コンプレックスは無いほうがいい、なんてない。
筋トレ系YouTuberの第一人者、ぷろたんさん。自身のYouTubeチャンネル「ぷろたん日記」は登録者数が208万人に上り、自身の筋肉を生かした筋トレ動画や、大食い動画が人気を博している。2021年に、自己免疫疾患による闘病から復帰して4カ月後に出場したフィジーク大会で優勝し、そのストーリーを自ら追った動画は大きな反響を呼んだ。ぷろたんさんの信条は、「マイナスがあるからこそプラスが輝く」。逆境やコンプレックスをパワーに変える秘訣について、話を伺った。

YouTubeをはじめとした発信を続けて10年あまり。継続して発信してきた活動が実を結び、筋トレに関連した仕事の話やメディアへの露出が増えるなど、人気者の地位を手に入れた。その肉体やトレーニング光景、食事内容を見れば、誰しもがストイックな人という印象を持つはずだ。しかし、意外にも「コンプレックスは常にある」と話す。
ぷろたんさんと筋トレの出合いは、学生の時に遡る。テニスに打ち込んだ中学・高校時代は過度な減量から拒食症寸前になり、「どうしたら食べても太らない体になるのだろう」とたどり着いたのがトレーニングだった。「筋トレが人生を変えた」と話すぷろたんさんは、どのようにしてその弱さを原動力にしているのだろうか?
筋トレの原点は、
無謀なダイエットをしたテニス部時代
中学では軟式テニス部、高校では硬式テニス部で活動。テニスを始めたのは、アニメ「テニスの王子様」を見たことがきっかけだった。
「当時、テニスの王子様が流行っていて、主人公が僕と同い年で。それで入り込んだというか、やってみたいと思うようになったんです。結構ガッツリやっていたんで、全国大会まで行きましたよ。
学生の頃から体づくりのことに興味があったかといわれると、少し違う意味ではありましたね。当時ちょっと太っていて、周りから冗談で“おいデブ”っていじられてたんですよ。それが結構苦痛に感じて、極限まで体を絞るようになったんです。筋トレとか関係なく、ただただご飯を食べないみたいな感じで、変に入り込みすぎちゃって抜け出せなくなって、拒食症一歩手前までいったんですね。“どうしたら食べても太らない体になるんだろう”って高校卒業前くらいから思い始めて、筋トレにたどり着きました」
大学に入ってからは、ジムでアルバイトをするようになった。ジムが無料で使える福利厚生があったという理由からだ。
「バイト勤務の後に毎回ジムを使っていたんですけど、長い時間やりすぎて使用禁止にされてしまいました(笑)。だから、アルバイトをしながらも他のスポーツクラブにお金を払って通っていましたよ。10年以上前はそんなにトレーニングの情報とかもネットになかった時代なので、ただがむしゃらに有酸素運動も無酸素運動もこなしていました。
運動面では“ストイック”と言われますけど、思考の面では“変わっている”とよく言われますね。いい意味で欲に忠実と言われたこともあります。子どもの頃から両親はきっちり育ててくれて、勉強をするようにも言われたし、塾とか習い事にも通っていたんですけど、いつしかなんとなく敷かれていたレールのようなものから外れたくなったんですよね。
あの人のようになりたい、この人がすごい、ではなく、自分の思い描くように生きたいと思うようになったんです」
大学卒業後は一般企業に就職し、営業担当のサラリーマンになった。しかし、「命あるものはいつか死ぬ。だったら、1人でも多くの人に自分という存在を知ってもらいたい」という思いから、ライブ配信やYouTubeなど多くのプラットフォームで発信を開始。26歳で会社を辞め、人気YouTuberへの階段を駆け上がっていった。
闘病から4カ月でフィジーク大会優勝!感動を呼んだ舞台裏ストーリー
2021年、ぷろたんさんは「2021 IFBB PRO League x FWJ WORLD LEGENDS CLASSIC」というフィジークの大会で優勝。ボディビルの大会に挑戦するのは4回目。優勝は初めてのことだった。
「優勝したことは嬉しかったですけど、結構冷静だったんですよ。優勝の輝きって一瞬だから、今はみんなに称賛されてもすぐに日常に戻るんだろうなって、優勝トロフィーを持ちながら考えていました。だったら、この優勝までの物語をしっかり動画にしようと思いましたね」
