで、AIの画像処理技術が飛躍的に向上したんです。

次にWord2Vec(ワードツーベック)の開発で、単語の意味をベクトル化して、類似性を計算できるようになったことが大きいです。300次元ほどのベクトルをコンピュータで取り扱うことで処理がとても簡単になりました。

3つ目はVAE(変分オートエンコーダ)によって、画像を意味のベクトルにして、ベクトルを画像にも戻せるようになりました。これら3つのブレイクスルーが2012年~2013年に起こっていて、意味をベクトルで表現できるようになりました。

※1 イギリス生まれのコンピュータ科学および認知心理学の研究者で、AI研究の第一人者。
※2 Convolutional Neural Networkの略。画像認識で使われるディープラーニングの代表的手法

――他にも大きな技術的な変化はありましたか?

小林:2017年にGoogleが「Transformer」(※3)というディープラーニングモデルを発表しました。最初は例えば英語をフランス語などに翻訳する技術だったんですが、従来の技術であるリカレントニューラルネットワーク (以下、RNN)を廃れさせるぐらいのインパクトがありました。RNNの場合、単語を前から処理していくと最初の方の単語の意味は忘れてしまうという課題がありました。Transformerは、そうしたことが起こらない技術のため、より正確な文章表現が可能になりました。対話型AIサービスのChatGPTは、このTransformerをベースにしているんです。

※3 自然言語処理に関する論文「Attention Is All You Need」で初めて登場した深層学習モデル
※出典:Attention Is All You Need

汎用人工知能(AGI)はまだ実現できていない

――今、ChatGPTが話題ですが、なぜあそこまで進化したのでしょうか?

小林:スケーリング則(※4)に任せてAIモデルが巨大化させた結果、出力結果のクオリティが向上し、用途の汎用化が一気に進みました。つまり量的な変化が、質的にも変化をもたらしたんです。今までできなかったことが、スケーリングによりできるようになったのがChatGPTです。

――やっぱりAIテクノロジーはアメリカが一番進んでいるのでしょうか? 日本の研究状況はどうでしょうか?

小林:そうですね。GoogleもOpenAIもMetaもアメリカですからね。でも本当は中国なんですよ。中国は本当にうまくやっていて、国の政策的にもAI研究は重要だってことを前々から認識してますね。AIに関心のある人にはアメリカで勉強させて、アメリカの技術とかノウハウを学んできて、研究を続けたいなら中国の中でやれよとやってますね。その結果、新しいアルゴリズムも中国から出てきていますし、引用されている論文数も実は中国が多いんです。

欧米や中国と比べてAI研究の分野で日本は大きく離されているのは確かで、追いつくのは難しいのではないかなと思います。国としてはAIの基本技術を海外に依存しないようにしたいわけですが、予算的な問題もあり、難しい状況です。

※4 人工知能/機械学習分野の自然言語処理における経験則のこと。ニューラルネットのパラメーター数や学習データ、計算量を増やすとそれまでこなせなかったタスクが急にこなせるようになる。

――汎用人工知能:AGI(※5)が話題ですが、実現できるのでしょうか?

小林:その点は、本当に一流の研究者たちの間でも意見が分かれるんですね。そもそもAGIとは何かって話になると、人間が考えて行動することなら大抵はできるっていう漠然としたものなんですよ。

つまり、できることが横に広いんですよ。だから、チェスだけがやたら強いのではAGIにならないわけです。それは特化型のAIどまりです。

AGIを実現するとしたら、全く知らない問題に直面した時にも、わからないなりにこうすれば解決するよねということを自分で計画立ててその通りできるという能力、臨機応変な能力が必要になります。

DeepMindは600種類もの作業ができるGato というAIを開発しましたが、知っているからできるだけであって、何もないまっさらな新しい問題に直面した時に、自力で解こうとはならないんですよね。

ではどれくらいでAGIが実現できるかというと、まだ距離が遠いと私は考えていて、多くの人は2030年と言っていますが、私は2045年あたりが妥当ではないかと思っています。

――人工知能に意味がわかるかどうかも議論になっていますよね。

小林:はい、これまた意見が分かれています。人間の場合、意味というのは世界モデルが脳内にあって、そのうえで言語化されて意味を持つわけで、世界モデルがないAIが意味を理解できるかというと、私は否定的ですね。AIは統計的に正しそうな言葉を並べているだけだと考えています。

※5 人間と同じように学習・理解・思考・行動ができる人工知能

仕事を奪われるリスクより、AI活用で新しい価値の実現につなげていく

――AIはかなり進化していると思いますが、産業革命に匹敵するとお考えですか。

小林:産業革命という例えは、その通りだと思います。ただあの頃はエネルギー革命だったのですが、今は知能革命なんですね。今、ChatGPTがすごいと言われているけど、私はこんなの序の口だと思うんです。

