【前編】SNS上で起こる「エコーチェンバー現象」とは? デマやフェイクニュースへの対策を解説
私たちは毎日多くの情報をSNS経由で取り入れています。SNS上にはさまざまな情報があり便利ですが、一方、その中からデマやフェイクニュースを見分ける必要があります。たくさんある情報から、信頼できる情報を取捨選択することは簡単ではありません。その点で、知っておきたい気を付けるべきことに「エコーチェンバー現象」があります。
この記事では下記の5点を解説します。
前編
後編
「エコーチェンバー現象」とは?

笹原和俊氏(東京工業大学 環境・社会理工学院 准教授)は、「ソーシャルメディアを利用する際、自分と似た興味・関心を持つユーザーをフォローする結果、意見をSNSで発信すると自分と似た意見が返ってくるという状況」について、「閉じた小部屋で音が反響する物理現象」にたとえ、そしてそれを「エコーチェンバー」と解説しています。
SNSは自分と類似した価値観や趣味を持つ人たちとインターネットを通じて知り合い、互いにフォローしたり、「いいね」したりすることで交流を楽しめるツールです。
SNSや検索エンジンはアルゴリズムによって最適化されており、過去に閲覧したものや発信した内容に基づき検索結果を表示するように設計されています(推薦アルゴリズム)。そのため、次第に「おすすめ」される情報は自分が「好むであろう」内容に占拠されることになります。その結果、自分の意見と異なる情報は排除され、自分の考えが偏っていることを認識しづらくなるのです。
このように、人々がインターネット上にある一つの意見に流されていき、それが最終的に大きな流れとなることを「サイバーカスケード」と呼びます。ネットでの炎上現象やコロナ禍で起きた「自粛警察行動」の背後には、このサイバーカスケードが関係しているケースが多いといわれます。
※出典:総務省|令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの
過激な考えに傾倒してしまう危険性がある

サイバーカスケードは、「ネット上での集団極性化現象」のことで「集団極性化」とは、集団で討議を行うと、討議後に人々の意見が特定方向に先鋭化する現象を指します。さまざまな考え方を持つ人が集まり、討議をすることでバランスの取れた見方ができるようになるのでは、と考えますが実際はそれと逆の現象が生じ、ネット上ではその傾向はさらに強まります。そのため、同じ価値観を持つ者同士でつくられたコミュニティーは、負の側面も大きいという指摘もあります。
エコーチェンバー現象に加え、サイバーカスケードを引き起こすものとして「フィルターバブル現象」があります。フィルターバブルとは、SNSや検索サイトの推薦アルゴリズムが、その人の見たくない情報を遮断することで、見たい情報ばかりがフィルターを通り抜けることをいいます。その結果、それらの情報に接する人の視野はどんどん狭くなっていきます。
サイバーカスケードが実際の行動に結びついた例として、2021年の米国連邦議会乱入事件が挙げられます。この事件に大きな影響を与えたのは「特定の出来事が何か邪悪な集団や人物の策略や陰謀である」とする陰謀論だといわれています。
中でも「トランプ大統領がディープステート(闇の政府)と戦うヒーローである」とする「Qアノン」と呼ばれる陰謀論が大きな影響を持っていたようですが、そのきっかけは2017年に「Q」と名乗る人物がインターネットに書き込んだ投稿でした。それがエコーチェンバー現象や、フィルターバブル現象によって広がり、増強していき、死傷者を生み出すほどの暴力的な事件にまで発展したのです。
このようにエコーチェンバー現象は、単にネットのバーチャルな領域にとどまらず、実社会にも大きな影響を及ぼすことが懸念されています。
※出典:総務省|令和元年版 情報通信白書|インターネット上での情報流通の特徴と言われているもの
エコーチェンバーの要因となる確証バイアス

エコーチェンバー現象を引き起こす心理的な要因の一つに「確証バイアス」があります。確証バイアスとは、「人間が持つ、自分がすでに持っている意見・信念を肯定する情報ばかりを集めようとする傾向」のことです。
一般的な事例として、血液型と性格の関係があります。現在、血液型と人の性格には因果関係がないことが科学的に証明されています。実際、同じ血液型でも人の性格はさまざまな特徴を含んでいます。しかし、「A型は几帳面(きちょうめん)」という意見を信じ込んでしまうと、相手の几帳面に見える部分ばかりに注目するようになります。結果として、「A型は几帳面」という思い込みはますます強化されてしまいます。
上の事例からも分かる通り、確証バイアスによって「自分の考えが正しい」という認識は助長されてしまいます。こうした思考のゆがみはSNSだけでなく、日常生活や社会活動、政治や経済などさまざまなシーンに散見されます。
私たちが完全に確証バイアスから解放されることは不可能と言えるでしょう。誰も世界を客観的にありのままに見ることはできないからです。そのため、「自分には確証バイアスがある」と認識することが、気付きへの第一歩です。インターネットやSNSを健全に活用するためにも、情報を検索する時にはその点を銘記するようにしましょう。
後編へ続く
東京工業大学環境・社会理工学院准教授。名古屋大学大学院情報学研究科講師等を経て現職。学外ではカリフォルニア大学ロサンゼルス校客員研究員、インディアナ大学客員研究員、科学技術振興機構の「さきがけ」研究者を務めた。専門は計算社会科学。主著に『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(化学同人)、『ディープフェイクの衝撃 AI技術がもたらす破壊と創造』(PHP研究所)がある。
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