家族以上の強い結びつきは作れない、なんてない。
多種多様な人が集まり、共に暮らし、共に働くことを目的につくられた拡張家族「Cift」の発起人である藤代健介さん。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科に在学中、空間設計に関連するコンサルティング会社prsm(プリズム)を設立。以降は、場づくりを通して「平和とは何か」について考え、個人同士がより深い愛を持ってつながられる社会づくりを目指しています。自身もCiftに住みつつ、現在は複数の拠点を持ちながら生活を送り、従来の家族という枠を超えたコミュニティーを今まさに構築している藤代さんの考えに迫ります。

「家族」とはこれまで、血のつながりのある集団を指し、一緒に住んだり、人生の長い時間を共にしたりと、常に血縁関係の中に見いだされてきた関係でした。しかし最近では、その定義が変わってきているかもしれません。映画『万引き家族』がカンヌ国際映画祭において最高賞であるパルム・ドールを獲得したことは記憶に新しいでしょう。ニュース番組でも日々家族による虐待や老老介護問題が取り上げられているほか、老親に頼って生活する子供の存在がメディアを通して浮き彫りになるなど、家族について深く考える機会が増えたように感じないでしょうか。かつて、家族のことは家族が一番理解し、家族と一緒に住むことが最上という固定された価値観からの脱却、すなわち「制約からの解放」が時代と共に進んでいることは間違いないでしょう。こういった家族について、藤代さんはどのように考えているか。そしてどんな家族をつくりたいと思っているのでしょうか。ご本人に話を伺いました。
多様性にあふれた人たちが共存できる場所を作る
東京・渋谷にCiftが誕生したのは2017年5月のこと。「共に暮らし、共に働く」を目的につくり、クリエーターが続々と集まってきました。もともとは、空間設計に関する仕事に携わっていた藤代さんのもとに、ある日“面白い住宅をつくりたい”といった相談がきたことがきっかけだったといいます。初めはコンサルタントとしてリサーチなどを行っていましたが、関わっていくうちに自分事として捉えるようになり、自ら世界観を作ることにコミットし、自分もCiftに居住することを決めました。
「僕は昔から建築や思想が好きで、当時、大学院に通いながら、建築やサービスデザインなど、場をつくる仕事をしていたのですが、在学中に会社を設立しました。具体的には、場づくり、コミュニティーづくり、地方自治体のコンセプトづくり、大規模ディベロッパーの施設づくりなどをしており、現在も一部続けています。そんななかで数年前、Ciftの原型となる話が僕のところにやって来たんです。関わっていくうちに『これは本気でやろう』と思うようになり、1年ほどかけて2017年5月にオープンしました」
オープン後は特に宣伝活動はしなかったそうですが、居住したいという人が徐々に現れてきたといいます。
「現在もそうですが、最初の居住者は、僕の友達、または友達の友達だったんです。現在は、大企業社員、教育関係者、ミュージシャン、ソーシャルヒッピー、映画監督、社会起業家など、多種多様な人たちが集まって、それぞれの世界観が相互作用しています。Ciftは、建物自体のことではなく、概念的な存在です。僕自身は、Ciftの管理人でもなく代表でもありません。発起人ではありますが、いちメンバーで、僕がイニシアチブをとる場ではありません」
愛を持って生きられるかという挑戦
現在、Cift全体で約70人のメンバーがいます。その中でCiftが挑戦しているテーマは「結ばれること」だといいます。
「今の時代があまりに結びというものが失われているように感じます。日本の歴史をたどると、近代と呼ばれる時代になって以降、個人の中でワークスタイルもライフスタイルも自由と合理性を求め、その限界が現在の世界情勢的なマクロな視点でも見えてきていると思います。利己的な自己愛が利他的な社会愛に勝りがちなのが現代社会の現状で、そこをどうやったら社会的な愛が持てる人間になれるかということがCift全体を通したコンセプトであり挑戦です。人は、結婚というシステムを使わなくても、ちゃんと家族としてお互いを信じ合って生きることができるんだっていうことを試してみたい。そこに信仰という力を使わずして『人の集まる場をつくる』ことがポイントだと思っています。人の内側にある『人を、信じたい、信じ合いたい』という前提を持ち寄ったコミュニティーで在りたいです。その人が悲しんでいたら、時間をかけて付き合ってあげたりしてその悲しみを受け止める。誰かがつらくなった時、苦しんだ時、悩んだ時に、どれだけその人に手を差し伸べられるかというところが大事だと思います」
Ciftを展開し続けるなかで人や人の愛を追求していきたい
「これまでCiftが存在していくなかで、社会に対して何かしら意味のあるものなんだなっていう感触は強くなりました。それは時代の流れもあって、Ciftが家族的なものを強調するようになっていった気がする、というのもあるかと思います。ですが、家族って厳密な定義はないと思っています。家族に対する考え方って人それぞれ違うのに、家族だって前提を共有しているのが、結果的に面白くなっているのだと思います」
こう話す藤代さんは、将来的な目標は特にないと言います。
