人生100年時代は不安だらけ、なんてない。
人生100年時代といわれる現代日本。健康で自分らしく生きることが望まれる一方で、切り離すことができないのが、お金をはじめとした将来への不安だろう。株式会社LIFULL 人生設計事業部部長の戸部亮介は、「経済的不安の解消」「自分らしく生きる選択肢」を社会に提供すべく、サービスの開発に尽力している。(LIFULL 人生設計は2024年現在サービス終了しております)
株式会社LIFULLは、人生100年時代をより自分らしく生きるためのWebサイト「LIFULL 人生設計(β版)」の提供をスタートした。同プロジェクトをマネジメントする戸部は、新規事業の立ち上げに至った理由を「日本固有の問題にアプローチしたかった」と語る。超高齢社会を迎えた日本における、構造的な課題とは。
超高齢社会の日本で、
人生100年時代を主体的に生きるために
キャリアの多くを海外事業で培った、人生設計事業部部長の戸部。20代より世界で勝てる事業を生み出したいと、前職から必死でビジネスに従事してきたという。LIFULL入社後、インドネシアの現地法人から日本に戻ったのは、2019年の12月。新型コロナウイルスの感染拡大が起こる直前のことだった。
「帰国後は経営企画部門に入り、LIFULLの新規事業について議論を交わしていました。ちょうどその頃、コロナ禍により社会状況が急速に悪化。日本を良くできる事業を、真剣に考えるようになりました」
戸部が焦点を当てたのは、超高齢社会だった。背景には自身の実体験も関係している。
「インドネシアの平均年齢は私がいた頃で29歳(2018年現在)、日本が47歳(2021年現在)なので、親と子ほどの差があったわけです。ジャカルタを歩いていると周囲が若いと感じますが、東京では自分が若いと感じる。高齢化率が世界でも一番進んでいる日本社会で、『未来を明るく感じられるようにするために、何か事業で貢献したい』と思い、事業責任者に立候補しました」
こうしてスタートした新規プロジェクト。世界から日本へと視点を移した戸部は、社会課題の解決に挑み始める。
人生設計に必要なのは、バイアスのない情報と相談窓口
超高齢社会における社会課題の解決に向け、事業計画を進めていた戸部は、まず問題の中核を追求した。
「超高齢社会の課題は複雑で多岐にわたりますが、ポイントになるのは“老化”だと考えました。老化は全ての人に起こる現象であり、老化が進むほど将来への不安は増すからです。具体的な不安は大きく二つ、“お金”と“健康”です。そして調査を重ねてみると、二つの不安は密接に関わっていることがわかりました。お金の不安が解消されれば、健康の方も解消されていくんです。こうした経緯から、まずはお金の不安を解決できる事業を目指しました」
LIFULLが行った調査では、40~65歳の約89%が老後へのお金の不安を抱え、そのうち約61%は「不安に対して特に何も対策していない」という結果が出ている。漠然とした不安の中で、将来に向けた行動をしていない人が多数を占めるのだ。
「自分自身も子どもの頃は、70〜80代で祖父母が亡くなるのを見てきました。時代が変わり、100年生きるのを前提とするのがスタンダードになったことで、多くの人々は『“その先”をどう生きていくのか』を真剣にデザインする必要に迫られています。それに私たちが提供すべきなのは、『老後の不安の解消方法』と『より自分らしく生きる選択肢』だと捉え、新規事業の方針を『メディアでの情報発信』に定めました」
しかし中高年のマーケットが拡大する日本では、お金に関する情報は世の中に乱立している。インターネットでは金融商品の訴求やファイナンシャルプランナーによる解説記事などが、あふれている状況なのだ。戸部はこの構造に対しても、課題意識を抱くようになる。
「『年金がもらえない』『老後資金は〇〇円』『日本経済は下降する』など、情報の中には、必要以上に恐怖をあおったり、ネガティブな内容を盛り込んだりするものも多かった。事前インタビューをした50代の男性からは、『お金のメディアは疲れるので、見る気も失せてしまう』という声を聞きました。こうした状況が結果として、『不安に対して特に何も対策していない』という事象につながっているのだと考え、他メディアと差別化を図る必要性を感じたんです」
もう一つ戸部が課題視したのは、特定の金融商品を販売することで手数料を得る無料相談サービスだ。こうした窓口では、証券口座の開設や保険の契約に誘導されるケースが多く、ユーザー側で金融商品やライフプランの信頼性を事前に判断することが困難になる。
「無料で相談でき、将来設計を身近にできることは良いことです。しかし、話の最後に勧誘をされてしまうと、やはりユーザーさんは落胆してしまう。こうした背景から、バイアスのかからないサービスを開発することも、大きな方針としました」
人生設計を一つにまとめたポータルサイトをリリース
こうして開発されたのが、Webサイト「LIFULL 人生設計」だ。β版の提供は2021年9月にスタート。戸部の注力課題であった記事コンテンツによる情報発信と専門家への相談の二つが、大きな柱となっている。
記事コンテンツでは、見識が広く、金融商品の販売代行を行っていない、独立系ファイナンシャルプランナーなどの専門家と提携。「人生設計を軸にした資産形成」に関する記事を多数提供している。内容は、ライフプランシミュレーションや資産形成の基本から、つみたてNISA、年金、隠れ資産の買い取りサービスといった実践論まで、幅広く平易に解説。また、家族や住まい、生きがいなど、資産形成以外の情報も発信され、「より自分らしく生きる選択肢」を見つけられることも特徴だ。
「資産形成というのは、介護や教育、住宅選びなど、さまざまな要素と複合的に関係しています。それらの情報が各メディアに分散されていると、ユーザー側にも高度なリテラシーが必要になってしまう。そこで『LIFULL 人生設計』の基本構造は、人生設計を一つにまとめた“ポータルサイト”と設定しました」
