年をとったら第一線から退かなきゃ、なんてない。
「失敗が怖い」「周囲の目が気になる」といったネガティブ思考にとらわれず、周囲の雑音をものともせず、自身の道を突き進む高須克弥先生。御年75歳となった今も現役の医師として活躍し、関心を持った物事に全力で打ち込んでいる。同氏のライフストーリーからそのエネルギーの原点を探るとともに、「人生100年時代」に充実した人生を送るためのヒントを伺った。
	「やりたいことをやる」。言葉だとすごくシンプルなのに、実行するのはなかなか難しい。多くの人は周囲の目を気にしたり失敗を恐れたりするうちに時間を消費してしまう。そして最終的には「もう年だから」と諦めてしまいがちだ。しかし、「YES!高須クリニック」のCMでお馴染みの高須克弥先生は「僕だって年だから、もう守りに入っています」と謙遜されるものの、その勢いと行動力は未だに衰えを感じさせない。
自分から負けを認めなければ
負けたことにはならない
日本の美容医療の先駆者であり、愛知県の地域医療と災害医療に従事する整形外科医であり、僧侶であり、震災やコロナ禍などの災害時にはすぐさま支援を申し出る篤志家であり、歯に衣着せぬ言葉で社会問題をぶった切る論客でもある。Twitterのプロフィールにチャレンジャーと書かれているのもうなずけるほど、その活躍は枚挙に暇がない。
年齢を感じさせないパワフルさで、常に新しいことに挑戦されている印象を受けるが、高須先生は「挑戦ではなく、興味のあることをやっているだけです」と語る。モットーは何よりも人生を楽しむこと。高須クリニックのCMでおなじみの「自分を楽しんでいますか?」というキャッチフレーズは、ご本人の生き様そのものを表している。
「せっかく生きてるんだから、楽しくなきゃつまらないでしょう。年齢なんて関係ありません。生き方というよりは本能ですよ。嫌なものは嫌。だからやりたいことをやる。本当は自分の好きなことだけ楽しくやりたいけど、義理や筋を通していくためにはそうもいかないんですけどね」
やりたいことをやり抜く意志の強さと、逆境や中傷にも負けずに前向きに突き進む精神力は、過酷ないじめと戦った幼少期に培われたもの。どんなにいじめられても口撃でやり返し、腕っぷしでは負けても、決して負けを認めなかったという。
「僕は自分から負けを認めなければ、負けたことにはならないと考えています。降参せずに戦い続けている限り、負けではない。大切なのは打たれても挫折しても立ち上がり、今に見てろという気概を持つことです」
年齢的には引退を考える世代
でも、まだまだ現役を退く気はない
75歳という年齢、しかもがんを患いながらも現役の医師として現場に立ち続けるという、世間の既成概念を覆す生き方をしている高須先生。がんを公表してからは、「先生が元気なうちに手術してもらおう」という人や、心配で様子を見に来る患者さんからの予約が後を絶たないという。
「僕の仕事はボランティアなので、僕への相談料は無料です。それでも40年前と同じ治療費で、命懸けで治療しますよ。これはお世話になった世間様への最後のご奉公のつもりです」
全力で現場に立つだけでなく、Twitterで「僕はまだまだ死ぬつもりはないからね」「最後までお役に立ちたい」とポジティブなメッセージを発信し続ける根底にはただ「やりたいことをやる」だけではなく、「義理人情を大事にする」という揺るぎない信念、そして「キレイになりたい」という人を全力で応援したいという心意気がうかがえる。
「美容医学は最先端の第三の医学なんですよ。第一の治療医学、第二の予防医学の次にくるのは第三の幸福医学。すなわち若さと気持ちのよい美しい肉体を造る、美容医学なんです。平均寿命が延びたこともあり、ここ数年では50~60代で美容外科を受診する患者さんがものすごく増えています。うちの最高齢は90歳。「美容医療は老人医療だ」と感じるようになりました。年を取ると皮下脂肪か減少し、皮膚が萎びてたるんで老人顔になるのは自然なことです。「このままでよい」と達観するもよし、僕のように若さを取り戻すことに挑戦するのもよし。自分の生き方はご自身で決めるのがよいと思っていますが、僕としては諦めずポジティブに挑戦する方を応援したい。頑張る方の笑顔は僕を幸せにしてくれますから」
克弥先生の名刺。左から1998年、2008年、2011年のお顔の様子。年齢を重ねるごとに若々しさが増している。
未開の分野だからこそ自分がトップになれると思った
高須先生が美容外科に出会ったのは大学院生のとき。交換留学で訪れたドイツで鼻やあごの整形手術に立ち会ったことで、「病気の人を治すことが医療である」という既成概念を大きく揺さぶられたことが、のちに美容外科「高須クリニック」を開業するきっかけになっている。
日本にも昔から美容外科は存在していたものの、当時はまだ美容整形手術自体が医療行為として認められていなかった。そのため、医者仲間から中傷されたり、身内から「もし問題を起こしたら縁を切る」と宣告されたことも。
そんな逆境にもメゲなかったのは、誰も手を付けていない分野だからこそ頑張れば自分が第一人者になれるという功名心と、美容医療は人を笑顔にするものだという確信があったから。思い描いた未来を実現するべくまず行ったのは、美容医療のイメージを前向きなものにしていくための取り組み。腕を磨き信頼性を高めるだけでなく、自身を実験台にして海外のさまざまな治療法を研究したり、業界初のテレビCMへの出演を実現したり、“プチ整形”という言葉を生み出したりなど、既存の常識を覆す行動の数々は大きなムーブメントとなり、今日に至る美容整形ブームの基盤となっている。

