『匿名』で小説家デビュー。YouTuber・小説家のぶんけい/柿原朋哉【止まった時代を動かす、若き才能 A面】
2019年末から世界を侵食し、今なお我々を蝕むコロナ禍。失われた多くの命や、止まってしまった経済活動、浮き彫りになった価値観の衝突など、暗いニュースが多い現在。しかし、そんな閉塞的な空気の漂う今でも、むしろ今だからこそ、さらに自身のクリエイティビティを輝かせ、未来を作っていく素敵な才能を持つ若者たちが存在する。
既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援する「LIFULL STORIES」と、社会を前進させるヒトやコトをピックアップする「あしたメディア by BIGLOBE」は、そんな才能の持ち主に着目し、彼ら/彼女らの意志や行動から、この時代を生き抜く勇気とヒントを見つけるインタビュー連載共同企画「止まった時代を動かす、若き才能」 を実施。
A面では、その才能を支える過去や活動への思いを、B面では、表舞台での活躍の裏側にある日々の生活や、その個性を理解するための10のポイントを質問した。
B面はこちらから⇒【YouTuber・小説家のぶんけい/柿原朋哉を知るための10のポイント】(10月12日公開予定)
第4弾は、YouTuber・小説家の柿原朋哉さん。「ぶんけい」名義で取り組んだYouTube・パオパオチャンネルでは、チャンネル登録者数140万人超の圧倒的人気を誇った。
そして2022年8月、『匿名』(講談社)で小説デビューを果たす。2年を費やして書いた処女作では、匿名の歌手「F」と、匿名アカウントで「F」を追いかけるファンの姿を描いた。
若くしてインフルエンサーとなり、今もなおクリエイティブに情熱を注ぎ続ける柿原さん。彼の考え方や大切にしていることを紐解いていく。
遊びがないから物語を求めた
「物語」が好きな少年だった。
娯楽があまりない地域で育ったため、自分で何かを創らなければならなかった。漫画を描き、小説を書いた。高校では放送部に入り、ショートドラマを作った。
「東京で言うと『今日は渋谷行こう』みたいな場所がないので、休みの日に友達と集まっても『何する?』と話し合う。いつもそうだったので、高校生までの時間は、何かを考えるトレーニングになったかなと思っていて。
中学3年生のとき、湊かなえさんの『告白』を読み、それが原作となった中島哲也監督の映画『告白』も観て、衝撃を受けました。『同じ話でも、小説と映画では表現の仕方によってこんなに変わるんだ』って。それまで何かを創ることは趣味であり、自己満足だったんですけど、そこから創作物の “物語性”に惹かれていったんです」
高校では放送部に入った。「NHK杯全国高校放送コンテスト」では、監督・脚本を担当したショートドラマ作品で全国優勝。才能の輝きを早くも見せ始める。高校2年生からは、ニコニコ動画で「踊ってみた動画」の投稿をスタートした。
「放送コンテストという大会に出て、初めて人から評価される経験をしたことが大きかったですね。『踊ってみた』も大会と同じなんですけど、知らない人に感想をもらう、批評を受けるという体験をしました。メンタルが強くなったんじゃないかなと思ったりします。どう立ち振る舞うべきかを良くも悪くも身についたんじゃないかなと」
“好き”を仕事にする
「パオパオチャンネル」は、@小豆さんと2015年に結成した2人組YouTubeチャンネルだ。登録者数は140万人を超える。多くのファンに惜しまれながら、それぞれの道へ前向きに進んでいくため、パオパオチャンネルは2022年4月に動画投稿を終了した。
「パオパオチャンネルとしての最後のライブイベントを幕張メッセでやりました。今振り返っても、自分のことじゃないような感じですね。お仕事という感覚よりも、思い出としてすごく印象的でした。
YouTubeでも、物語があっておもしろいものを創りたい気持ちがありました。チャンネルの起伏というか、例えば2人の関係性がどうなっていくのか、どう始まってどう終わるのか。そういった時間の流れ方に多分めっちゃ興味があるんですよね。だから、ずっとおもしろい動画を上げ続けているチャンネルではなくて、物語を読んでいるかのようなチャンネルになったらいいなと思っていました」
