【第1回】LivingAnywhere WORKトップ対談 〜これからの働き方と日本の未来〜
株式会社LIFULLは2020年7月、個人・企業・地域による多方向の交流をこれまで以上に活性化する新しい場の構築を目指す「LivingAnywhere WORK」の構想を発表した。働く場所の選択肢に多くの地方を加えることで密を回避することを目的とし、LivingAnywhere Commons事業では遊休不動産を活用したco-livingスペースを2023年に全国100箇所へ設けるという目標を掲げている。賛同企業や自治体はすでに100を越え、今まさにトレンドとなっているワーケーションや、二拠点居住、Uターン・Iターンといった、多様な暮らし方・働き方を求める人々の間で「LivingAnywhere WORK」への関心が高まっている。
LivingAnywhere WORK「働く場所から、自由になろう。」|LivingAnywhere CommonsLivingAnywhere WORKプラットフォーム構想。LivingAnywhere Commonsでは、企業や自治体などの有志団体によって各地拠点をつくり・シェアし合い、どこでも働ける環境( #WorkingAnywhere )を整えるプラットフォームを構想しています。この新しいプラットフォーム構想に賛同する企業や自治体を募集しています。
一方、2020年7月、時間と場所に捉われない新しい働き方「無制限リモートワーク」への移行を発表し、同年10月1日から全社員が共通して働く場所をオンラインに引っ越したのはヤフー株式会社だ。ユーザーに創造的な「便利」を届けるため、社員たちの暮らしをより豊かにする労働環境を整えるべく企業のワーキングスペースを丸ごとオンラインに移し替えた。
今回、そんな人々の自由な暮らし方を支えるLIFULLとヤフーのトップ対談が実現した。アフターコロナ時代を見据えた私たちの新しい働き方。企業経営者の目にはどのように映っているのだろうか。
「ヤフー、オンラインに引っ越します」
「完全リモートワークでもきちんと結果が出せるということがわかったので、今後は未来永劫リモートワーク継続でもよいのではないでしょうか」
そう語るのは、ヤフー代表取締役社長の川邊健太郎氏(以下、川邊)だ。ヤフーでは2014年からリモートワークや在宅勤務を「どこでもオフィス」と呼び、その制度を実施してきた。今回ヤフーが改めて発表した「オンラインへの引っ越し」では、社員の約半数がエンジニアであるという条件が功を奏し、「移動時間がなくなったおかげで作業に一層集中できている」といったポジティブな評価が挙がっているという。
そして時間の使い方が変化したことで、自分を磨いてもっと成長したいと考える人も多くいるはずだ。川邊氏は、新しい知識や経験を得ることで一人ひとりがさらに成長できる環境を整備しようと、これまでの副業促進に一層力を入れるとともに、新たな副業制度を立ち上げた。
川邊「今の時代、複数の会社にコミットするのは当たり前になっていますから、自分が活躍できる場をどんどん増やしてください、とヤフー社員たちに伝えました。それと同時に、同じようにフルリモートワークを取り入れている他社でも副業推進の流れが起きているだろうということに気がつきました。そしてこれは、異なる経験や意識を持った人が副業人材としてヤフーに来てくれるかもしれないすごいチャンスなのだと感じ、副業人材(ギグパートナー)を募集する新制度を設けました」
この「ギグパートナー」の募集制度により、私たちはいよいよヤフーを副業先としても選ぶことができるようになる。約100人の採用枠には、すでに4,500人を越える応募が集まっているという。
川邊「私たちの『オンラインへの引っ越し』は、エッセンシャルワーカーとして私たちの生活を支えてくださる方々のおかげで実現しています。今後、そういった方々もオンラインに引っ越しできるよう技術やサービスの開発に努めることで、我々も社会へ還元していきたいと考えています。」
一方で、人材流出といった負の側面から副業制度の導入に積極的ではない企業が存在することも事実だ。それに対しLIFULLの井上高志氏(以下、井上)は、副業推進の流れは企業にとってピンチをチャンスに変えるきっかけにもなりうると話す。
井上「いずれは、社員が副業の方が楽しいと感じて転職を希望する、という場合も出てくるかもしれません。しかし、それは一方でよりよい人材を採用するチャンスでもあるのです。これからは、『ギグパートナー』募集制度のように企業が積極的に副業人材を受け入れていくことで、例えば『ヤフーっていいな』、『こっちの企業も素敵だな』と感じて、副業から本業人材として関わって下さる方が増えるかもしれません。人材獲得は今後どんどんシビアになると思いますが、より魅力的な職場環境を作りながら副業をどんどん推し進めることでピンチをチャンスに変えていきたいです」
コロナ禍で経営者に求められるのは「思考力」と「決断力」
暮らしに対する人々の意識の変化に伴って、経営者も働き方の概念を変えていく必要がある。一層スピード感のある意思決定が求められるなか、「思考することの重要性が顕在化している」と、川邊氏と井上氏は声を揃える。
