【後編】未婚率上昇の背景とは? 結婚・家族観の変化やソロ社会化から読み解く
日本で少子高齢化が進む背景には、さまざまな問題が潜んでいます。その一つが年々高くなる未婚率です。かつての日本には、「幸せな人生に結婚は欠かせない」という考えがありました。しかし、今ではそうした価値観が大きく変化しています。未婚率上昇の背景を知るため、この記事では下記の6点を解説します。
前編
後編
単身世帯が増える背景と結婚・家族観の変化
日本社会において、単身世帯が年々増加している背景には3つの理由が考えられます。1つは高齢者の単身世帯が増加していることです。2020年における65歳以上の人口のうち、単身世帯が占める割合は19%、つまり5人に1人近くが一人暮らしをしていたことになります。
2つ目は、離婚率の高止まりがあり、離婚して親元に戻る人もいますが、単身世帯になる人も多いという理由です。
最後は、独身者の結婚意欲減少が挙げられます。これは、初婚件数が減少し、未婚率が増えていることからも明らかです。こうした独身者における結婚観の変化は、ソロ社会化を加速させる理由の一つになっています。
結婚や家族、男女のあり方、働き方に関する旧来的な見方を支持する考えも変化しています。例えば、「結婚したら子どもを持つべき」と考える人は2015年の調査時には女性67.4%、男性75.4%でしたが、2021年には女性36.6%、男性55.0%まで低下しました。また、「女/男らしさは必要」という項目にも意識の変化が見られます。このことから、世間一般的な男らしさや女らしさへのこだわりも減退していることがうかがえます。
出典:第16回出生動向基本調査 結果の概要|国立社会保障・人口問題研究所
「結婚すれば幸せになれる」は、もはや幻想?
日本には、「結婚すれば幸せになれる」という社会通念が存在した時代もありました。しかし、昨今は結婚に対する考え方も多様化し、自らの意思で結婚しないことを選ぶ「選択的非婚者」も増えつつあります。
内閣府の「少子化社会に関する国際意識調査報告書(令和2年度版)」によると、「結婚は必ずするべきだ」と回答した人はわずか3.6%でした。これは2015年度の9%よりもさらに5.4ポイントも減少しています。また、「結婚はした方がよい」と回答した人も2015年調査の56.5%より12.3ポイントも減少し、44.2%まで下がりました。
多くの意識調査では結婚していない人と比べ、結婚している人の幸福度は高いというデータもありますが、前出の荒川さんは、人生における「幸せ」と「結婚」に因果関係はないと語ります。幸せを感じられるかどうかは「環境の中でどう行動していくか」が大事であり、「結婚については自由に決めるべき。選んだ道で幸せになれるかどうかも、自分次第」とのことでした。
加えて、若者の貧困問題が結婚や出産という選択肢そのものを難しくしているという指摘があります。政府は「異次元の少子化対策」として、低収入の若者たちの月々の奨学金返済額を減らし債務の返済を先送りにする措置や、今後給付型の奨学金制度を拡充するとしていますが、すでに貧困に陥っている若者たちを救済できていません。そのため、多くの若者たちが経済的余裕のない状態が続き、結婚して出産するプランを描けないでいるという側面があることも否めません。
出典:少子化社会に関する国際意識調査報告書(令和2年度版)|内閣府
結婚や家族のあり方に関する価値観や考え方は多様である
日本では、「結婚がゴール」という考え方が根強く残っており、離婚やひとり親に対してネガティブなイメージを抱く人も少なくありません。しかし、結婚や家族のあり方に関する価値観や考え方はさまざまであると知ることで、思い込みや結婚に呪縛されずに生きられるかもしれません。
弁護士の山口真由さんは、「世間は結婚や出産を選ばない女性に対して優しくはありません。しかし、“多様性の押し売り”にならないためには、女性側にも相手のことを理解しようとする姿勢が求められます」と述べて、結婚に関する考え方や立場に対して相互に理解を示す重要性を強調します。
俳優、タレント、モデルとして活躍する最上もがさんは、母親としても育児に試行錯誤しています。結婚や子育てはこうあるべき、という世の中の「当たり前」にとらわれない生き方を発信している点が評価され、株式会社LIFULLの「『しなきゃ、なんてない。』アワード2021」を受賞しました。最上さんは、「大切なのは『自分はどっちの生き方が楽か』ということ。自分がつらくない生き方、楽でいられる方法を見つけてほしいなって思います」と語ります。
まとめ
未婚率が年々上昇傾向にある背景には、さまざまな要因があります。ただ、未婚率の上昇や晩婚化、少子化などの問題を表面的に捉え、「結婚しなくてはいけない」「子どもを産まなくてはいけない」などの一方的な価値観の押し付けは避けたほうがよいでしょう。ソロ化社会を全面的に肯定するのではなく、価値観の多様性を認めつつ、一人ひとりが社会の課題に取り組んでいくことが大切と言えます。
前編を読む
中央大学文学部教授。1957年、東京都生まれ。子ども・若者・夫婦・家族を取り巻く現状を常に多角的に解析し、その打開策を提言し続ける社会学者。専門は家族社会学・感情社会学・ジェンダー論。未来に希望や夢を抱けなくなった現代社会において、子どもや若者の導き方、夫婦の関係や家族のあり方など、未来を見据えた鋭い提言を続ける。
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