【寄稿】「気にしすぎ」は思慮深く、相手を思いやれることの裏返し|吉本ユータヌキ
LIFULL STORIESは、2023年2月28日から3月13日まで、はてなブログと共同で「わたしがとらわれていた『しなきゃ』」をテーマにしたお題キャンペーンを実施しました。
期間中、360件を超える投稿が寄せられました。投稿記事を見ると、少子高齢化対策、男女共同参画、人生100年時代、技術革新、個の時代への変化など、忙しく働く世代がさまざまなプレッシャーの中で頑張っている姿が浮き彫りになりました。
今回、自らも3児の父である漫画家の吉本ユータヌキさんに気になる投稿記事を3つピックアップしてもらい、コメントをいただきました。また、自らもさまざまな「しなきゃ」にとらわれてきた吉本さんに「ラクに生きるためのヒント」を教えてもらいました。
はじめまして、吉本ユータヌキです。
滋賀県在住の漫画家兼イラストレーターであり、3児の父親です。昨年8月にLIFULL STORIESで取材をしていただいて、「男は仕事、女は家事という役割、なんてない。」という記事を掲載していただきました。
そして今度は、ありがたいことにエッセイ企画でお声がけいただき、2度目の縁に驚いております!本当に感謝しております。
今回は、「わたしがとらわれていた『しなきゃ』」をテーマにしたお題キャンペーンの投稿記事から、僕が「このモヤモヤ、わかるな~」とか「確かにそうだよね」みたいな共感や気付きがあったものを選ばせていただきました。
みんな、いろんな「しなきゃ」にとらわれていて、悩んでいるんだな~と感じて、自分自身の考えや生き方にも参考になった記事がたくさんありました。
女が家事をしなきゃいけない、なんてない。
byはおはお (id:haohao3)さん
朝早くから夜遅くまで働き、お子さんの看病もしていたhaohao3さん。でも、自分自身の奥底にこびりついていた「女が家事をしなきゃいけない」という気持ちにとらわれ、食事の支度、掃除、洗濯を続けていました。徐々に体が壊れ始め、気持ちはいつもイライラ、自分が嫌になり、涙がこぼれていたある日、夫の「別にやりたくなければやらなくてもいい」という一言で心が軽くなり、優しい気持ちが復活してきたと言います。
吉本ユータヌキさんコメント
女性の「家事をしなきゃ」について書かれたものですが、僕も子どもが生まれ、お父さんになった時に、男として「家庭を支えられるようにしっかり稼がなきゃ」と強く思いました。僕は20代半ばまで音楽を生業としており、周りに比べて会社員としてのスタートが遅かったので、家庭を支えられる給料がもらえていないことに劣等感を感じていました。妻や世間から「稼げないお父さん」「情けない父親」と思われたくなかったんです。
僕の周りにいる30代~50代の人は、親の影響で「女は家事育児、男は仕事」の考え方が無意識に染み付いている人が多くて、同じような悩みを話す機会が多くあります。
社会全体の変化もあり、僕自身もそんな立ち位置に違和感を持ち始めていました。そんなある時、お仕事で接した女性ライターの方に「家事をもっと手伝いたいと思っている」とポロっと話すと、「家事は手伝うものではなく、一緒にやるものですよ」と言ってくれたんです。その一言で自分が無意識のうちに「男性は仕事、女性は家事や育児」と分けていたことに気付かされました。
誰かのために何かしなきゃ、なんてない。
by 3J.S.B.mate RILYS (id:rilys-3jsbmate)さん
職場に溢れかえる「しなきゃ」よりも、気持ちの奥に隠れている「したい」を実感したいという七彩工房さん。「誰かのために何かをしなきゃ、よりも、人のために何かしたい」というコメントは生活のあらゆるシーンに通じるように感じます。
吉本ユータヌキさんコメント
徐々にわかってきたことですが、自分の中の「しなきゃ」は自分が子どもの頃から見ていた父親や母親に起因していたんです。母は家事・育児をしながら、仕事もしていました。その母に対して家事を全くしない父はどこか頼りないイメージがあり、自分は「そうなりたくない」って思っていたんです。だから、僕は家事もちゃんとやりたい、と思いました。
ところが、妻に「家事をやりたい」って言ったら、「家事をやらないでほしい」との返答。「自分のやり方がまずかったのか」と、その理由を尋ねてみると、実は妻は家事の時間に、いろいろと頭を整理しているらしいのです。その話し合いを通じてわかったことは、妻は家事をやりたいので、その間、僕に子どもの相手をしてほしいということでした。僕は「家事ができていない旦那=ダメな旦那」だと思っていたんですが、意外なことに妻にとっては都合が良かったんです。
「誰かのために何かしなきゃ」よりも「この人のために何かしたい」と思って、目の前の人に向き合った時に新しい気付きが生まれることを僕も妻との関係の中で経験しました。
落ち込んじゃだめ、なんてない。
byかたかな (id:north_kana)さん
大切な人が落ち込んでいるのを見ると、相手の気持ちに寄り添いたいと思いながらもつい励ましの言葉を掛けてしまうことがあります。かたかなさんは、これは“完全なるエゴ”と結論付けたそうです。そして、それは自分の感情に関しても同じこと。自分の感情を判断せずに、できるだけ客観的に自分を見ることが大切だと言えるでしょう。「自分の感情を無視せずに丁寧に向き合うことで、他人の感情も大切にすることができる」とかたかなさんは語ります。
吉本ユータヌキさんコメント