各記事の執筆者である専門家とは、申し込みフォームを通じて相談の依頼が可能だ。相談料は原則有料となる代わりに、タイアップする金融商品などは一切存在しない。
「ユーザーさんは相談料を専門家に支払い、その一部を手数料として当社が頂く形です。こうした収益構造にすることで、金融商品の販売に依存しない、中立的な相談サービスを実現しています。サイトの公開後、相談件数は徐々に増加しています」
コンテンツの一部には、編集部により作成されたものがある。ユーザー目線で書かれることから共感が生まれやすく、反響の大きい記事も多いようだ。
「『自分で確認!「ねんきん定期便」と「ねんきんネット」の利用法』というコンテンツは反響がありましたね。毎年送られてくるねんきん定期便ですが、実際にどう読めばいいかはよくわかりませんし、具体的なアクションにもつなげづらい。そこを“自分事”として捉えられるように、加入期間や支給額の確認方法を、シンプルに解説しました。専門家の記事も含め、自分自身のためにもなるので、編集していて楽しいです」
不確実な時代、ポジティブに人生を謳歌(おうか)するために
β版が世に出た「LIFULL 人生設計」。続く完成版のリリースは、LIFULLグループが掲げるアジェンダのうち、「人生100年時代における経済的不安をなくすために、お金に関する選択肢を広げる」「人生100年時代を自分らしく生きるために、人生設計を主体的に見直す機会を増やす」という目標に向けて進められている。
「団塊の世代全員が後期高齢者となる“2025年問題”は、目前に迫っています。介護や相続などの準備は重要ですが、実際には事が起きてから対応する人も多い。目を背けたくなるような問題に対し、手遅れになる前に向き合うためには、できる限り知識を得ながら、家族とも話し合っていくことが必要です。『LIFULL 人生設計』は今後も、より多様な情報を発信できるようにアップデートし、皆さまの不安を解消していきます。
一方、こうした時代だからこそ、趣味や生涯学習、社会的活動などポジティブなチャレンジも重要化するでしょう。そうした選択肢が広がるほど、日本の社会も経済も活性化し、超高齢社会における多くの問題も解決されていくのではないでしょうか。自分らしく主体的に生きることに寄与するコンテンツも、拡充していきたいですね」
最終的に目指すのは、「人生100年時代をより自分らしく楽しめるサービス」だと語る戸部。自分自身もポジティブに人生を謳歌しようとする、実践者の一人だ。
取材・執筆:相澤 優太
撮影:高橋 榮
1982年生まれ、東京都出身。
2006年、株式会社サイバーエージェントに入社、マイクロアドカンパニー営業部配属。2007年の子会社化とともに株式会社マイクロアドに出向、2012年より2014年まで北京事務所の代表。
2015年に株式会社LIFULLに中途入社し、国際事業部・経営企画に所属。2016年よりLIFULL MEDIA INDONESIAのCOO/Directorとしてジャカルタに駐在。帰国後、2020年1月より経営企画・経営管理に所属、2020年10月よりシニア事業準備室室長、2021年10月よりLIFULL人生設計事業部 部長。
みんなが読んでいる記事
-
2023/09/12ルッキズムとは?【前編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
-
2022/02/22コミュ障は克服しなきゃ、なんてない。吉田 尚記
人と会話をするのが苦手。場の空気が読めない。そんなコミュニケーションに自信がない人たちのことを、世間では“コミュ障”と称する。人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めたり、人気芸人やアーティストと交流があったり……アナウンサーの吉田尚記さんは、“コミュ障”とは一見無縁の人物に見える。しかし、長年コミュニケーションがうまく取れないことに悩んできたという。「僕は、さまざまな“武器”を使ってコミュニケーションを取りやすくしているだけなんです」――。吉田さんいわく、コミュ障のままでも心地良い人付き合いは可能なのだそうだ。“武器”とはいったい何なのか。コミュ障のままでもいいとは、どういうことなのだろうか。吉田さんにお話を伺った。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)
人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
-
2023/02/27アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)とは?【前編】日常にある事例、具体的な対処法について解説!
私たちは何かを見たり、聞いたり、感じたりした時に実際にどうかは別として、「無意識に“こうだ”と思い込むこと」があります。これを「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」と呼びます。アンコンシャスバイアスによるネガティブな影響に対処するための第一歩は、「意識し、理解する」ことです。
-
2021/09/30苦手なことは隠さなきゃ、なんてない。郡司りか
「日本一の運動音痴」を自称する郡司りかさんは、その独特の動きとキャラクターで、『月曜から夜ふかし』などのテレビ番組やYouTubeで人気を集める。しかし小学生時代には、ダンスが苦手だったことが原因で、いじめを受けた経験を持つ。高校生になると、生徒会長になって自分が一番楽しめる体育祭を企画して実行したというが、果たしてどんな心境の変化があったのだろうか。テレビ出演をきっかけに人気者となった今、スポーツをどのように捉え、どんな価値観を伝えようとしているのだろうか。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。