旅をしながら暮らすのは難しい、なんてない。【後編】
書籍『移住女子』の著者である伊佐知美さんは、固定の住まいを持たずに世界各地を旅する生活を3年以上続けている。安定した仕事や暮らしを手放したにもかかわらず、その人生は会社員として働いていた頃よりもはるかに充実しているという。本来はビビリな性格であるにもかかわらず、思い切った生き方を選択できた理由とは?
「衣・食・住」という言葉があるように、人が暮らしていくうえで住居は必要不可欠なものである。だが、地方へ移住した人々を取り上げた書籍『移住女子』の著者・伊佐さんはここ3年ほど固定の住まいを持たずに世界を自由に飛び回り、ノマドワークで収入を得る暮らしを楽しんでいる。必要なのは最小限の荷物とやりたいことを決める意思。だが当の伊佐さんは「すごくビビリな性格なので、安定した暮らしを手放すのも新しい世界に飛び込むのも怖くてたまらないんです」と言う。肩書や安定した生き方、果ては住む家まで、多くの人が執心するさまざまなものを手放してきた背景には、「後悔したくない」という強い思いがあった。
小さな成功体験の積み重ねが
新しい扉を開く勇気になる
さまざまな言語や文化、美しい景色と触れ合うことで得たものは数えきれないほどあるが、“旅をしながら暮らす”という生活をつかむために伊佐さんが手放してきたものは計り知れない。正社員という立場、安定した暮らし、住む家など、一般的な生き方をする人の多くが執心するものばかりだが、失うことに不安はなかったのだろうか?
「ものすごく不安でしたし、何かを手放すことは今もすごく怖いですよ。でもやりたいことを諦めたら絶対に後悔する。だからライフスタイルはできるだけ次の段階に進む準備が整ってから“スライド式”で変えることを自分の中でルール化しているんです。たとえば、副業だったライターの収入を安定させてから会社を辞めたり、自宅や旅行先でも滞りなく作業ができるかを何度も実験してからリモートワークを実践したり。長旅に出る前も週末移住や旅行などで家を離れる日数を少しずつ増やして、長期間家を離れても暮らしていけるかどうかを何度も試しました。勢いで行動してるように見られますが、自己評価としては小心者なので準備と計画が欠かせないんです。自分では入念なつもりでも、周りから見たら全然足りていないのかもしれませんが……(笑)。だから今の暮らしも段階を踏みながら小さな成功体験を積み重ねて、『これなら大丈夫!』という確信を持ってから始めたことなんですよね」
さまざまな取捨選択を繰り返すうちに気づいたこともある。それは大きなものを失ったとしても、ぽっかり空いた部分に何かしらの出会いやチャンスが入り込むということだ。
「新しい可能性を見つけるきっかけにもなるし、好きなものを選んでいけば人生もどんどん幸せで満たされていく。おかげで最近は手放すことがほんの少しだけ怖くなくなりました」
旅から得たもので創作を続ける人生に近づいていきたい
世界一周の始まりから数えて約3年。50カ国ほどの国を回るうちに旅との向き合い方もじわじわと変化。現在はただ旅を楽しむのではなく、創作活動のヒントを得ることも目的になっているという。そのため最近では国内と海外のHUB空港のある街にいくつか拠点を持つことも考えるようになったと、伊佐さんは語る。
「ただ世界をめぐるだけではなく、旅で感じたことをプロダクトに昇華したいという創作意欲がめきめき生まれちゃったので、腰を据える場所が欲しいんですよね。具体的には文章を書いたり写真を撮ったり、服や文房具、アクセサリーを作ったり。その下準備として、今は長期滞在が自分に合うかどうかを実験中。旅のペースを1カ月に1カ国1都市くらいに落とす代わりに、1カ所あたりの滞在期間を長く取るようにしています」
7月はノルウェーと香港、8月はイスタンブール、9月はドイツとオランダに旅立つが、その後の予定は未定。見たことのない景色や創作の源となるインスピレーションを求め、伊佐さんの旅はこれから先も続いていく。
