日常の光をつかむ写真家・石田真澄 【止まった時代を動かす、若き才能 A面】
2019年末から世界を侵食し、今なお我々を蝕むコロナ禍。失われた多くの命や、止まってしまった経済活動、浮き彫りになった価値観の衝突など、暗いニュースが多い現在。しかし、そんな閉塞的な空気の漂う今でも、むしろ今だからこそ、さらに自身のクリエイティビティを輝かせ、未来を作っていく素敵な才能を持つ若者たちが存在する。
既成概念にとらわれない多様な暮らし・人生を応援する「LIFULL STORIES」と、社会を前進させるヒトやコトをピックアップする「あしたメディア by BIGLOBE」は、そんな才能の持ち主に着目し、彼ら/彼女らの意志や行動から、この時代を生き抜く勇気とヒントを見つけるインタビュー連載共同企画「止まった時代を動かす、若き才能」 を実施。
A面では、その才能を支える過去や活動への思いを、B面では、表舞台での活躍の裏側にある日々の生活や、その個性を理解するための10のポイントを質問した。
B面はこちらから⇒【写真家・石田真澄を知るための10のポイント】
第2弾は、写真家・石田真澄さん。大塚製薬・カロリーメイトの『部活メイト』、ソフトバンクの『しばられるな』などの広告写真、そして俳優・夏帆さんの写真集『おとととい』などを手がけてきた写真家だ。
中学生から写真を撮り始め、それはいつも生活とシームレスにつながっていた。高校卒業後、10代のうちに、個展『GINGER ALE』を開き、写真集『light years -光年-』を出版。現在に至るまで、その若い才能の輝きを支えているのは、劇的な何かではなく、連なっていく日常だ。雑誌や広告への憧れ、日常的に写真を撮ることが結びつき、若くして写真家として活躍するようになった石田さん。彼女の考え方や大切にしていることを紐解いていく。
日常の延長線上に「やりたい仕事」がある
中学生から、石田さんの生活は写真とともにあった。ただし、写真家を目指していたわけではない。光に惹かれ、ただ追いかけていた。最初はガラケーに付属するカメラを用いて、光を、そして友人たちを撮った。その延長線上に、写真家・石田真澄の今があると言う。
「中学1年生の時、初めてガラケーを持ちました。それまでは携帯電話やカメラを持ち歩くことはなかったのが、毎日写真が撮れる環境になった時に、『写真って結構楽しいかも』『好きかもしれない』と思って。
2年生になって、LUMIXの一眼レフを買ってもらいました。そこから自分のカメラで写真を撮るようになって、普段から学校の友達を撮ったりして。高校の海外研修ではフィルムカメラを使おうと思って『写ルンです』を持って行きました。2週間かけてフランス、ドイツ、オーストリアを回る中で、普段はLUMIXで撮るんですけど、『ここはフィルムで残したいかも』と思ったときにフィルムカメラを取り出して。
何か特別に大きな出来事があるわけではないんです。日常の延長線上で、話は今でも続いていて。
高校時代のいろんな景色をフィルムカメラで収めた写真集『light years -光年-』を発売しましたが、その時に写真を撮ってなかったら、今もこんなに撮っていないと思います。何か一つのものや出来事ではなくて、その期間の全てが大切だったと思います」
仕事を楽しむ大人たちに囲まれて
大学生になった石田さんは、高校時代に撮っていた写真を集めて展示会を開いた。撮影した写真を断片的にオンラインで公開したり、友人にLINEで送ったりはしていたものの、一つの作品として完成させたのは初めてだ。石田さんは、作品に対して感想を直接受け取る経験をした。
「写真を一つの作品にして、性別も年齢も関係なく、不特定多数の人に見てもらいました。なるべく在廊するようにしていたら、感想を直接受け取ることができました。自分の写真がどう思われているのか、見てどう感じ取るか。言葉を受け取ったことが自分にとって大きな出来事でした」
