【後編】住宅弱者とは? 社会問題となっている背景・住まい探しの不安・取り組みを紹介
日本社会が抱える問題は多岐にわたります。その中には少子高齢化、シングルマザーの増加、障害者、外国籍の人との共生などが含まれます。それらの問題が絡み合った先に浮かび上がってくるのが「住宅弱者」と呼ばれる存在です。まだあまり知られていない住宅弱者について、この記事では下記の4点を解説します。
前編
後編
住宅弱者の住まい探しの実態とは
ここからは、実際に住まい探しをしている人たちがどんなところに苦労し、不安を感じているのか、実態調査をもとに紹介します。
株式会社LIFULLが2022年7月に行った「住宅弱者の『住まい探し』に関する実態調査」によると、住宅弱者層の約6割が自身のバックグラウンドを理由に不便を感じたり、困ったりした経験があることが分かりました。新型コロナウイルス感染症などの社会的変化により2019年の調査よりも約16ポイントも増加したのです。また、約7割の住宅弱者層が「自分の社会的立場に理解のある不動産会社との出会いが重要だと思う」と回答しました。
また、65歳からの部屋探しを専門で支援する株式会社R65の調査によると、65歳以上に「不動産会社に入居を断られた経験がありますか?」という質問に対し、全国では23.6%、関東圏では27.9%が「はい」と答えました。
高齢者の入居を妨げる原因として、連帯保証人や緊急連絡先の確保の他、「入居中に高齢者が認知症などにより判断力が低下した場合、どう対処したらいいのか分からない」といった不動産オーナー側の不安が挙げられます。さらに、最大の不安としては、高齢者が亡くなった時、特に孤独死の場合、事故物件と思われたり、残置物の処理などに手間や時間がかかったりすることで、次の入居に支障があることを心配する声が聞かれました。
こうした中、R65の代表取締役、山本遼さんは高齢者向けの賃貸住宅を取り扱うことに力を入れています。同時に不動産オーナー側の「孤独死の不安」にも寄り添い、見守り機器を付け、保険で孤独死の損害をカバーできるようにしています。
※出典:LIFULL HOME'S 住宅弱者の「住まい探し」に関する実態調査結果を発表 – 株式会社LIFULL(ライフル)
※出典:65歳以上の「4人に1人」が賃貸住宅への入居を断られた経験あり。6割の20〜30代は、この問題を“知らない”|株式会社R65のプレスリリース
住宅弱者フレンドリーな不動産会社を探すコツ
「住宅弱者」という社会課題に取り組むプロジェクトは他にもあります。その一つが「FRIENDLY DOOR」です。事業責任者の龔 軼群(キョウ・イグン)さんは、中国籍の両親のもと上海市で生まれ、5歳で来日。日本で進学・就職をしたものの、社会人になってから自身も中国籍であることを理由に住まいを借りられない経験をしました。
このプロジェクトを通じて、生活の基盤となる住まい選びの不平等さを解決すべく、高齢者やシングルマザー・ファーザー、外国籍者、障害者と空き家を抱える不動産オーナーの架け橋になろうとしています。
住宅弱者だからと住まい探しを諦めることはない
住宅弱者と呼ばれるシングルマザー・ファーザー、外国籍の人、LBGTQ+の方々などはどのように住まい探しの難しさに対処しているのでしょうか? 以下では、日本国内での取り組みや、実際に住まい探しで苦労された方の声を紹介していきます。
秋山怜史さんは、一級建築士として2008年に事務所を設立して以来、家を建てるだけでなく、「住まい」そのものを通して社会問題に向けたアプローチを開始。その一つが2012年からスタートしたシングルマザー向けのシェアハウスでした。空き家を母子家庭向けシェアハウスにすることで、空き家問題とシングルマザーの住居問題を解決しようとしています。
三遊亭好青年(ヨハン・ニルソン・ビョルク)さんは、初のスウェーデン人落語家です。日本でさまざまな壁にぶつかりましたが、その一つが住まい探しだったそうです。「外国人はゴミ出しなどのルールが理解できないかもしれない」との思い込みゆえに、多くの不動産オーナーから入居を次々と断られ、アパートが決まるまで長い時間がかかりました。三遊亭さんは「外国人だからという理由だけで拒絶せず、ぜひ歩み寄ってほしいと思います」と述べます。
須藤あきひろさんが代表を務める「IRIS(アイリス)」は、LBGTQ+の方々にもフレンドリーな不動産会社です。須藤さんは、同性カップルも男女のカップル、家族同様に認めてもらえるように不動産オーナーと交渉し、物件を確保、住宅弱者の問題を解消できるよう力を尽くしています。
まとめ
日本社会の課題の縮図とも言える「住宅弱者」。しかし、絡み合う糸をほどいていけば、解決策は意外にシンプルなのかもしれません。行政による取り組みも進んでいますが、解決策を制度だけにゆだねるのではなく、誰もが住宅弱者になり得ることと意識して、この問題を「自分ゴト」にすることが何よりも大切だと言えるでしょう。
■「障害者」の表記について
「自身が持つ障害により社会参加の制限等を受けているので、『障がい者』とにごすのでなく、『障害者』と表記してほしい」という当事者からの要望と本記事の監修者の思いから「障害者」「障害」という表記を使用いたします。
前編を読む
株式会社LIFULL ACTION FOR ALL / FRIENDLY DOOR事業責任者。中国・上海市生まれ。5歳で来日。中央大学総合政策学部卒業後、2010年株式会社ネクスト(現・LIFULL)に入社。2019年に、外国籍者やLGBTQ+、高齢者などの住宅弱者問題を解消するため、LIFULL HOME’S FRIENDLY DOOR(フレンドリードア)を立ち上げ、事業責任者に。その他、認定NPO法人Living in Peaceの代表理事、一般社団法人Welcome Japan 理事、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会 あんしん居住研究会委員、書家の顔も持つ。
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