旅の間に得たイメージや現地の素材などを使用して作成し、販売を行っている「旅するスカート」。写真の一枚はモロッコがテーマ
最後に読者へ向けて、固定の住居に縛られない生き方を始めるためのアドバイスをいただいた。
~旅をしながら暮らすのは難しい、なんてない。【前編】はこちら~
撮影/尾藤能暢
取材・文/水嶋レモン
1986年新潟県生まれ。横浜市立大学卒。三井住友VISAカード、講談社勤務を経てWaseiに入社。どうしても“書き仕事”がしたくて、1本500円の兼業ライターからキャリアを開始。これまで国内47都道府県・海外50カ国150都市ほどを旅する。「#旅と写真と文章と」「#EnglishChallenge」コミュニティを共同主宰。365日の小さな日めくりカレンダー「himekuri trip」を10月発売予定。
公式サイト https://www.may.voyage/
Twitter https://twitter.com/tomomi_isa
note https://note.mu/tomomisa
Facebook https://www.facebook.com/tomomiisa
Instagram https://www.instagram.com/tomomi_isa/?hl=ja
みんなが読んでいる記事
-
2024/09/30女性だと働き方が制限される、なんてない。―彩り豊かな人生を送るため、従来の働き方を再定義。COLORFULLYが実現したい社会とは―筒井まこと
自分らしい生き方や働き方の実現にコミットする注目のプラットフォーム「COLORFULLY」が与える社会的価値とは。多様なライフスタイルに合わせた新しい働き方が模索される中、COLORFULLYが実現したい“自分らしい人生の見つけ方”について、筒井まことさんにお話を伺った。
-
2024/03/29歳を取ったら諦めが肝心、なんてない。―91歳の料理研究家・小林まさるが歳を取っても挑戦し続ける理由―
「LIFULL STORIES」と「tayorini by LIFULL介護」ではメディア横断インタビューを実施。嫁舅で料理家として活躍する小林まさみさん・まさるさんにお話を伺った。2人の関わり方や、年齢との向き合い方について深堀り。本記事では、まさるさんのインタビューをお届けする。
-
2022/02/03性別を決めなきゃ、なんてない。聖秋流(せしる)
人気ジェンダーレスクリエイター。TwitterやTikTokでジェンダーレスについて発信し、現在SNS総合フォロワー95万人超え。昔から女友達が多く、中学時代に自分の性別へ違和感を持ち始めた。高校時代にはコンプレックス解消のためにメイクを研究しながら、自分や自分と同じ悩みを抱える人たちのためにSNSで発信を開始した。今では誰にでも堂々と自分らしさを表現でき、生きやすくなったと話す聖秋流さん。ジェンダーレスクリエイターになるまでのストーリーと自分らしく生きる秘訣(ひけつ)を伺った。
-
2022/09/16白髪は染めなきゃ、なんてない。近藤 サト
ナレーター・フリーアナウンサーとして活躍する近藤サトさん。2018年、20代から続けてきた白髪染めをやめ、グレイヘアで地上波テレビに颯爽と登場した。今ではすっかり定着した近藤さんのグレイヘアだが、当時、見た目の急激な変化は社会的にインパクトが大きく、賛否両論を巻き起こした。ご自身もとらわれていた“白髪は染めるもの”という固定観念やフジテレビ時代に巷で言われた“女子アナ30歳定年説”など、年齢による呪縛からどのように自由になれたのか、伺った。この記事は「もっと自由に年齢をとらえよう」というテーマで、年齢にとらわれずに自分らしく挑戦されている3組の方々へのインタビュー企画です。他にも、YouTubeで人気の柴崎春通さん、Camper-hiroさんの年齢の捉え方や自分らしく生きるためのヒントになる記事も公開しています。
-
2023/09/12ルッキズムとは?【前編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。