実は大会の前、ぷろたんさんは自己免疫疾患に罹患。全身が焼けるような痛みと吐き気などに襲われ、1カ月半の入院生活を余儀なくされた。
「病気になった時はショックすぎて何もできませんでした。メンタルはやられましたし、大会はどうしようかとか、そんなことも考えるレベルじゃなかった。それどころじゃなかったです。『なんで俺がこんなことになるんだ』って思いましたけど、入院して2週間くらいたって少し落ち着いてきた時に、『マイナスがあればプラスがある。だったらこれを武器にしていこう』という考えにシフトできました。そうじゃないと、どんどん自分がみじめになるので」
療養復帰後、大会まで残された期間は4カ月。周りから見れば、あまりにも短い調整期間のように見えるが実際はどうだったのだろうか。
「2カ月で痩せた体を戻して、2カ月で絞りました。ボディビルダーが行う筋肉を増やしてから減量するというやり方ではなく、“戻す”という作業でした。そもそも普段から食事にも気を使って体をつくってきた貯筋(※)があったので、その辺は大丈夫でした。それよりも、病気をしたところからのリスタートだったので、勝っても負けてもYouTubeの物語としてはいいものが描けるだろうと思っていました。やるということに意味があったので、結果はあまり求めてなかったですね。そんなモチベーションで出場したら優勝しまして。さすがに出来すぎだなとは思いましたけど!
でも、反響はすごくあったので嬉しかったですね。病気をしている人からは『救われた』とか、減量に励んでいる人からは『モチベーションになった』とか、動画を見た人からたくさんのコメントが寄せられていたので、やってよかったなと思っています」
自身のYouTubeを通して何を伝えて、どんなことを成し遂げたいのだろうか。お話を伺うと、そこにはぷろたんさんなりの生存戦略と視聴者に感動を与えたいという思いがあった。
「YouTube活動の根底にはずっと目立ちたい、有名になりたいという承認欲求があるんです。ただ、趣味ではなくて仕事なので、ビジネスとして長生きしていかないといけない。どんどん新しいYouTuberが出てくる中で、ずっとトップランナーでいることってすごく難しいんです。だからいつも100点を狙うというよりは、70点を継続して長く生き残っていこうという戦略ですね。それと同時に、少しでも自分の動画を見て誰かの人生を変えたり、元気になったりしてもらいたいという思いもあります。
だから、フィジーク大会の物語もその瞬間だけでも人の心を動かせたらいいのかなって思っています。その積み重ねで『こんな人なんだ』ってわかってもらえますからね。70点を出し続けながらも、時には覚悟を決めて100点を取りにいったりと、常に闘争本能は忘れていないです」
※体に筋肉を貯めておくこと。加齢に伴う筋力の衰えるスピードを遅らせるなどが目的
マイナスとプラスはセット。逆境もコンプレックスも味方にできる
ガリガリだった体へのコンプレックスの克服、天職ともいえるYouTuberの仕事、病気からの大復活を遂げたフィジーク大会への挑戦――。ぷろたんさんの人生は、「筋トレ」がいつも支えてきた。
「YouTubeの中で、身長が低いというコンプレックスの相談について答えている回があります。結果論ですけど、身長が高くてチヤホヤされていたら、それで満足していたかもしれない。僕は身長が低いですが、だからこそ体づくりとか喋りとか他の部分で伸ばしていこうと努力して、今があるのかもしれないと思うんです。だから身長で困ったことはないです。モテるモテないも含めて(笑)。もっと面白いトークができたらいいなというコンプレックスとかは常にありますけどね。
コンプレックスとか逆境とか、人生って本当にいろいろありますけど、マイナスがあったほうがプラスの部分が明確に見えてくるはずなので幸せは実感しやすいじゃないですか。プラスだらけだったら、虚無な人生ですよ。プラスとマイナスはセットなんです」
ぷろたんさんにとって、筋トレとはどんな存在なのだろうか。
「自分にとって筋トレは生きがいですね。『筋トレが人生のすべてを解決する』ってよく冗談のように言いますけど、ちゃんとしたエビデンスにのっとって結果が出ていますからね。運動したら気分がスッキリするのは大前提ですけど、成長ホルモンが出て高揚感や充実感が得られるんです。今日1日何もしなかったなという日でも、最後に筋トレすればいい1日に変わりますしね。