僕自身も他人に落ち込んでいる姿を見せるのが苦手で、人と一緒にいる時は「明るくいなきゃ」と思っていました。そして、泣くこともネガティブな感情表現だと思っているので、人前では泣けないんです。辛いことがあったら、それを笑いに転換しなければ、というルールがどこか自分の中にあります。
ただ、最近は「怒っている」感情は出せるようになってきたんです。例えば、相手にされたことで辛かったこと、悲しかったことをちゃんと伝えることで、その人との「悪い関係」が一旦終わるからラクになるんです。
怒りっぽかった父親の影響もあり、僕は怒っている人を見るのがとても嫌で、自分も“怒り”という感情を持ちたくないって思っていました。でも、ここ2年くらい、感情について興味を持って勉強する中で怒りには「自分の中で怒っていること」と「相手を攻撃すること」は別物だということがわかってきたんです。僕が「今、怒っていること」を伝える、表現するのは悪いことではないんです。
自分がどうしたいかは後回しにしなきゃ、なんてない。
「しなきゃ」ってなっている時って何かと比べていたり、世間体を意識し過ぎたりしていて、「自分がどうしたいか」を置き去りにされていることが多いなって思うんです。
でも、その現状に気付きながらも、親であればやはり稼がなきゃいけないですし、子どもがいる以上、ほったらかしにはできません。その中で「自分がどうしたいか」も大事にしつつ、バランスを取るって正直、めちゃくちゃ難しいんですよね。
ただ、「全部やらなきゃいけない」わけじゃないんです。「やらなきゃいけない」って思っている中にも「やらなくてもいいこと」って実はあったりするんですよねだから、一日の自分を振り返ってみて、「明日やらなくてもいいこと」を探してみるのはどうでしょう?例えば、「3食自炊しなければいけない」と思っていたら、1食は自炊をやめてスーパーでお惣菜、インスタント食品、パンなどを買ってみるのはどうでしょう。意外に家族は喜んでくれるかも。
そうやって、振り返りながらちょっとずつ変えてみる、チャレンジすることで、自分がとらわれていた「しなきゃ」は意外にそうでないことがわかり、現実とのギャップに気付けるかもしれません。
「気にしすぎ」な人は思慮深く、人のことを思いやれる人
2023年2月に発売した『「気にしすぎな人クラブ」へようこそ』は、僕が持っている悩みを公認心理師 兼 プロコーチの方に相談した内容が書かれています。そのプロセスで僕は「気にしすぎ」は“生きづらい、しんどい”というネガティブなものではなく、むしろ「気にしすぎ」な人は圧倒的に思慮深く、人のことを思いやれることに気付けたんです。
無意識な思い込みでユータヌキさんが日々感じるモヤモヤと、コーチングを受けて気付いた考えをまとめた一冊が発売中。
個人的に「気にし過ぎていた」ものの中に、他人の遅刻があります。他の人が遅刻すると、怒りを感じる傾向があったんです。でも、公認心理師 兼 プロコーチの方とのコーチングを通じて「怒りは悲しみの二次感情」ということを教えてもらいました。悲しいことがあった時に、それをわかってほしくて怒りになってしまうみたいです。なぜ、悲しみを感じるのかを自分に問いかけてみたら、「時間を守ること」をとても大事にしていたことに気付けました。それからは、大事にしている時間への考え方をコントロールして、怒ったり、悲しんだりしなくて済むようにしたら良いんじゃないかなって思いました。
例えば、「決まった時間までに子どもを保育園に連れていかなきゃ」にとらわれて、時間に間に合わないような時にはイライラしちゃう時もあったんです。でも、少し早めに起きて子どもの準備に余裕を持たせることができたり、わざと保育園に遅めに行ったりしても、特に心配するようなことは起きないんだとわかったんです。それまで思い通りにいかないと感じていた怒りや悲しみが減って、ラクになりました。
焦らずにちょっとずつでいい
僕は父親や会社の上司から言われてきた既成概念や思い込みが染み付いていて、思うようにできないことがいまだに多いです。「しなきゃいけない」にとらわれず、自分らしくいるって簡単じゃないよなって思っていました。でも、「しなきゃいけない」は、自分の捉え方や考え方次第で手放せるんだって気付けました。
子育てをがんばっている親世代だけじゃなくどんな世代にも言えることですけど、「しなきゃ」を一度に手放すことは難しくても、毎日ちょっとずつ積み重ねていけたらいいって思っています。「もしかしてこれってとらわれているのかも」ってちょっとした「疑い」を持ってみるといいと思っています。
おすすめは、「言っちゃいけない」を止めてみること。口にしたり、外に出したりすることで、とらわれてきたものが少しずつほぐれていく感覚があるはずです。そうすることで、外の世界が見えてきます。
例えば、外の世界を見ることで「男性は仕事をして、女性は家事をする」という「しなきゃ」も自分の家庭だけのルールだったということがわかるかもしれませんし、そうじゃない家庭があることも知ることができます。
そして、自分の中に「しなきゃ」があると感じたら、誰かに話してみてほしいです。そこには共感が生まれるかもしれませんし、「気付き」が始まるような気がします。

3児の父親、漫画家。一時期は「漫画家をやめたい」と落ち込んだ時期もあったが、コーチングで「しなきゃ」を少しずつ手放せるように。その経験をまとめた作品『気にしすぎな人クラブへようこそ』を2023年2月に上梓。好きなものはラジオを聴くこと、お肉、阪神タイガース。
Twitter @horahareta13
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