top  / stories  / 周りから認められることをしなきゃいけない、なんてない。
STORIES 2019/02/09

周りから認められることをしなきゃいけない、なんてない。

西川 隼矢

世の中の人を笑顔にする方法をプールに見いだしたいと、プールとの関わり方をずっと模索し続けている人物がいる。“日本で唯一のプール専門水中フォトグラファー”の肩書きを持ちながら、現在では“プールイノベーター”としてプール業界を盛り上げたいとまい進している西川隼矢さんだ。現在のような独自で見つけたプールへのアプローチ方法は、一体どのようにして探りあてたのだろうか?

西川さんが代表をつとめるRockin'Poolの企業理念『人と笑顔をもっとプールに集める』には、彼自身の思いもすべて集約される。多角的な視点からプールの魅力を伝えていきたいと語る西川さんだが、ここにたどり着くまでの間には、一時プールから離れていた時期もあったというほど、決して平坦な道のりではなかった。そんな紆余曲折の人生を歩みながら、今の揺るぎない軸を形成するまでには、西川さんの人並み外れた行動力、そして瞬発的な決断力があった。

未来の水泳界を担ってくれるような
子どもたちを育てたい

小学校4年生で水泳と出合い、水泳に没頭する少年時代を過ごしたという西川さん。その後、全国からトップアスリートが集まってくるような鹿児島の体育大学に進学。アテネオリンピック代表選考会に出場するほどの実力を持つも、そこで競泳選手として限界を感じて、プレーヤーを潔く引退。次のステージとして選んだのは水泳インストラクターだった。
「これまで水泳界にしか身を置いてこなかったので、一番は自分と同じように水泳を通して成長し、未来の水泳界を担ってくれるような子どもたちを育てたいと思いました。純粋にプールを好きになってくれる人をもっと増やしたいなと」

そして3年が過ぎた頃、自らの体力面や周囲の同世代との収入格差など、指導者としての仕事をトータル的に考えた結果、自分の人生設計を冷静に考え始めた。その結果、水泳界とは180度違うIT業界へと足を踏み入れていく。

世の中の笑顔が自分に届いてこない

性格的に自分の発信したことで、人を喜ばしていたいという西川さん。システムエンジニア(SE)もまた、目に見えて誰かの役に立てる仕事だと思っていたが、実際にはギャップがあった。

「どれだけ100%のプログラムを組んだとしても、喜んでくれるのは上司だけ。一般ユーザーの笑顔は私にまで見えてこなかったので、仕事に対するやりがいも感じられませんでした。当時は完全に水泳から離れていましたが、運動がてら近所の市民プールで泳ぎ始めて……これがもう一度水泳への思いが再燃するきっかけでした。やっぱり自分にはプールなんだと気づいたので、すぐに脱サラ。まずは水泳アイテムを作るようなスポーツアパレルの会社を立ち上げました」

水泳アイテムと並行して、流行中だったマラソンにも注目してランナーアイテムも展開していたWASSER-S1 Design Officeは、アパレルデザイナー(現在は西川さんの妻)と二人三脚でスタート。しかし、そう簡単にはうまくいかなかった。

「水泳以外にマラソンアイテムにも範囲を広げてしまったことで、私は誰を笑顔にしたいのか?と自分の中で分からなくなってしまいました。それと同時にモチベーションも下がってしまって……。『やっぱり自分は水泳だけに集中するべきだ』とはっきり再確認できましたね。そしていろんなものに手を広げて、お金儲けをしたい人間ではないということにも気づけました」

とあるスイミングクラブにて撮影中の一幕。水中写真の魅力に気づき、仕事としてスタートした頃。

水中フォトグラファーとしての可能性に気づく

スポーツアパレルの会社も3年ほどで縮小。アルバイトを複数掛け持ちする一方で、SE時代からの趣味が一眼レフカメラだったこともあり、オリンピックを目指す現役スイマーの親友から自分が大会で泳ぐ姿を撮影してほしいというオファーを受けたことをきっかけに、プールサイドでの撮影を始める。その親友が引退を控えるタイミングで、彼のヒストリーフォト集をプレゼントしたいという思いから、練習しているプールにまで足を運び撮影。それを進める中で、どうすればきれいな写真を撮影できるのかと素人ながらに試行錯誤を繰り返した。

「水中で普通にシャッターを切っただけでは、ただ青白いだけの写真なのですが、撮影後の編集作業一つ加えるだけですごくきれいな写真に導くことができるということが分かったのです。今まで見てきたプールがまるでアート空間に変わる、そこで初めて水中写真の魅力に気づかされました」