ロマンティックな話ですけど通っているジムで運命の出会いがあるかもしれないですし、筋トレ友達ができるかもしれない。しかも自分の体も変わって自信がつきますしね。いいことづくめだと思います。でも、筋トレが義務でもないし、継続することが偉いわけではない。自分にとって“楽しいこと”を見つければいいんじゃないですかね。別に継続できなくたって他の楽しいが見つかって更新されるならそれが正解でしょうしね」
インタビューの中で何度も出てきた「思考」と「承認欲求」という言葉。嘘偽りなく話す姿に、リスペクトの念と同時に、人間同士としての親近感を感じた。
人はつい自分の「できないこと」にフォーカスしがちだ。しかし、見る角度を変えれば「できること」が見えてくる。そう考えると、自分のありのままを愛せるような気がしてきた。
取材・執筆:久下真以子
撮影:内海裕之

1989年、静岡県出身。動画投稿サイト「ニコニコ動画」で活動を開始後、活躍の場をYouTubeに移し、持ち前の筋肉を活かした筋トレ動画や大食い動画などが人気を博している。2021年11月には東京都荒川区に自身が監修するチーズケーキ専門店「QUESO」をオープン。オンライン販売開始直後3分で完売。同年、フィジーク大会「2021 IFBB PRO League x FWJ WORLD LEGENDS CLASSIC」で優勝し、そのストーリーをまとめた動画が反響を呼んだ。また、アパレルブランド「PROISM」など、活動は多岐にわたる。
Twitter @purotanyahhoo
Instagram @purotan1214
YouTube ぷろたん日記
みんなが読んでいる記事
-
2024/03/19「若いね」「もういい年だから」……なぜエイジズムによる評価は無くならないのか|セクシズム(性差別)、レイシズム(人種差別)と並ぶ差別問題の一つ「エイジズム」。社会福祉学研究者・朴 蕙彬に聞く
『日本映画にみるエイジズム』(法律文化社)著者である新見公立大学の朴 蕙彬(パク ヘビン)先生に、エイジズムに対する問題意識の気付きや、エイジズムやミソジニーとの相関関係について、またメディアやSNSが与えるエイジズムの影響や、年齢による差別を乗り越えるためのヒントを伺ってきました。
-
2018/11/28表舞台じゃないと輝けない、なんてない。Dream Aya
“華やか”で“幸福”、そして“夢”が生まれ、かなう場所。そこに、自らの信念で辿り着いた女性がいる。ガールズダンス&ヴォーカルグループの「Dream」「E-girls」の元ヴォーカル、Ayaさんだ。ステージでスポットライトを、カメラの前でフラッシュを浴びてきた彼女は、自ら表舞台を去り、後輩たちをサポートする道を選んだ。Ayaさんの唯一無二な人生を辿れば、誰もがぶつかる「人生の岐路」を乗り越えるヒントが見えてくる。
-
2025/01/28住まいは不動、なんてない。道を切り開く体験を通じて、自分らしい生き方と人生の価値が見えてくる高橋愛莉・酒井景都
「THE LIONS JOURNEY」プロジェクト推進に携わった株式会社大京「THE LIONS 2050」ディレクターの高橋愛莉さんと、鎌倉でこだわりの家に住むモデル・デザイナーの酒井景都さんの対談第1回。人生の価値を高める上質な暮らしや豊かな時間について語ります。
-
2019/12/10言葉や文化の壁を越えて自由に生きることはできない、なんてない。佐久間 裕美子
言語や国境、ジャンルの壁にとらわれない執筆活動で、ニューヨークを拠点にシームレスな活躍をしている佐久間裕美子さん。多くの人が制約に感じる言葉や文化の壁を乗り越え成功をつかんだ背景には、やりたいことや好きなものを追いかける熱い思いと、「見たことがないものを追い求めたい」というあくなき探求心があった。
-
2025/03/11すぐに環境に馴染まなきゃ、なんてない。―雑談の人 桜林直子に聞く、新生活における人間関係へのアドバイス―桜林直子
桜林直子さんの経験を基に新しい環境での人間関係におけるアドバイスをもらいました。多面的に人の感情を捉え、対人ストレスを軽減するだけでなく、自分の不満に目を向けることでやりたいことを見つけ出すヒントが得られるインタビューです。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。