全部のことを「平均的」にしなきゃ、なんてない。
わくわくさんこと、久保田雅人さん。子ども向け工作番組「つくってあそぼ」への出演をはじめ、全国での工作教室、YouTubeでの発信などを通して数多くの子どもと向き合ってきた。そんな久保田さんから見て、工作は子どもにとってどんな意味を持つのか。そして子どもと真摯(しんし)に向き合って教育をするためにはどうすればいいのだろうか。話を伺った。

1990年から2013年まで放送されていた工作番組「つくってあそぼ」のわくわくさんとしてよく知られる久保田さん。多くの人がテレビでその姿を目にしたことがあるだろう。子どもにもわかりやすい表現や、コミカルで親しみやすい語り口の裏には、たくさんの工夫が込められている。20年以上子ども向け番組を担当し、今でも全国を飛び回って子どもと接している久保田さんだからこそ見える、子どもや教育との向き合い方のコツを教えてもらった。
全部できる“平均的ないい子”を目指さなくてもいい
教員に憧れていた10代の頃
わくわくさんのイメージが浸透している久保田さんだが、元々は教員志望だったという。高校生の頃に出会った教師に影響を受け、子どもを相手に教える仕事に憧れを抱くようになった。
「高校1〜2年生の時に担任だった数学の先生に憧れて、教師っていいなと思ったんです。
私は数学が苦手で赤点を取ってしまうほどだったんですけど、そんな私のことも公平に見てくれるようなところがあって。数学だけではなくて、本を読むことを勧めてくれたり、旅に行くことを勧めてくれて、その先生がきっかけで始めたことがたくさんありました」
教師を目指し始めた久保田さんは、得意だった日本史で教師になるべく、文学部史学科に進学。一生懸命に勉強をしたものの、4年生の教育実習で教えることの難しさを味わい、教師の道からはそれることになった。そんな時に見つけたのがある劇団の募集要項だった。
「大学4年の時、たまたま立ち読みした雑誌である劇団の第1期生募集情報を見つけました。教員になる夢を諦めかけていた私は、その劇団に所属することにしたんです。劇団の座長が声優の三ツ矢雄二さん、副座長が田中真弓さんでした。お二人のおかげもあって、劇団員も声優デビューすることが多くて、私も大学在学中に声優デビューしました」
声優デビューから4年ほどの間はアニメを中心にさまざまな作品に出演した。そんな中、副座長・田中真弓さんのもとに新しい工作番組の出演者を紹介してほしいという依頼が舞い込む。そこで、見事にわくわくさんの役をつかみ取ったのが久保田さんだったのだ。
「男性で、若くて、しゃべれる人、そんな依頼が来ていたようでした。そこで田中さんが『うちの劇団で、大道具・小道具を作っていて、しゃべれる人がいるからオーディションを受けさせてください』って紹介してくださったんです。受かるわけないだろうと思っていたら、受かってしまいました。わからないものですね、人生は(笑)」
20年以上、全国を回る中で見えてきた子どもたちの変化
思いもよらぬことがきっかけで始まったわくわくさんとしてのキャリア。教師を目指していたとはいえ、子ども向けに工作を教えるのは苦労の連続だったという。
「そもそも、子どもたちの目の前で工作なんかしたことがなかったので、当初は大変でしたね。番組の収録には子どもたちはいませんが、番組を見るのは子どもなので、子どもたちにわかりやすく伝えるにはどうしたらいいのか、研究しました。当時、番組作りのために協力してくれる幼稚園などがあって、そこに自分から連絡して、『研究のために子どもたちの前で工作をやらせていただけませんか?』とお願いして練習していました。実際の子どもの前でやってみて初めて、大人が思っているよりも子どもはできないとか、ウケると思ったギャグがウケないとか、たくさん学びました」
子どもたちの目の前でやってみないとわからない、そんな学びを得た久保田さんは現在でも、全国を飛び回りながら工作を広める活動を続けている。数十年にわたって子どもと触れ合う中で、久保田さんはある変化を感じている。
