晋平太・呂布カルマ・よよよちゃん鼎談/前編「人と違うということは、面白いことだから」
LIFULLは既成概念に縛られず誰もが自分らしい新生活のスタートが切れることを目指し、無意識の思い込みを指す概念「アンコンシャスバイアス」がひそむ言葉を “アンコン語”と名付け、「LIFULL新生活アンコン語実態調査」を実施しました。今回LIFULLとYouTubeチャンネル「Yo!晋平太だぜRaps」との特別企画として、ラップや歌など言葉を紡ぎ独自の表現で想いをファンや社会に届け続けているラッパー晋平太さん、呂布カルマさん、歌まねヒロインよよよちゃんの3人に「アンコン語」について対話していただきました。私たちの身の回りに存在しているアンコン語への向き合い方について、3人のそれぞれの視点や捉え方がヒントになるのではないでしょうか。
連載 晋平太・呂布カルマ・よよよちゃん鼎談レポート
動画収録後に感じたこと、アンコンシャスバイアスの境界線、ラッパーにとっての言葉とは何か……。晋平太・呂布カルマ・よよよちゃんによる「アンコン語」鼎談(ていだん)は、よよよちゃんのアンコンシャスバイアスに関する体験から、「表に立つ人」の言葉のとらえ方に広がりました。ここから前後編で鼎談の様子をレポートします。
僕は表に出る人間として、僕の発言1つで喜ぶ人もいれば、傷つく人、怒る人もいると自覚しているし、そんなことを気にして話してらんねえ
「デート代は男が出す」はアンコンシャスバイアスか?
ーー動画では、よよよちゃんの考えるアンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)について、3人でラップを作ってもらいました。「若い女性カテゴリー」に当てはめられるよよよちゃんの息苦しさが伝わる内容です。
呂布カルマ:よよよちゃんが持ってきたテーマは、「あるよな〜、オッサンがやってしまいがちだよな。下手したら自分も言ってしまうことがあるんじゃないか」と思いました。
晋平太:若い女性って、生きてるだけで大変なんだなと。
呂布カルマ:自分には娘がいるんですが、娘が足を開いて座っていたらつい「女の子がそんな座り方をすると恥ずかしいよ」と言っちゃうんですよね。これはアンコンシャスバイアスなのか? わからないけれど、よそのお嬢さんに言ったら「関係ないやんけ」ってなる。
よよよちゃん:女性は自分をどうやって防衛するかについて触れましたが、「こんな大人もいて、危ないケースに巻き込まれるかもしれない。だから、自分のために足を閉じた方がいい」ということが伝わればいいですよね。でも、「女の子はこうするものだ」と言われると……。
呂布カルマ:結局、言っている内容は同じでも「お前に言われたないねん」ってこと。
晋平太:誰が、どの口で、何を言うかってやつだよね。
よよよちゃん:そう思います。親や友だちに言われたら受け入れることでも、ネットで初めましての通りすがりの人にポンと言われると、「いや、誰やねん」となっちゃう。
「こうするものだ」って女性だけでなく、男性でもありませんか? 例えばパートナーが異性なら、「男性の方が金銭的余裕を持っているものだ」とか。
晋平太:「デート代は男が出す」って、アンコンシャスバイアスになるの?
呂布カルマ:デート代を男が出すって、誰でも当たり前だと思うけど。
晋平太:世代もあるんじゃない? オレらの世代だったら、「男が出すっしょ」と思うけど。若い子はわからない。
呂布カルマ:いや、普通は出すっしょ。若い人が貧乏くさいことやってれば、オレらオッサンとしては差を見せられていいけど。まあ、差を見せたところで何の得もないですけどね。
よよよちゃん:個人的には正しいと思わないですが、「女性はデートのために髪を整えてメイクして、いろんなことにお金をかけるのだから、デートでおごってもらってトントンになる」という意見が物議を醸していました。
呂布カルマ:その意見は同時にさ、「女の子はデート行くためにお金をかけなきゃいけない」というプレッシャーにもなる。「そんなことない」という人もいるだろうし。
よよよちゃん:何かを強いられてしまったら、もう違うってことですよね。そんなつもりはなくても、例えば「若い人」「女性」と分類して話されることによって、何かを強いられていると感じるかもしれない。
呂布カルマ:大きい括りで話をするから、ややこしくなるんじゃない? 「女性は〜」「男性は〜」じゃなくて、「私はこうだから当然おごってね」だったらわかる。
晋平太:ステレオタイプに当てはめすぎるのは、良くないってことですね。
呂布カルマ:主語をでかくするヤツは、たいていバカですからね。「人としてさ〜」とか言い出したらね。
ーー主語が大きくなるのは、自分事にしたくないのかもしれません。ふわっと世間を主語にすることで、自分が発信する怖さを回避したい。
呂布カルマ:そうでしょうね。「みんながこう思っているんだ」と言いたい。
晋平太:「世間的には、こうでしょう」ってね。でも本当は、世間というのはあなたでしょう、ということなんですよね。
言葉で傷つきたくない、傷つけたくない、傷つけてしまう
ーーLIFULLが発表した「新生活アンコン語実態調査2023」を見て、どう思いましたか?
