メイクは女性だけのもの、なんてない。
こんどうようぢさんと話すと、彼の“フラットさ”に驚かされる。
約10年前、読者モデルからスタートした彼のキャリアを語るには、“メイク”は欠かせない。デビュー当時からメイクをし、メンズメイクの先駆け的存在となったこんどうさん。メディアでは彼が指南するメイク特集がいくつも組まれ、中性的な魅力を持つ“ジェンダーレス男子”という呼称も生まれた。彼は現在もYouTubeで美容やメイクの発信を続けている。
今でこそメイクを嗜(たしな)む男性は増えてきたが、10年前、メイクを始めた頃は奇異の目で見られることは少なくなかっただろう。
「僕はメイクや美容が好きだけど、『男性がメイクや美容にハマるなんて変だ』と言う人ももちろんいます。でも、その価値観も間違いじゃないんです。価値観は人それぞれだから、受け入れられないものがあるのは仕方がないし、受け入れられないからダメなんてこともない」
彼はなぜ、こんなにフラットでいられるのか。お話を伺った。
少し前まで、男性がメイクをするのは一般的ではなかったかもしれない。しかし、日本でもBTSなどの韓流アイドルブームを受けて、徐々に“メンズメイク”が浸透し始めている。
『POPEYE』や『MEN'S NON-NO』といった男性向けのメディアでは毎月のようにメンズメイクが取り上げられ、バラエティーショップでも男性向け化粧品のコーナーを見かけることが珍しくなくなってきた。その一方で、いまだに「男性のメイクに抵抗がある」という人は男女共にいる。
メンズメイクの先駆けといわれるこんどうさんは、この10年間“メンズメイク”に対する世間の変化をどう感じてきたのか。そして、自分に向けられる声とどう向き合ってきたのか。
自分の好きなものを、「周りとずれているから」という理由で諦めるのではなく、好きなものを好きと言えることが“自分らしさ”
自信のなかった僕が、メイクをしたら前を向けるようになった
こんどうさんが美容に興味を抱いたのは、ごく自然な流れだったという。
「僕の家は母と姉と妹、そして僕の4人暮らし。母はもちろん、姉も妹も洗顔したり、化粧水でスキンケアしたりしていたので、僕も当たり前のようにしていましたね」
家族みんながしているから、ごく当たり前にしていたスキンケア。それが、男性では珍しいことだと知ったのは中学生になってからだったそうだ。
「修学旅行で、初めて家族ではない人たちと朝から晩まで一緒に過ごして。朝、僕が洗顔してスキンケアしていたら、同級生の男の子たちに驚かれたんです。『僕たちなんて水で洗って終わりなのに、すごいね』って。その時に、『僕にとっての当たり前が、周りの人の当たり前ではないこともあるんだ』と思いました」
中学校を卒業し、高校へ入学。当時の興味は、美容よりもファッションの方が強かった。
「好きな服を着て、カラコン(カラーコンタクト)をつけて、おしゃれをするのがとにかく楽しかったんです。ただ、僕が入学した工業高校では、ファッションに興味のある同級生がほとんどいなくて。一緒におしゃれを楽しめる友達が欲しいと思って、趣味でブログを始めたのがこの頃です」
ブログをきっかけに男女問わずファッション好きの仲間がたくさんできた、と話すこんどうさん。実は、初めてメイクをしたのもこの頃だという。
「友達が主催するファッションショーにモデルとして参加したことがあって、友達にメイクをしてもらいました。でも、その時は“ショーだから特別”という感じで、日常的にメイクしたいとは思いませんでしたね」
彼が本格的にメイクに興味を持ったのは、ブログが注目されたことがきっかけとなり芸能界デビューをした時だったそう。
「いざ芸能界に入ってみたら、びっくりするぐらいかっこいい人ばかりだったんです。一方で、僕は自分の容姿にあまり自信がなくて……。こんなすごい人たちの中で、どうしたら僕を見てもらえるだろうと考えた時に、思いついたのがメイクでした」
彼の独特の雰囲気に引かれ、ファンになった人は多い。そして彼に憧れ、メイクを始めた人も多いだろう。そんな彼も「コンプレックスを抱いていた」とは、意外だった。
「芸能界に入って初めてナチュラルメイクをしてもらった時、『メイクでこんなに変わるんだ!』と感動したんです。ファンデーションとリップくらいだったんですけど、こんなにも気持ちが前向きになれるんだとびっくりしました。
もともと自分に自信がなくて、スカウトされた時は『芸能界に入ったら少しは自信が持てるかな』と期待していました。でも、より比較して焦るばかりで……。そんな自分も、悪くないと思えたきっかけがメイクだったんです。メイクを武器にできたら、僕も変われるかもしれない。それから、メイクにのめり込むようになりました」
メイクという武器を手にしたこんどうさんは、“ジェンダーレス男子”の先駆けとして注目を浴びるようになった。個性がぶつかり合う芸能界の中で、自分らしさが芽を出した瞬間だった。しかし、次第にその“らしさ”に苦しめられるようになっていったという。
ジェンダーレス男子“らしさ”に縛られていた過去
こんどうさん自身は、自分が“ジェンダーレス男子”だと意識したことはなかったと話す。
「日常的にメイクをしていると、お仕事でも“メンズメイク”のご依頼をいただくようになって。気付いたら、“ジェンダーレス男子”と呼ばれるようになっていました。ただ、当時はそこに複雑な思いもあって……」
こんどうさんは、服もメイクもただ自分の好きなものを身に着けている感覚だった。しかし、ジェンダーレス男子という言葉が浸透するにつれ、“ジェンダーレス男子らしさ”にとらわれるようになったという。