川邊「リモートワークへの移行によって自由な時間が莫大に増え、いろいろなことを考える時間も必然的に増えました。例えば『ギグパートナー』の構想も、コロナ禍で生まれた余剰時間の中で思いつき、形にしたものです。当たり前のことですが、きちんと思考するための時間的余裕があって、さらにその思考の質がよければ、すぐに意思決定につなげることができるのです。コロナ禍でより多くのことを考えたり意見交換をしたりする時間が確保できたことは、ヤフーが速やかに全社をあげてリモートワークへ移行できた理由として大きいと思います」
一方、最も生産性が高いリモートワークの導入頻度は週2日だとする過去の研究結果もあったことから、はじめはフルリモートワークの仕組みに対し懐疑的だったという井上氏。しかし、いざフルリモートワークの導入を余儀なくされてみると、週に4日や5日をリモートワークとしても業務遂行に支障はなく、むしろ効率的だということがわかってきた。
井上「私たちはこれまで、『オフィスでなければ仕事は捗らない』といった既成概念に囚われていたのかもしれません。コロナ禍で環境が変化したおかげで、柔軟な思考を妨げてきた脳内の壁が取り払われて、見える世界が一気に広がったのではないでしょうか」
テクノロジーが開放する未来の暮らし
AIの研究とその普及が進むなか、これまで私たち人間が担ってきた多くの仕事をAIが取って代わる日がまもなくやってくるかもしれない。井上氏は、今後20年以内にはAIが人間社会に一層浸透し、人々の働きぶりはさらなる大変貌を遂げる可能性があると推測する。
井上「AIの普及によって、人は1日3時間、週に3日だけ働けばよいという未来が訪れるかもしれません。そうなったとき、既存の『会社』の概念はどう移り変わるのだろうと疑問を持っています」
一方、川邊氏もこれまでの会社のあり方が大きく変わる未来を見通している。
川邊「少なくとも正社員・非正社員のような概念は、15年後くらいにはなくなっているかもしれません。そもそも会社の存在意義の一つは、個人をエンパワーメントすることにあると考えています。今後はITやAIによってエンパワーメントされた個人がどんどん活躍していくことで、会社のような組織は主役ではなく個人をサポートする立場になっていくのではないでしょうか」
将来、会社という存在はあくまでも個人の業務を効率化する「サービス」の一つとなる可能性も否定できない。また、これまでの経済成長至上主義的な考え方も変化を求められると、川邊氏は述べる。
川邊「70億もいる全人類が『今後もますますGDPをあげていくぞ、成長するぞ』とガツガツやっていたら、まもなく環境負荷的にも限界が訪れるということに私たちは気づき始めていますよね。ですから、利益の大小ではなくて、それぞれのクオリティ・オブ・ライフやウェルビーイングの増進を追い求める方が、はるかに尊いし現実的なのではないかと思います」
井上「LivingAnywhere WORKに賛同してくださっている企業さんの中には、ITを使ってこれからの時代にあった会社のあり方を実現できそうな方々が多くいらっしゃいます。ぜひヤフーさんも一緒にオープンイノベーションで取り組んでいきましょう」
アフターコロナを見据えて。1年後の私たちの働き方とは
コロナ禍で長引く非日常。事態は刻一刻と変化しているものの、新しい生活様式への適応はいまだ手探り状態だ。ウィズコロナ時代ともアフターコロナ時代とも呼ばれる1年後、私たちの暮らしは、働き方は、どのように変化しているのだろうか。川邊氏と井上氏はそれぞれの立場から未来を次のように予測して、対談の幕を閉じた。
川邊「1年後には、新型コロナウイルスの感染状況も若干改善しているはずです。そうすると、LivingAnywhere WORKのような新しい働き方を推進する会社と、オフィスワークを中心とする働き方へ戻る会社と、二極化するでしょう。そして、自分の波長に合う会社に勤めたいと願う人たちが自身の職場をより主体的に選択していく時代になると思います。そしてどんな働き方がよりよいかということは、いずれ労働市場によって証明されていくはずです。我々も、ヤフーの親会社であるZホールディングスのビジョン『人類は、「自由自在」になれる。』を信じ、人々の自由と幸福に貢献できるようなサービスの開発に尽力していきます」
井上「イノベーションや文化の変化が起こるときというのは、社会にとってインパクトの大きな出来事が起こるときだと思います。今後は『ウィズコロナのなかでも前に進もう』と、時代とともに進化しようとする会社が伸びると考えています。LIFULLでも、近い将来人間の働き方そのものが根底から変わるということを見据えて、社名の通りあらゆるLIFEをFULLにするために、どのように世界77億人みんなのウェルビーイングを叶えることができるのかを突き詰めていきます」
イベント概要
開催日:9月29日(火) 19:00~20:00
登壇者:
川邊 健太郎 (Zホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 兼 ヤフー株式会社 代表取締役社長 兼 CEO)
井上 高志 (株式会社LIFULL 代表取締役会長)
ファシリテーター:
小池克典(株式会社LIFULL 地方創生推進部 LivingAnywhere Commons事業責任者)
登壇者PROFILE
川邊 健太郎