だが、その道のりは決して順風満帆だったわけではない。
「美容整形に限った話ではありませんが、前例のないことをやると必ず規制されるものなんですよ。でも、ひとつ実績を作ってしまえば、あとはなし崩しですからなんとでもなる。バッシングだってさんざん受けてきましたが、世評や外野の声なんてどうでもいいんです。大事なのはやり遂げる覚悟。いっぱい敵をつくっても、自分がつぶされてもいいやという根性があれば誰でもできますよ。やりたいことやいいアイデアが浮かんだときもそう。失敗を恐れて何もしなければ、いい結果は生まれません」
筋肉の線を刻んで人工的にシックスパックを作る「ミケランジェロ(TM)」の治療風景
がんは自分の楽しみであり趣味でもある
世間の概念を覆す生き様を体現されていると感じる事柄はほかにもある。それはがんという病気との向き合い方だ。
高須先生が自身のTwitterで全身がんであることを公表したのは2018年9月のこと。自らを実験台として新しい治療法を試しているものの、現在はコロナ禍の影響で手術を受けることができず、病状も進行し続けているという。一般人であれば絶望的な気持ちになりそうなものだが、ご本人は「まあ、いいか。じたばたしてもしょうがない」「トリアージに従うのは医者の義務だ。精一杯働くぜ」と前向きなメッセージを発信。2020年7月22日には「この度、僕の癌の進行が危機的になってきたのでトリアージの仲間に入れてもらえた。明日は休日だが僕の癌手術」と記し、翌23日に8度目のがん治療手術を受けたことも報告している。
どうすればそんなにポジティブになれるんですか?とお聞きすると、「がんは自分の楽しみでもあり、趣味なんですよ」と先生は目を輝かせた。
「だって誰も経験したことがない治療を試せるわけですからね。うまくいけば自分の利益として返ってくるし、生きられる。うまくいかなかったらいかなかったで、面白い記録が作れますし。医者として人を治療するのも楽しいですが、本音を言うといろいろな人体実験をやってみたいんですよ。その点、自分の体なら合法的だし、自由にやっても叱られませんからね。むしろ、やればやっただけ褒められる。自分を使って実験ができることほど楽しいことはないです(笑)」
Twitterでの「膀胱癌って綺麗だろ?」と治療の様子を明るく報告する様や、「癌はみんなに迷惑をかけません。僕の知っている病気の中では比較的幸運な病気です。すぐに死なず、みんなに大切にされ、感染せず、終活もできます」「笑うと免疫力も上がるからだよ。笑う門には福来たる」といった言葉に勇気をもらうフォロワーは後を絶たない。
先の見えない将来を案ずるよりも
目の前のことを大事にする
どんな困難にも前向きに突き進む高須先生に「人生100年時代」を楽しく生きるための極意についても伺ってみた。やはり、いかに現状を楽しむか、そして好きなことを形にしていけるかが充実した生き方につながるのだろうか?
「いや、人生50年の時代のほうがやりたいことを実現できていたと思いますよ。明治の元勲の平均寿命なんて30代40代ですし。現在だって50年あればやりたいことは大方できますからね。それに人生100年とはいっても、現実的に100歳になれば目が見えなくて歯が抜けて、ヨボヨボになっているわけですから。本来はあまり欲を出さず、幸せに暮らしていくためのノウハウを年寄りから習っていくべきなんでしょうけど、『100歳になったときにどうやって暮らすか?』なんて教わるのもナンセンスじゃないですか。そんなことはじいさんばあさんになったときに考えればいいんです。先のことなんてどうなるかわからないのに、今からそんな話をしても暗くなるだけ。目の前にあるひとつひとつのことを大事にしていくほうが優先ですよ。あえてアドバイスっぽいことを言うなら、『明日死んでも、悔いがないように生きたまえ』ということくらいです」

最後にふと、先生でも迷うことはあるんですか?と尋ねてみたくなった。
「僕だって迷いますよ。例えば麻雀をやっているときにどれを切るか?とか、競馬や競艇でどれに賭けるか!?とかね(笑)。人生だってギャンブルと同じ。僕が今やっているがんの治療だって、うまくいけば助かるけど、うまくいかなければ死んじゃいますし。そもそも、生まれてくるかどうかもギャンブルですから」
					
										1945年、愛知県生まれ。東海高校、昭和大学医学部卒業。同大学院医学研究科博士課程修了。大学院在学中から海外へ(イタリアやドイツ)研修に行き、最新の美容外科技術を学ぶ。「脂肪吸引手術」を日本に紹介し普及させたほか、「プチ整形」の生みの親でもある。格闘技K-1のリングドクターとしても活動している。人脈は芸能界、財界、政界と多岐にわたる。藍綬褒章を受章。
高須克弥記念財団 http://www.takasu-foundation.or.jp/
Twitter https://twitter.com/katsuyatakasu
オフィシャルブログ「YES高須クリニック!」  https://ameblo.jp/drtakasu/
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