心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【サムソン高橋の場合】
誰かと一緒に生きていきたい。そう思った時、あなたは誰とどんな関係性で生きていくことを望むだろうか。心地よいパートナーシップは、一人ひとり違う。しかしながら、パートナーシップのあり方にはまだまだ選択肢が乏しいのが現状だ。
既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援する「LIFULL STORIES」と、社会を前進させるヒトやコトをピックアップする「あしたメディア by BIGLOBE」では、一般的な法律婚にとどまらず、様々な形でパートナーシップを結んでいるカップルに「心地よいパートナーシップ」について聞いてみることにした。既存の価値観にとらわれず、自らの意志によって新しいパートナーシップの在り方を選択する姿には、パートナーシップの選択肢を広げていくための様々なヒントがあった。
今回話を聞いたのは、ゲイライターのサムソン高橋さん。エッセイストやイラストレーターとして活躍する能町みね子さんと、恋愛感情なし・婚姻届も出さない「結婚(仮)」という形で同居を始めて5年が経つ。サムソンさんの視点から見た、「心地よいパートナーシップ」について話を聞いた。
▼能町みね子さんにお話を聞いた記事はこちらから
心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【能町みね子の場合】
能町さんに話を持ちかけられるまで、「一生1人」だと思っていた
恋愛感情なしの「結婚(仮)」を提案したのは能町さん。1人暮らしに飽きたタイミングで荒れた生活を立て直すためにも「誰かと暮らしたい」と考えた能町さんは、恋愛を伴わない関係性が望ましいと相手を探していた。その際、ゲイであるサムソンさんが適切な相手として浮かんだのだという(能町さんが『結婚(仮)』を提案するに至るまでの経緯は、能町みね子編で深掘りして伺っている)。
一方で、サムソンさんは、能町さんから話を持ちかけられるまで誰かと一緒に暮らすイメージすらなかった。
「1人でいても全くさみしくないので、一生そのままだと思っていましたね。
少女漫画を読んで育ったものですから、もともとキラキラした恋愛への憧れはありました。でも実際は、相手から好かれて付き合ってはみたけど『つまんねえな』と思うか、好みの男性を追いかけて上手くいかないか、どっちか。相思相愛というのはあまり記憶にないです。
若い頃はお金持ちのイケメンと結婚して幸せになる未来を想定していたんですけど、だんだん『あれ、そんなに上手くはいかないぞ』と感じるようになりました」
そんなサムソンさんは、「いまだにみね子(能町さん)との生活を『結婚(仮)』と言われるとギョッとする。ただの同居じゃん!と思っている部分があります。私にとっては、互助会のような感覚です」と話す。
「先々のことは考えずに一緒に暮らし始めたので、介護とか、そういった問題に向き合うのは先延ばしにしてるけど」と前置きしてから、「どっちかがヨレヨレになっちゃって、面倒を見たり見られたりするのはやっぱりちょっと嫌かなって。それに、(結婚から連想するような)責任という言葉が嫌いなんですよ」と続ける。
婚姻届を出すことも視野に入れていた能町さんは「面倒を見なければならない状況になったら、離婚すればいいと思うんですけどね」と言うが、サムソンさんは「私は戸籍が綺麗なままがいいので」と返す。
決め手は「能町さんだったから」と「タイミング」
当たり前だが、2人の考えはそれぞれ異なる。結婚の価値観も能町さんと違えば、誰かと暮らすことも考えていなかったサムソンさんが、それでも結婚の提案を受け入れた決め手はどのようなものだったのか。
「単なるそこらの女の人に同じ提案をされても『何考えてんのあんた!』とあしらったと思うんですけど、みね子はちょっと有名人だから(笑)。同居の『練習』としてうちに泊まりに来るようになった初期の頃は『ああ能町みね子さん、どうぞいらっしゃいませ』って、むしろ丁重にお迎えしていましたね」
そんなサムソンさんはもともと、能町さんの書く文章が好きだったそう。
「能町さんの『オカマだけどOLやってます。完全版』(文春文庫、2009年)が本屋で並んでいるのを見て『まあ、おかまでお金稼ぎするなんて、ふてえ野郎だ』と思ったんですけど、読んでみると内容がとてもまともで。自分の考えともそう遠くないと思いました。その後の活躍も見ていて、能町さんが出るイベントを観に行ったときに初めてお会いしました」
相手が書く文章への尊敬があるのはサムソンさんだけではない。能町さんもまた、サムソンさんが書く文章を高く評価している。その点ではいわば「相思相愛」だ。
同居の発端になったのも、能町さんのこんなツイートだ。
サムソン高橋さんはチャーミングだし、原稿も、まじめに書いても毒を吐いても面白いから大好きで、偽装結婚の相手として最高じゃないでしょうか…
— 非認証能町みね子🏳️🌈 (@nmcmnc) June 16, 2016
「そのツイートを見たときは完全にギャグだと解釈しましたね。でもそのうち本当に週1で泊まりに来るようになったんです。それでそのまま巻き込まれました」
サムソンさんの家に能町さんが引っ越す形で同居がスタートしたのが2018年2月。サムソンさんにとっては、そのタイミングもよかったのだという。
「ちょうど私が数年前に家を買っていたんですよ。3階建ての60数平米の家に1人で住んでいたので、1人ぐらい増えてもそんなに変わらないかなって」
「生命維持装置」としての同居
実際、同居を始めてからはどのような変化があったのか。
「みね子と暮らし始めてから、恋愛が全くなくなっちゃったんです。それまでは恵まれてこそいませんでしたが不自由はしていなかったのに、ぱったりとなにもなくなりました。
でも、ふと気づいたら私、55歳じゃないですか。これまでとは違うフェーズに突入しているのかも。まだまだ夢見たい年頃なのにね!