「別にメンズものだから、レディースものだからと意識して何かを選んだことはありませんでした。メイクもそう。自分を勇気づけてくれるものだからしていたんです。でも、“ジェンダーレス男子”という肩書がついてからは、“レディースを好む男子”と認識されるようになっていって。
世間に認知されるにつれて、ジェンダーレス男子に期待されているであろう役割を演じるようになっていきました。例えば、レディースのかわいい服を着るとか、派手なメイクをするとか……。メディアに出る時は無理して自分をつくっていましたね。今振り返ると、僕が勝手に自分自身を縛り付けていたんだとも思うのですが」
今回のような取材も、以前ならもっと派手なメイクやネイルをして、レディース服を身にまとって受けていたと言う。しかし、今日のこんどうさんは、ポロシャツにパンツというシンプルなスタイルに、ナチュラルメイクを合わせている。
「ここ数年でだいぶ“自分らしさ”を出せるようになりましたね。ジェンダーレスを意識することが少なくなってきた。それは、僕が変わったからでもあるし、世間が変わったからでもあると思います。
僕がメイクを始めたのは約10年前。当時はまだメイクする男性は少数派でした。そのためもあってか、メイクをしていると『女性らしくしたい人なんだ』と思われることが多かったんです。でも、最近ではメンズ系のファッション誌でメイクの特集が組まれたり、バラエティーショップにも男性用の化粧品コーナーが設置されたりして、少しずつですが男性メイクが世の中で受け入れられてきているように思います」
価値観に優劣はない。好きも嫌いも、人それぞれでいい
“ジェンダーレス男子”という肩書にとらわれずに、自分らしさを出せるようになったこんどうさん。こんどうさんの考える、“自分らしさ”とはどういうことだろうか?
「自分の好きなものを、『周りとずれているから』という理由で諦めるのではなく、好きなものを好きと言えることが“自分らしさ”かなと思います」
今でこそ自分の“好き”を発信し、こんどうさんらしさを体現している彼だが、「男性なのにメイクをするのはおかしい」など、偏見や既成概念に振り回されることはなかったのだろうか。
「SNSでの誹謗(ひぼう)中傷はたくさんありました。『何でこんなナヨナヨしたやつが人気なんだ』って。でも、幸い身近な人たちから変な目で見られることはなかったので、“男性らしさ”に振り回されることはなかったです。もしかしたら僕が鈍感で、言われても気付かなかっただけかもしれないですけど(笑)。とにかく、周りの大事な人がありのままの僕のことを理解していてくれさえすれば、それでいいかなって」
また、こんどうさんは“既成概念”も別に悪いものではないと話す。
「新しい価値観が良いもので、古い価値観が悪いものって話ではないと思うんですよね。僕はメイクは大切だからメイクをしているだけで、『男性がメイクをするのはおかしい』という考え方も全然あっていいはずなんです。
『古い価値観を持っているとやばいぞ』というのもあくまで一つの価値観で、人それぞれ自分の考えを大事にしつつ、それを誰かに押し付けることなく好きに振る舞えるのが理想です」
メイクは、男女関係なく強くしてくれるよろいのような存在
現在はYouTubeを中心にメンズ美容の発信をしているこんどうさん。登録者数25万人を超える人気チャンネルの視聴者は、10代後半から20代前半の男性が6割を占める。
「メイクをこれから始める人だと、どんなアイテムが必要なのか、何から始めたらいいのかわからないですよね。また、少しメイクに慣れてきたら違うテイストにもチャレンジしてみたいっていう人も多いはず。それは女性も男性も一緒です。そんな、メイクに困っている人の参考になるとうれしいです」
こんどうさんの動画はすっぴんからメイクをスタートするのが特徴の一つだ。「自分の容姿にコンプレックスを持っている」と話していたこんどうさんだが、なぜ多くの人が目にする場で素顔を出そうと思ったのだろうか。
「『メイクでこんなに変わるんだ!』と思ってほしいです。僕は自分の鼻の形が嫌だとか、肌荒れしているとか、とにかくコンプレックスが多い。でも、自信のない僕がメイクの力で変化するからこそ、見る人に伝えられることがあると思うんですよね。
“ジェンダーレス男子”としてメディアに出ていた時は、『中性的でいなくちゃ』とか『憧れられる存在でいなくちゃ』と縛られていたけど、今はいい意味で力が抜けるようになって。人間味のあるありのままの姿を見せていけたらと思っています」
最後に、こんどうさんにとって“メイク”とはどんな存在かを伺った。
「性別に関係なく強くしてくれる“よろい”のようなもの、ですかね。僕、人と目を合わせるのが苦手なんですよ。これがメイクしていないともっと合わない(笑)。人と目を合わせることもそうだし、メイクで少し自信を手に入れて、できるようになったことってたくさんあるんです」
自分の「好き」に正直で、コンプレックスもオープンにする。等身大の魅力にあふれたこんどうさんも、かつては世間に求められた“らしさ”に縛られ、苦しんだ経験があった。それを乗り越えた彼だからこそ、フラットな価値観を築くことができたのだろう。
取材・執筆:仲 奈々
撮影:内海裕之
1992年、大阪府生まれ。学生時代に立ち上げたブログをきっかけに読者モデルデビュー。中性的な魅力で、“ジェンダーレス男子”として一躍有名になる。現在は俳優、タレント、YouTuberとしてマルチに活躍している。
YouTube こんどうようぢ
Instagram kondoyohdi
Twitter @yohdiworld
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