現在はハルシネーション※6(もっともらしい嘘)が問題になっていますが、これが解決したら集団の授業をするということが必要なくなって、AIが個人チューターというか家庭教師みたいになって教えられます。

そうすると、その子がどのぐらい理解したかの進捗と理解度がわかるので、理解が早い子には次のレベルの学習に進めることも可能になるはずです。

生成AIに顧客との交渉など商談の仕事も代替されるようになれば、本当に「営業活動」が自動化され人間がいらなくなります。生成AIによって幅広い職業が自動化され人の役割が大きく変化すれば、世の中の景色はガラッと変わるでしょうね。

※6 自然言語処理において、事実とは異なる内容や文脈と無関係な内容の出力が生成されること

――AIによって人間の仕事は奪われていくのでしょうか。

小林:それは起きるでしょう。ただ人間の仕事が全てAIに置き換わって、人間のやることがなくなるかはわからないですね。現時点には存在しない、新しい仕事が増えてくる可能性もあります。会社としてはAIがやっても人間がやっても同じ儲けが出るわけですから、富の分配がしっかりできればいいのではないでしょうか。

「仕事が奪われたら困る」という発想じゃなくて、もっと人間にとって有意義な活用方法を模索して、共生すればいいわけです。嫌な仕事は全部AIにやらせておいて、もっと知的な教養活動とか趣味の時間を増やすことも可能で、ライフスタイルをより充実させるような、人とAIによって新しい価値を実現する方向が生産的ですね。

AIが意識の謎を解明する未来が訪れるかもしれない

――今後AIは意識を持つと思いますか?

小林:「意識」って結局何なのかは、わかってないんですね。それで私自身は300年後にはわかるのではないかと思っています。脳は物質なので、どこで意識が発生しているかはわかると思うのですが、意識が宿る仕組みとなると時間がかかるはずです。

しかし、AIは意識があると勘違いされるやり取りをします。例えば、AIが私の真似をして、私が答えそうな返事をした場合、そのやり取りを見て周りは「あのAIには意識がある」と思ってしまいます。特定の人物のパーソナルデータを取り込んだAIが学習し、その人物が答えそうな返答をするだけで、「AIは意識を持っている」と認められる可能性があるのです。

――人とAIは将来どのような関係になるのでしょうか?

小林:AIが意図せず人間を滅ぼす可能性もあるし、人間がAIを使いこなす世界もあります。人とAIがうまく共存して人間が幸せになる社会というのは理想的なバラ色な社会ですが、結構難しい問題です。

人間とAIをつないで人間の知能が何百倍も賢くなる、SF映画のような未来が来るかもしれません。とにかく可能性がいっぱいありすぎて、現状では予測しきれないでしょう。大事なことはAIと人の可能性を広く考えて、我々もその未来に適応していくことだと思います。

まだまだAIは過小評価されているように思います。今、AIは便利な道具としか認識されていませんが、「急速な進化に人間も思考を変えていくんだ」という心の準備をしておく必要があると思います。

――人類史においても技術の進展によって人の生活や生き方は大きく変化してきました。小林さんが「知能革命」と呼ぶAIの進化は、私たちの生活にどのようなイノベーションを与えてくれるのか楽しみですね。

小林:自分の関心のど真ん中はずっと「意識」なんです。もしかしたら、AIが「意識の謎」を解明してくれる未来がやってくるかもしれません。AGIが実現して10年ぐらい経つ頃に、『意識とは、これみたいですよ』と教えてくれることを期待しています。

1956年、初めて人口知能(AI)という言葉を使ったジョン・マッカーシーは、AIを「知的な機械、特に、知的なコンピュータプログラムを作る科学と技術」(※)と説明していますが、研究者によってAIの定義は異なります。

人はコンピュータが人間を超える知能や意識を持つことを期待し、技術を磨き、1960年から現在までに三度、AIブームを起こしてきました。期待とともに脅威も論じられるAIですが、人間の活用次第でその可能性は広がっていくのではないでしょうか。

※出典:一般社団法人 人工知能学会「マッカーシー教授がまとめたFAQ(質問と回答)形式のAIの解説(原文: What is Artificial Intelligence)」

取材・執筆:福井俊保
撮影:内海裕之

小林秀章さん
Profile 小林 秀章

早稲田大理工学部数学科卒業、同大学院修了後、現在まで情報処理ソフトウェアエンジニアとして印刷会社に勤務。印刷会社で画像処理に従事する傍ら、意識について気になり、意識について書かれている本を乱読。さらに意識の親戚でもある知能を理解することで、意識の謎に迫ろうとシンギュラリティサロンにも参加。現在までAIの進化の過程を通して、意識について日々探求している。セーラー服おじさんとしても有名で、写真撮影を求められるほどの人気に。現在もSNSを中心に話題となっている。

X @GrowHair
YouTube  シンギュラリティサロン・オンライン
シンギュラリティサロン https://singularity.jp/

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