【前編】多様な夫婦のあり方とは? 「選択的夫婦別姓制度」をめぐる日本の課題
「選択的夫婦別姓制度(正式名称:選択的夫婦別氏制度)」をめぐる議論は日本国内で長く続いています。結婚すると当たり前のようにパートナーと同一の姓(夫婦同姓)になる日本ですが、今となっては世界的に見ても少数派の国となりました。国連が「女子差別撤廃条約」を採択してから40年余り、世界各国では選択的夫婦別姓制度への法改正がされてきましたが、日本では現在も夫婦同姓しか認められていません。一体なぜ日本では選択的夫婦別姓制度が実現しないのでしょうか。この記事では、選択的夫婦別姓制度について下記の4点を解説します。
前編
後編
選択的夫婦別姓制度導入は40年以上実現していない
選択的夫婦別姓制度とは、結婚した男女が「同一の姓を名乗るか」「それぞれ別の姓を名乗る」のどちらかを選択する制度です。現在の日本では夫婦別姓は法律で認められておらず、夫婦で同一の姓を名乗る夫婦同姓が法律で定められています。
世界で夫婦別姓の議論が大きく取り上げられるようになった発端は、1979年に国連が「男女の同一の権利」と「女性に対する差別の根絶」を目的とした「女子差別撤廃条約」を採択したことでした。この条約の中に選択的夫婦別姓制度についても定められており、日本も1985年この条約に批准しました。
国連の「女子差別撤廃条約」から40年以上たちますが、いまだに日本では選択的夫婦別姓制度は実現していません。2021年6月23日に行われた裁判においても、最高裁は「夫婦別姓は認めない」という民法を合憲と判断しています。
なぜ日本では夫婦別姓が認められないのでしょうか。2015年の最高裁の判決では、主に3つの理由を挙げています。
- 家族という一つの集団を外に示し、識別するため
- 嫡出子であることを示すため
- 個人が家族という集団を実感するため
日本で夫婦同姓が根強く残る背景として、家制度の影響が考えられます。結婚式でも「○○家」と表されるのは家制度の概念が残っているためであり、現在まで受け継がれてきています。夫婦同姓にはこのような長い歴史があることから、全ての人が夫婦別姓に簡単に賛同することが難しいのが現状です。
日本で姓の使用が義務化されたのは1875(明治8)年ですが、この時、明治政府は「結婚しても妻は実家の姓を名乗ること」とし、夫婦は別姓でした。しかし、徐々に妻が夫の姓に改姓することが慣習化し、1898(明治31)年に夫婦同姓制が旧民法で成立する運びとなりました。その後、1947(昭和22)年の改正民法により、現在の夫婦同姓制度が施行されています。明治時代の旧民法から数えると約120年もの間、日本では夫婦同姓が義務付けられていることになります。
しかしながら、女性の社会進出が目まぐるしく、個人のアイデンティティを大切にする時代の到来とともに選択的夫婦別姓制度を求める声が高まってきています。
夫婦別姓を選べない日本は世界から見て少数派?
夫婦別姓を選べない日本は、世界的に見ても少数派になりつつあります。国連で「女子差別撤廃条約」が採択された後、世界の国々では夫婦別姓に関する法改正が行われてきました。夫婦別姓を選択可能にする法改正をした主な国は次の通りです。
1970年代 アメリカ
1993年 ドイツ
1998年 オランダ
2002年 トルコ
2005年 タイ
2013年 オーストラリア・スイス
こういった世界の流れもあり、日本は「夫婦別姓が認められないことは女子差別撤廃条約に違反している」と国連から何度も勧告を受けています。選択的夫婦別姓制度は1996年から国会でも議論が続けられていますが、世論でも賛成と反対が対立し進展がほとんどない状態です。夫婦別姓を求める声には次のような理由が挙がっています。
- 改姓することで仕事に影響が出る
- 改姓のための各種手続きが大変
- 相手の家に入る戸籍制度に取り入れられたくない
- 名前はアイデンティティなので変えたくない
「結婚時に姓を変えるのがほぼ女性である」という中、女性の社会進出増加に伴い、より夫婦別姓を希望する声が上がるようになりました。さらに世論の風潮が個人の多様性を重んじるようになったことで、夫婦同姓に違和感を持つ人が増えてきた背景もあるようです。今、日本の根深いジェンダー格差を象徴する夫婦同姓を見直す議論を求める声が高まっています。
「日本の女性をエンパワーメントする」というミッションを掲げている石井リナさんも姓の選択の自由について葛藤する女性の一人として、夫婦別姓の実現に向けて声を上げ続けています。
後編へ続く
多様な暮らし・人生を応援する
LIFULLのサービス
みんなが読んでいる記事
-
2025/08/07暮らしと心のゆとりのつくり方 〜住まい・お金・親の介護のこと〜
独り暮らし・資産形成・親の介護など、人生の転機に必要な住まい選び・不動産投資・介護の知識をわかりやすく解説します。
-
2022/09/29結婚できない女性はかわいそう、なんてない。山口 真由
東大卒、財務省入省、ニューヨーク州弁護士資格取得と、誰もが認めるエリート街道を歩んできた山口真由さん。だが、30代後半に待ち受けていたのは「結婚できない女はかわいそう」の大合唱だった。彼女が考える日本の家族や法律の問題点、アメリカとの比較、親に自分の考えを理解してもらうために必要な姿勢について伺った。
-
2025/07/09住まい方の多様な選択肢 〜どんな人生にもあう住まいがある〜
住まい選びに不安がある方へ。一人暮らしや家族、移住など多様な暮らし方に合った住まいの選択肢と体験談を紹介します。
-
2023/02/16なぜ、「仕事はつらいもの」と思い込んでしまうのか|幸福学者・前野隆司
「幸せに働く人」は生産性が3割増、売り上げが3割増、創造性が3倍高い――。仕事や上司に嫌気がさしている人からすると夢物語にも思えるような研究結果が、国内外で明らかになっています。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科の前野隆司教授は、幸福度の高い人々の共通点を導き出し、幸せな職場づくりを研究する「幸福学」の第一人者。前野さんによると、世界第3位の経済大国でありながら「世界幸福度ランキング」や「女性の働きやすさランキング」などの国際調査で散々な結果を出している日本には、“不幸体質”と呼ぶべき遺伝子や文化が染みついているといいます。人が幸せを感じるメカニズムや幸せな会社の特徴、さらに一歩踏み出すために必要なことについて伺いました。
-
2025/07/09親の未来と、自分の未来 〜今から考える家族の介護のこと〜
親の介護と自分の生活、両方を大切にするには?40代以降が直面する介護の不安と向き合うヒントを紹介します。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」