当時もまだ「自分の道ってなんだろう?」と悩んでいた西川さんだったが、これが自分の進むべき道が見えた瞬間だった。掛け持ちのアルバイトの一つとして水泳インストラクターをこなしていたことから、そのプールを夜間に使用させてもらい、幾度も人に見立てたマネキンをプールに沈めては撮影を繰り返すという独自の研究をひたすら繰り返した。

「プールの撮影ハウツー本があるわけでもないので、完全に独学でした。そんな中、実際に撮影した水中写真をSNSに投稿したところ、周囲の反響に手応えを感じたんです。素人考えで始めた水中写真でしたが、そのうち水泳ブランドからの広告撮影が舞い込むまでになったとき、これは仕事になるかもしれないと本気でやってみようと思いました」

インタビュー時、西川さんが被っていた帽子のロゴ

自分にしかなし得ない撮影スタイルで、自らの存在価値を生み出す

順調に水中フォトグラファーとしての活動をスタートさせた西川さんだったが、広告オファーの中には、水中写真の撮影ついでに陸上でも撮影をしてほしいというものもあった。

「それに対して妻の一言『プール以外で撮影したら、自分の色がなくなるね』と言われて、ハッとさせられました。これで“プールオンリーのフォトグラファー”という軸がはっきり定まったように思います。水中は水中でも、今まで海中などプール以外で撮影したことは一度もありません。その妻の助言で、プールという特殊な環境の中なら私が一番うまく撮影できるとクライアントに示せるようになり、それからはフォトグラファーとしての価値も自分で決められるようになりました」

スイムブランドspeedo広告写真。これをきっかけに、多数オファーが舞い込む。

それもそのはず。水中では、両手それぞれにカメラとライトを持ち、すべての制御は脚のみ。頭と脚の位置が逆転するローアングルから撮影し、5分間で100回ものシャッターをミスなく切れる西川さんの撮影スタイルでは、他の人には到底マネできない。そこに自分自身の存在価値を見いだしたのである。

水中写真だけでは、水泳界への根本的な貢献にはならない

プールの魅力を世の中に発信できると始めた水中フォトグラファーだったが、ここで西川さんの中に2つの葛藤が生まれた。

「1つは水中カメラで捉えたプールで泳ぐ子ども達の笑顔は、水泳インストラクターが長年培った成果物にすぎず、カメラマンである僕が引き出したものではないということ。水泳市場に目を向けたとき、水中写真だけでは水泳界を繁栄させていけないと気づいてしまったんです。周囲を喜ばせるツールでしかなく、私の撮った水中写真をきっかけに水泳を始めるという人も現れませんでした。

そして2つ目は、どうやったら単価を上げられるのかというフォトグラファーとしての存在価値。私はAPA(公益社団法人日本広告写真家協会)に所属していますが、当たり前ですがクライアント事情によって収入も大きく変動します。そこで私がやるべきことは、プールに笑顔を集めて、プール市場にお金が落ちるような場所にさせること。だからこそ今は、その仕組みを作ることに専念しています」

Rockin’Poolとしての売上を見ても、プール撮影事業はほんの1〜2割程度で、プール業界の底上げになるような事業(プールテクノロジー、プールアイテム開発、プールイベント事業、プールリノベーション)と“プールのことしかやらない会社”をとことん貫いている。

いつか“プールテクノスポーツ”で業界を盛り上げたい

2020年に自国開催されるオリンピックに向けて、西川さんが世に仕掛けたい新たな試みについても聞いてみた。

「Rockin’Poolの中でも一番力を注いでいるのが、プールテクノスポーツというプールで楽しめる新たなeスポーツです。現在すでに、テクノスポーツという陸上で行うものがあって、それのプール版ですね。重力から解放されるプールの中なら、老若男女、健常者、障がい者関係なく対戦することができるんです。プールにはそんな平等で究極のスポーツがあるぞということを証明したい。現状はまだ周囲にプレゼンしているような状況ですが、いつかは理解を深めて成功へとつなげていきたいですね」

おもしろいと思ったことは、すぐに行動に移してみよう。そして正解までやり続けてみることが重要。私の水中フォトグラファーの経験に関しても、自分自身で正解まで持っていったからこそ、結果的に成功と言えると思っています。たとえうまくいかなくても、この先に成功があると信じてやり続けることが大事だと思います。もし途中でやめてしまえば、それは失敗になってしまうから。
Profile 西川 隼矢

株式会社 Rockin'Pool代表取締役。日本で唯一のプール専門水中フォトグラファー。アテネ五輪代表選考会にも出場経験のある元競泳選手。 水泳インストラクター、システムエンジニアを経て、水中フォトグラファーとなる。 広告写真家の登竜門「APAアワード2017」では、広告作品部門 3位・写真作品部門4位と史上初のW受賞の快挙を達成する。

STORIES 2019/02/09 周りから認められることをしなきゃいけない、なんてない。