展示を契機に、写真家・石田真澄の活躍は加速していった。展示で編集者から声がかかり、19歳で写真集『light years -光年-』を出版した。そして活動の場は広告、そして俳優の夏帆さんらの写真集などへと展開していく。そうした制作の現場で出会った大人たちは、仕事を楽しんでいた。
「まだ大学生だった頃から制作現場に入って、楽しそうに仕事している大人の方々が身近にいたのがすごくいい経験になりました。もともと雑誌や広告がすごく好きだったんです。作品集を出したりして作家として活動している写真家よりも、雑誌でクレジットを見かける人や広告で写真を出している人の作品をすごく覚えていて、興味があって。それこそカロリーメイトの広告は昔からよく見ていて、自由でメッセージ性がありつつ、写真が素敵だというイメージがあったので、そんな広告に携われることがすごく嬉しくて。写真家として制作の仕事に携わり、良い写真を撮って作品をサポートしたいと思いました」
人との距離感を撮る
写真家として心がけているのは、人と出会い、距離感を探る時間だ。石田さんの撮る写真は「仲が良さそう」「素っぽい感じ」と評価されることが多く、依頼を受ける際も「その人のナチュラルな部分を出してほしい」と言われることがあるという。
「実際に本人に会ってみないとわからないんです。たくさん喋った方がコミュニケーションを取れる人もいるし、ちゃんと距離があった方が親しい様子を撮れる人もいるんです。『はじめまして』の状態から『どうやってこの人とコミュニケーションを取ろうかな』とすごく考えます。1番頭を使っているところかも。
その人がよく一緒に仕事をしているメイクさんと喋っている様子を見ていたり、現場での雰囲気を見ていたり。現場の雰囲気も、ワイワイしている現場の方がいい時はそうするし、みんなでゆっくりやっている方がよければ穏やかに進めることもあるし、臨機応変に進めています。
被写体の人が『今撮られたら嫌だな』と思っていそうなら絶対に撮りたくないです。自分も『撮っていいのかな』と思いながら撮ると心がすり減っちゃうから。お互いにある程度の距離感で、ある程度の気持ちよさがある時間に撮れることが、私にとってはベストだと思っているので、それをいつも探り続けています」
相手との距離感を繊細に探る石田さんの姿勢には、学生時代から日常的に人を撮ってきた蓄積が生かされているのかもしれない。仕事でなくてもずっと写真を撮ってきた石田さんにとって、仕事とはどのような存在なのだろうか。
「『もし学生時代の私が見ていたら、このページを好きになって、保管しておいているだろうな』と思えるものができると、すごく嬉しいです。
仕事として制作に携わっていると、本当に時間がないとか、お金がなくてスタジオの予算が決まっているとか、そういった制約があります。そんな状況でも『これはいい』と思われるものをつくれると嬉しいし、そういう作品に一つでも多く携わっていきたいなと思います」
雑誌や広告を見て写真に憧れていた石田さんは、中学生の頃から自ら写真を撮り始め、写真家として仕事をするようになった。作品は注目を集めているが、そんな今でも学生時代と同じようにカメラとともにある日常を過ごし、世界を見つめている。憧れていた世界の中でも、その姿に力みはない。現場では臨機応変に対応しながら、被写体との距離感を繊細に探る。石田さんはこれからも、中学生時代から続けてきたように、写真とともにある生活を続けていくのだろう。
Profile
石田 真澄
1998年生まれ。中学生から日常的に写真を撮り始める。2017年に個展「GINGER ALE」を開催、2018年に写真集『light years -光年-』(TISSUE PAPERS)を出版。大塚製薬・カロリーメイトの「部活メイト」、俳優・夏帆さんの写真集『おとととい』などの撮影を手がけ、注目を集めている。Twitter @Masumi_Ishida_
Instagram @8msmsm8
★石田さんのB面記事を読む⇒【写真家・石田真澄を知るための10のポイント】
文:遠藤光太
編集:宮川岳大
写真:内海 裕之
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