「人としての道を追求していきたいという思いはありますが、そのなかでなんとなくの自分の未来は予想しています。シンプルにいえば、僕は今の自分の在り方をグローバルに拡張していくのだと思います。現在の僕は、妻がいて、それとは別にCiftの70人くらいの家族がいて、ほかにも日本に深いつながりのあるコミュニティーがたくさんあります。拠点では渋谷、恵比寿、逗子の3カ所が生活のベースになっています。その中で思うのが、緊張と緩和みたいなものをライフとワークの中でバランス良く取りたいというのがあって、都市と田舎を行ったり来たりしながら生活できたらなと。それを今度はグローバルでやっていくのかなと僕は思っています」

1988年、千葉県生まれ。東京理科大学建築学科卒。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科在学中に、理念を場に翻訳するデザインコンサルティング会社prsm(プリズム)創設。その後、被災地のコミュニティセンターのコンセプトファシリテーション、大手百貨店の組織構造改革、大手不動産会社のオープンイノベーションプログラムコーディネーター、地方自治体とのまちづくりビジョン策定などに多重的に携わる。2015年に世界経済フォーラムのGlobal Shapers Communityに選出され、2016年度Tokyo Hubのキュレーターを務める。Forbes 30 Under 30 Asia 2018のThe Arts部門に選出。2014年には人生をプロトタイプする半年限定のコミュニティーPROTOを創設し解散。2017年5月からは意識家族を通して平和活動を実践する拡張家族Ciftを創設しその一員となる。
多様な暮らし・人生を応援する
LIFULLのサービス
みんなが読んでいる記事
-
2025/08/07暮らしと心のゆとりのつくり方 〜住まい・お金・親の介護のこと〜
独り暮らし・資産形成・親の介護など、人生の転機に必要な住まい選び・不動産投資・介護の知識をわかりやすく解説します。
-
2022/09/15家の天井は高いほうがいい、なんてない。伊礼 智
豊かに暮らせる「小さな家」づくりで知られる建築家の伊礼智さんは、これまで狭小地の住宅を含め、数々の「天井が低い家」を設計してきた。一般に、住宅市場においては「天井は高いほうがいい」とされがちだ。ハウスメーカーのテレビCMや住宅情報誌などでは、明るく開放的な住まいとして天井の高さをアピールすることが少なくない。 一方、伊礼さんが設計する多くの住宅の天井高は2100~2200ミリメートル。これは、建築基準法で居室に対して定められている天井高の最低値だ。ハウスメーカーが通常推奨している天井高は2400ミリメートルとされているので、それよりも約20~30センチメートル低いことになる。 「天井は高くなくてもいい」。伊礼さんから、家に対する一つのこだわりを脱ぎ捨てるヒントを伺った。
-
2024/09/24お金は稼ぎ方と貯め方だけおさえていれば大丈夫、なんてない。 ―肉乃小路ニクヨが語る、お金に価値を与える増やし方と使い方―肉乃小路 ニクヨ
「お金の話をするのはマナー違反」。そんな風潮を感じたことはないだろうか。今回取材した“経済愛好家”である肉乃小路ニクヨさんは、お金への興味をオープンに話し、積極的にメディアで発信している。いい家や車を買える、ブランド品がたくさん買えるなど表面的な側面だけではない、お金の本質的な価値とは。意外な「自分のあり方とお金のつながり」とは。ニクヨさんに話を伺った。
-
2022/09/15おじいちゃんが人気YouTuberになるのは無理、なんてない。柴崎 春通
70歳でYouTubeを始めた水彩画家の柴崎春通(しばさき・はるみち)さん。YouTubeチャンネル『Watercolor by Shibasaki』は、約5年間で登録者数148万人に達した。今や、おじいちゃん先生と呼ばれる人気のYouTuberだ。当初は、透明水彩の魅力を伝えたいという思いで動画を作っていたが、登録者数が増えるにつれて、柴崎さん本人に癒しを求めている視聴者が多いことに気が付いたという。この記事は「もっと自由に年齢をとらえよう」というテーマで、年齢にとらわれずに自分らしく挑戦されている3組の方々へのインタビュー企画です。他にも、YouTubeで人気の近藤サトさん、Camper-hiroさんの年齢の捉え方や自分らしく生きるためのヒントになる記事も公開しています。
-
2023/03/20なぜ、男女格差で困るのは女性だけと思われているのか|ジャーナリスト/相模女子大学大学院特任教授・白河桃子
146カ国中、116位(※1)――。2022年に発表されたジェンダーギャップ指数の日本の順位だ。順位が低ければ低いほど、ジェンダーギャップが大きい。つまり、男女格差が大きいことを意味する。日本以外の先進諸国……例えばフランスの衆議院の女性議員比率は39.5%(※2)、そしてニュージーランドに至っては48.3%と、ほぼ人口比率と同等までにジェンダーギャップの是正が進んでいる。しかし、日本の国会の女性議員比率は、15.5%と世界190カ国中140位。衆議院議員の比率では、なんと165位にまで落ちてしまう。ジャーナリスト・相模女子大学大学院特任教授の白河桃子さんは、「婚活」「妊活」を提唱した人物だ。現在はジャーナリスト活動の他、学生向けのキャリア教育、執筆や講演活動、政府の委員などを行っている。女性×キャリアが活動の軸だという彼女は、「ジェンダーギャップは女性だけが頑張るという問題じゃない。社会全体の問題だ」と話す。その理由を伺った。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。