もともと映像を創ることが好きだった柿原さん。一方では、こんな意見もある。「“好き”を仕事にしてしまうと、それを好きでなくなってしまって息苦しくなる」。しかし、柿原さんは“好き”を仕事にして突き抜けていくことで、喜びを得てきた。
「YouTubeではディズニーから広告のお仕事をいただいて、中の人たちとお話をして動画を創れたのはすごい感動しましたね。自分が大好きな存在からお仕事をいただいて、アメリカの本社まで行って、アニメーションスタジオを巡り、創られていく過程を見させてもらう動画でした。お仕事として行かせてもらいましたが、もしお金をもらえなくても行きたいぐらいのことをやらせてもらって。
“好き”を仕事にすると好きでなくなってしまって良くないとも言われます。でも、“好き”をいっぱい仕事にすると、その時々で嫌になりそうになったら、別の“好き”に移動できるのは良いですね。いろいろやっていると、どれも嫌いにならないんです。
ただ、それぞれの場所で求めてくれている人がいます。例えば、YouTubeのチャンネル登録者さんだったり、広告のクライアントさんだったり、小説の読者さんだったり。小説に専念しすぎて、他の場所で求めてくれる人を無視してはいけないとすごく思います。難しいですけど」
80歳になったときに
柿原さんはこれまで、パオパオチャンネルの他、個人のYouTubeチャンネル、前述の「踊ってみた動画」、アパレル、広告企画などを手がけてきたマルチクリエイターだ。そして今、柿原さんが力を注いでいるのは小説だ。2022年8月、2年かけて書いた小説『匿名』で、小説家デビューした。
「もともと映画のどこが好きだったのかと言うと、映像の中心に流れている“物語”でした。ミュージックビデオでも物語があるものの方が好きだし、もちろんYouTubeチャンネルもそうです。そんな“物語”を究極的に突き詰められるのが小説だと思っています。
1作目の『匿名』は、ぶんけい名義で行ってきた活動と分けて、本名の柿原朋哉にしました。これまでぶんけいとして、読んでもらう人や見てもらう人の気持ちを考えて動画や文章をつくってきて、キャラというわけではないですが、ブレーキがかかってしまうと感じていました。一方で本名の柿原朋哉は、もっと素直な人間として生きているはず。小説を書くときには、ぶんけいのままでは深みに行けなくなりそうな気がして、本名にしました」
これから目指すところを尋ねると、70歳、80歳になった未来を見据えた答えが返ってきた。
「すごく良い1冊を書いて死にたいです。それは多分、今は人生経験が足りなくて書けないと思っていて、70年、80年と生きた自分だからこそ書けることを将来生み出せたら最高だなって思います。
おもしろい小説なんだけど、おもしろいだけでは終わらないものを書きたいですね。読んだ後に考えたくなることがある、何か発見がある、10年後も20年後も読み返したくなる、大事にしたいものがある。そんな小説を書くために、人生経験を深めたいですね」
一人のクリエイターとして、そして一人の若者として、悩みながらも活躍の領域を広げてきた柿原さん。現在は小説を書くことに力を注いでいるが、YouTubeのチャンネル登録者や広告のクライアントなど、他のジャンルで自身を求める人のことを決して忘れてはいない。これからも多くのジャンルでクリエイティブを追求し、その過程と結果が、柿原さんの物語として紡がれていくのだろう。
ジャケット ¥49,800/room.13(Sian PR/03-6662-5525)
オーバーオール ¥39,900/masterkey(TEENY RANCH/03-6812-9341)
スタイリング:藤本大輔(tas)
ヘアメイク:入江美雪希
Profile
ぶんけい/柿原朋哉(かきはら ともや)
1994年生まれ。動画クリエイター、小説家などマルチに活躍するクリエイター。2022年4月まで動画を投稿していた「パオパオチャンネル」は、登録者140万人を超え、圧倒的な人気を誇った。2022年8月に『匿名』(講談社)で小説家デビュー。Twitter @bunkei_tk @kakihara_tomoy
★ぶんけいさんのB面記事を読む⇒【YouTuber・小説家のぶんけい/柿原朋哉を知るための10のポイント】
文:遠藤光太
編集:宮川岳大
写真:内海 裕之
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