あとは、だんだんと家族化している気がします。みね子は私の恋愛の話とかハッテン場の話が聞きたいと言うけれど、お母さんや妹に話すような感じがして嫌です。逆にみね子の著書『結婚の奴』(平凡社、2019年)も読んでない。近しい人の生々しい話が書かれているのは読みたくないですね。自分のことについて、なにを書かれてもいいけど、読みたくはないと思います」
ちょうど50歳の年に能町さんとの暮らしを始め、現在55歳になったサムソンさんは「いま死んでもそんなに思い残すことない」と言いつつ、能町さんとの暮らしを「生命維持装置」とも話す。
「やっぱり一緒にいたほうが健康的になる。朝はちゃんと起きるし、スマホを見ているだけで3時間経過してしまうようなこともそんなにないし。この5年間で寿命が1年分ぐらいは延びたんじゃない?」
2人の生活では、サムソンさんが能町さんから生活費プラス家事代を受け取り、家事全般を担う。サムソンさんが大嫌いだというお皿洗いは、代わりに嫌いじゃない能町さんがたまに担うらしい。
他にも、衛生観念や食の価値観の違いはあるが、サムソンさん曰く「2人とも同じくらいいい加減」。ちょうどいいバランスで成り立っている様子がうかがえる。
怒らない、求めない、影響されない。意識したのではなく、結果的によかったこと
「暮らしが破綻しない大きな理由は多分、意外と2人とも精神が落ち着いていて、アップダウンがないから。お互い相手に対して本気で怒ったことはないと思います。どちらかが『キー!』ってなる人だと、一緒に暮らすのは難しいですよね。
私は割と、恋愛関係だとキーキー言うのよ。『なんで私の思い通りにならないのよ!』って。そうならないのはやっぱり、みね子に対する恋愛感情がゼロだからですね。
それに、『能町さんは特殊な人』というイメージを持っている人もいるかもしれないけれど、生活してみて思ったのは、本当に普通の人なんですよ」
現在、引っ越しの途中でしばらく別居状態の2人。「離婚の危機」「どうなることやら」と冗談めかして話すが、やりとりを聞いていると2人での生活は変わらず続いていきそうだ。
「別居中も特にさみしくはないです。多少の開放感はあるかな。一方で、みね子が泊まりに来ても『この人に飯作るの嫌だなあ』とは思わないね。
お互いに影響されにくいんじゃない?みね子に影響されることもないし、みね子が私に影響されることもないと思う」
最後に、サムソンさんは「私はお金持ちの男性との同性婚をまだ諦めてないから」と話す。
「『みね子を失ったらどうしよう』なんて思うことは、ないねー!」というサムソンさんに対し、能町さんは「失ったらどうしようというのは少しあるかも……家事がぐちゃぐちゃになって健康を失いそうだし」と話す。
ここでも違いが見られたが、2人の暮らしはそれぞれの違いがあるからこそ上手くいっているのかもしれない。自分と相手の間にしっかりと線を引き、期待や依存をしすぎず、それぞれの生活をするなかで「他者」が必要な場面では補い合う。その「他者」はもちろん誰でもよいわけではなく、サムソンさんと能町さんは互いに「どうでもいい」と言い合いながら、絶妙なバランスでその生活を続けているのだろう。
お相手の能町さんにお話を伺った記事では、サムソンさんに「結婚(仮)」という形で同居を提案するに至るまでを深掘りして伺った。あわせて読むと、さらに2人それぞれの価値観が見えてくるかもしれない。
▼能町みね子さんに聞いた「心地よいパートナーシップ」とは?
心地よいはみんな違う。私たちのパートナーシップ【能町みね子の場合】
取材・文:日比楽那
編集:大沼芙実子
写真:服部芽生
ゲイライター。雑誌「SAMSON」編集者・ライターとして勤務後、フリーに転身。著書に「世界一周ホモのたび」(ぶんか社、2011年)、「ホモ無職、家を買う」(実業之日本社、2017年)など。
Twitter @samsontakahashi
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