【後編】SNS上で起こる「エコーチェンバー現象」とは? デマやフェイクニュースへの対策を解説
私たちは毎日多くの情報をSNS経由で取り入れています。SNS上にはさまざまな情報があり便利ですが、一方、その中からデマやフェイクニュースを見分ける必要があります。たくさんある情報から、信頼できる情報を取捨選択することは簡単ではありません。その点で、知っておきたい気を付けるべきことに「エコーチェンバー現象」があります。
この記事では下記の5点を解説します。
前編
後編
SNSを健全に利用するためには?
SNSを健全に利用するためには、エコーチェンバーの影響を受けないようにする必要があります。SNSの有用性は認めつつも、できるだけ偏りなく情報収集を行うためには一人ひとりが情報リテラシーを高めることが欠かせません。具体的には、以下の3点を心がけましょう。
ポイント①安易に情報を信じ込まずに、1次情報にアクセスする
SNSや個人のブログ記事、まとめサイトでは、出所が分からないさまざまなデータを切り貼りして、自分の主張をつくり上げているコンテンツがあります。そうした主張がどんなデータに基づいているのか、データの出典はどこかをチェックしましょう。もし、出典が分かるようなら必ず1次情報をチェックし、正しく引用されているか確認します。
ポイント②自分が見ている情報が全てではないことを認識する
同じ価値観や意見を持つ人とつながれるのはSNSの利点です。しかし、そうした人たちとばかり情報のやりとりをしていても、視野が広がることはありません。自分と違う意見の人たちがいることを認識すれば、異なった意見に触れても、すぐに批判したり、攻撃したりすることを避けられます。
ポイント③正確な情報、多様な意見や考え方に触れたり、対話したり、コミュニケーションを意識する
「対話」は単なるおしゃべりとは異なり、何かしらのテーマに基づいて、それぞれの意見を述べ合うことを意味します。たとえば、テーマに基づくお互いの意見が異なる場合、まずは、お互いの意見や立場が違うことを認めます。そして、対話によりコミュニケーション不足からくる言葉の意味のズレをすり合わせたり、自分の考えを深めたりすることができます。テーマにもよりますが、さまざまな異なる意見が存在してしかるべき場合には、相手の意見を尊重しながら、対話することを心がけましょう。
対話は、日常生活において大切なコミュニケーションの一つです。ただ、「話すことが苦手」「自分は“コミュ障”だから……」と後ろ向きになっていませんか? 対話への思い込みを捨てるところから始めてみると、新たな気付きや発見があるかもしれません。
思い込みや偏見に支配されず、多様な意見を理解するには
SNS上のコミュニケーション方法や情報の取得の仕方を工夫したり、対話を取り入れたりすることで、異なる考え方に向き合う人たちの事例を紹介します。
精神科医の名越康文さんは、短い文だけでやりとりするコミュニケーションは日本人だからこそトラブルが起きやすいと分析します。目の前の言葉そのものを受け取るのではなく、言葉の裏側を想像してしまう傾向が多くの日本人にあるため、「言葉に対する敏感さ」を自分自身で客観的につかんでおくことが必要だと言います。
エシカルファッションプランナーとしてオンライン講座やコミュニティを展開する鎌田安里紗さんの情報に対する向き合い方は、私たちにとって参考になります。誰もがSNS上では分かりやすい主張や意見に飛びついてしまう傾向がありますが、鎌田さんは「常にモヤモヤしている」と言います。しかし、「その状態はきっと健全」であり、「『適度な罪悪感』を感じながらも少しずつ良い方向へ向かえるように生きていけたらいいのではないか」と語っています。
フーズカカオ株式会社の代表取締役として、スペシャルティカカオ豆の開発に取り組む福村瑛さんは、「良くも悪くも日本の人たちは人を信用しすぎている気がする」と指摘します。福村さんが関わっているカカオ農園に関しても、多くの人たちは貧困の問題や児童労働の問題など海外メディアを翻訳した記事だけで判断しており、実際に日本人ジャーナリストが現地に足を運んで記事にしているケースが少なすぎると懸念しています。「1次情報を得ることが本当の課題を解決する第一歩だと思っています」と福村さんは語ります。
歌人として活躍する鈴掛真さんは、ゲイとしての葛藤など活動当初から自分の性的指向をカミングアウトしています。鈴掛さんは、近年LGBTQ+という概念が広まったからこそ生まれた誤解や偏見があると感じており、「LGBTQ+の人を『概念』ではなく『個人』で見てほしい」と主張します。セクシュアルマイノリティーも一人ひとり個性が違うのは当たり前、「それぞれと会って話していくことで差別はなくなる」と語ります。
まとめ
今回、エコーチェンバーについて初めて知った人もいるかもしれません。SNS上でそうした現象が起きていることを知っているのと、知らないのとでは情報に対するアプローチが全く変わるでしょう。エコーチェンバー現象の根底にある確証バイアスも含め、私たちが自分の認知の仕方について、慎重に丁寧になることで、自分も他人も傷つけることが減り、もっと健全にSNSを活用していけるはずです。
前編を読む
東京工業大学環境・社会理工学院准教授。名古屋大学大学院情報学研究科講師等を経て現職。学外ではカリフォルニア大学ロサンゼルス校客員研究員、インディアナ大学客員研究員、科学技術振興機構の「さきがけ」研究者を務めた。専門は計算社会科学。主著に『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人)、『ディープフェイクの衝撃 AI技術がもたらす破壊と創造』(PHP研究所)がある。
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