「平均的な“いい子”が多くなったなと思うんです。例えば工作でたくさんの保育園を回っていると、昔はちょっと違う色使いをする子とか突拍子もないものを作る子は少なくありませんでした。でも、最近はほとんどそういう子を見なくなったんです。
表面化しないだけで、内面にいろいろ抱えている子どもも多いのかもしれませんが、子どものうちに発散できるものは発散してもいいんじゃないかなと思います。『お手本通り』じゃなくてもいいし、『みんな一緒に』じゃなくてもいい。何か全部のことを平均的にできなければいけないという意識に、子どもも、もしかしたら教える側の親や先生も縛られているのかもしれない。苦手なものがあってもいいし、何か好きなものがあればそれでいいのにと感じます」
十人十色の違いを、打ち消してしまうような平均性を求められている・求めてしまっているのではないだろうか。そんな久保田さんの問いかけにどきりとする。「別に工作が嫌いだったら、嫌いでもいいんです」そう語る姿は、かつて久保田さんが憧れた数学の先生に重なるようだ。
失敗しても大丈夫だと伝えたい
「全部が平均的にできなくてもいい」そんな姿勢は久保田さんが現在運営するYouTubeチャンネルの中にも垣間見える。
「番組が終わった後、工作の本を出したり雑誌に載せてもらったりといろんな活動をしていたのですが、やはり動画だからこそ伝わることもあるだろうと思ってYouTubeを始めました。幼稚園の先生なんかも見てくださっているようで、役に立っているならうれしいです。
テレビと違うのは、失敗もそのまま動画に入れていることです。いつでも100%うまくいくなんてあり得ません。それよりも失敗しても大丈夫、なんとかなるってことを紹介したいなと思っています。たとえ出来栄えが悪くても、親子で一緒に作ってみたことが思い出にもなるでしょう」
長年、子どもの工作遊びに携わってきた久保田さんは、子どもにとっての工作や遊びはどんな意味を持つものだと考えているのだろうか。
「子どもは遊びの中から必ず何かを見つけると思います。例えば、私が子どもの頃は駄菓子屋さんに行くと近所のお兄さん・お姉さんが、散らかしちゃいけないとかお釣りをもらうとか、駄菓子屋さんでの遊び方の決まり事を教えてくれました。駄菓子屋さんのくじ引きは大体外れるようにできているとか、社会勉強もしたように思います(笑)。
工作であれば、自分で作って、自分で遊んで、自分で壊して、自分で修理する一連の流れを体験できます。だからこそ物を大切にしなければいけないということを学ぶことができます。手や体を動かす遊びは子どもに学びを与えてくれるものだと思います」
現代では、ゲームや旅行などの「遊び」の幅も、教育の仕方も広がり、プレッシャーを感じる親もいるのかもしれない。そんな子育て中の方に向けて、最後に久保田さんからはこんな言葉が出てきた。
「親子で一緒に、近所の曲がったことのない道を曲がって探検してみてください。家から半径500mのところでなんで迷子になってるんだろうって思ったり、実は子どもの方が近所の道に詳しかったり、いろいろな驚きや気づきがあるはずです。そして、そんな経験が案外思い出に残ったりします。必ずしも、お金をかけてどこかに行ったり、物を買ってあげたりしなくても、子どもと真摯に向き合うことはできるので、肩肘張らずにおおらかに構えるのがいいのではないでしょうか」
取材・文:白鳥菜都
撮影:服部芽生

1990年から2013年まで放映されていたNHK教育テレビ(現・Eテレ)の子ども向け工作番組「つくってあそぼ」に「わくわくさん」役として出演。現在も、工作関連のイベントなどで活躍している。YouTubeにて「ワクワクさんチャンネル」を運営。
Twitter @kubota_waku
YouTube わくわくさんの工作教室
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