Zホールディングス株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 兼 ヤフー株式会社 代表取締役社長 兼 CEO 大学在学中にベンチャー企業を設立。その後設立したピー・アイ・エム(株)とヤフー(株)の合併に伴い、2000年にヤフーへ入社。「Yahoo!モバイル」の担当プロデューサー、Yahoo!ニュースの責任者等を経て、(株)GYAO代表取締役社長に就任し、事業再建に取り組む。2012年ヤフーのCOO、2018年より現職。ヤフーの持株会社体制への移行に伴い、2019年10月からはZホールディングス(株)およびヤフー(株)代表取締役社長CEOに。
井上 高志
株式会社LIFULL 代表取締役会長 神奈川県横浜市出身。新卒入社した株式会社リクルートコスモス(現、株式会社コスモスイニシア)勤務時代に「不動産業界の仕組みを変えたい」との強い想いを抱き、1997年独立して株式会社ネクスト(現LIFULL)を設立。 インターネットを活用した不動産情報インフラの構築を目指して、不動産・住宅情報サイト「HOME'S(現:LIFULL HOME'S)」を立ち上げ、日本最大級のサイトに育て上げる。現在は、国内外併せて約20社のグループ会社、世界63ヶ国にサービス展開している。 個人としての究極の目標は「世界平和」で、LIFULLの事業の他、個人でもベナン共和国の産業支援プロジェクトを展開。そのほか、一般財団法人Next Wisdom Foundation 代表理事、公益財団法人Well-being for Planet Earthの評議員、一般社団法人新経済連盟 理事、一般財団法人PEACE DAY 代表理事、一般社団法人21世紀学び研究所 理事を務める。
執筆・編集/ IDEAS FOR GOOD 室井梨那
多様な暮らし・人生を応援する
LIFULLのサービス
みんなが読んでいる記事
-
2022/08/04結婚しなくちゃ幸せになれない、なんてない。荒川 和久
「結婚しないと幸せになれない」「結婚してようやく一人前」という既成概念は、現代でも多くの人に根強く残っている。その裏で、50歳時未婚率(※1)は増加の一途をたどり、結婚をしない人やみずから選んで“非婚”でいる人は、もはや珍しくないのだ。日本の結婚の現状や「結婚と幸せ」の関係を踏まえ、人生を豊かにするために大切なことを、独身研究家の荒川和久さんに伺った。
-
2024/06/18【後編】高齢者の生きがいとは?60・70歳シニア世代の働く意欲と年齢との向き合い方
「人生100年」といわれる時代において高齢者の生きがいは非常に重要なテーマです。高齢者の生きがいを満たしていくには、社会や周りの人たちのサポートも必要ですが、高齢者自身が積極的に社会とつながり交流していくことが大切です。その一つの要素として“働き続ける(活躍し続ける)”ということも有効な視点です。この記事では高齢者と仕事について解説します。
-
2022/01/12ピンクやフリルは女の子だけのもの、なんてない。ゆっきゅん
ピンクのヘアやお洋服がよく似合って、王子様にもお姫様にも見える。アイドルとして活躍するゆっきゅんさんは、そんな不思議な魅力を持つ人だ。多様な女性のロールモデルを発掘するオーディション『ミスiD2017』で、男性として初めてのファイナリストにも選出された。「男ならこうあるべき」「女はこうすべき」といった決めつけが、世の中から少しずつ減りはじめている今。ゆっきゅんさんに「男らしさ」「女らしさ」「自分らしさ」について、考えを伺った。
-
2024/07/04【前編】インターセクショナリティとは? 世界の差別問題と外国人に対する偏見や固定観念を取り払うには
21世紀において、多様性への理解やジェンダー研究において注目されているのが、ブラック・フェミニズムをはじめとするマイノリティ女性の運動から生まれた「インターセクショナリティ」の概念です。日本語で「交差性」と訳される「インターセクショナリティ」は地域文化研究、社会運動、政策に影響を与えていますが、ここでは差別問題の文脈にフォーカスして取り上げます。
-
2023/02/07LGBTQ+は自分の周りにいない、なんてない。ロバート キャンベル
「『ここにいるよ』と言えない社会」――。これは2018年、国会議員がLGBTQ+は「生産性がない」「趣味みたいなもの」と発言したことを受けて発信した、日本文学研究者のロバート キャンベルさんのブログ記事のタイトルだ。本記事内で、20年近く同性パートナーと連れ添っていることを明かし、メディアなどで大きな反響を呼んだ。現在はテレビ番組のコメンテーターとしても活躍するキャンベルさん。「あくまで活動の軸は研究者であり活動家ではない」と語るキャンベルさんが、この“カミングアウト”に込めた思いとは。LGBTQ+の人々が安心して「ここにいるよと言える」社会をつくるため、私たちはどう既成概念や思い込みと向き合えばよいのか。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
「結婚しなきゃ」「都会に住まなきゃ」などの既成概念にとらわれず、「しなきゃ、なんてない。」の発想で自分らしく生きる人々のストーリー。
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。