呂布カルマ:こういう感覚はオレの中にもあるかな。「これは言うな」という言葉もあった。
よよよちゃん:この調査結果のようなことを思っている人は、たくさんいると思う。思う分にはその人の感覚だから自由だけど、発言するとなると気をつけた方がいい内容なのかなと。あと、「自分はこれだけ頑張って立派にやってるのに、君はまだそのステージなの?」と(無意識のうちに人を見下してしまうような)意見もありそう。
晋平太:僕はヒップホップをやってるから、偏見を持たれることもあります。でも、我々ラッパーは芸能人や芸人とは違うし、そんなに空気を読む必要もない。自分の主張や意見を通すことを恐れないというのも、ヒップホップやラッパーの良さだと思う。
(アンコンシャスバイアスのような)答えのない問題ってアツいよね。正解がないし、正しい・正しくないでもない。
呂布カルマ:会話をするのが大事だよね。「この人は自分と違うんだ」ということを知るから、許せることがある。
晋平太:違うということは、面白いことですからね。違うこと=良くないという感覚があるのかもしれないけれど、ラップをやっているとみんな違うもんなんですよ。それぞれの正義があって、みんながお互いを「しょうがねえな」と思い合いながらやっている。
呂布カルマ:しかも、そうやってるバトルのほうがオモロいからね。
(LIFULL新生活アンコン語実態調査2023)調査対象の「LGBTQの方」「障がい者の方」という括りが、ざっくりしていますね。たとえばLGBTQの中にもいろいろあるし、障がい者の方と言っても、身体障がい・知的障がいなどいろいろある。ただ、分け方が雑だと思う一方で、雑でもいいと思っていて。
呂布カルマ:最近は、分け方が細かすぎるやろと。今の人たちはいろんなことに配慮しすぎで、別に雑でもええやんけと思う。僕は表に出る人間として、僕の発言1つで喜ぶ人もいれば傷つく人、怒る人もいると自覚しているし、そんなことを気にして話してらんねえ。僕が傷つけられることもある一方で、受け取る側を怒らせてもいいし、傷つけてもいいと思っている。気を付けているフリをするほうが欺瞞(ぎまん)だと思う。僕は、「人を傷つけている」という腹のくくり方をした。
ーー腹をくくったきっかけは?
呂布カルマ:自分が書く詩やSNSで、物議を醸すことがあるわけです。その時に、単純に読解力の問題で攻撃してくる人たちがいて。じゃあ、そういう人たちに向けた物言いをしなきゃいけないのか。サジェスチョンをいっぱいして誰も傷つかないようにしなきゃいけないのかというと、そんなことやってらんない。こんな経験を何回か経て、「もう知らん」と。敏感なヤツが悪いから、粗塩で揉んでこいと。
晋平太:僕はできるだけ、人を傷つけたくはない……。
呂布カルマ:誰かを傷つけたいわけじゃないんだよ。
晋平太:そう、そうだと思う。オレは誰かが不快にならないように、傷つかないようにと思っているんだけど、すべてをクリアすることは不可能だよね。受け取り側の問題もデカいと思う。
呂布カルマ:元も子もないけど、意識しなければ埋もれていることを掘り返す必要はあるのかなとも思う。意識しなければ思い込んだままだったり、「そういう考え方の人もいるな」で済むことを、「これ、アンコンシャスバイアスじゃん」と思うことで許せなくなることはあるじゃないですか。ハラスメントもそうだけど、今まで普通にあったことをハラスメントだと認識した瞬間に許せなくなることに近い気がする。
よよよちゃん:自分が、(自分の発言の中に)「アンコンシャスバイアスかもしれない」と気付く分には良いことですよね。
呂布カルマ:でもさ、自分が気にするほど他人の振る舞いも気になるよね。「オレはこんなに気をつけているのに」って。気にしていない人は、他の人のことも気にしないから。
よよよちゃん:呂布さんは自分が傷つくことを許しているから、許されるんじゃないですか。許すことって許されることですよね。
呂布カルマ:許す・許さないというか、オレに怒ってもいいし、オレも怒る、それが当たり前だと思ってるから。誰かが何かをしたら、喜ぶ人もいれば怒る人もいるよ。
晋平太:オレらは傷つくことに免疫がつきやすい生き方をしているのかもね。MCバトルで勝つということは相手を負かすということで、負けたラッパーの周りには悲しむ人がいるんだから。
ーーラッパーにとっての言葉は、自分を守り主張を通す盾と矛みたいなものですか?
呂布カルマ:言葉は商品だよね。言葉が売り物になるということを自覚していない人が、結構いると思う。一部で話せない人もいるけれど、言葉は世界中の人が平等に持っているもの。究極、言葉だけでメシを食っていけるし、金持ちになれる。言葉だけで暮らしていけるんです。
晋平太:言葉に無自覚な人が多いよね。言葉を操るって、すごい能力だと思うんですよね。
呂布カルマ:言葉は、使い方次第で毒にも薬にもなるものですね。
ーー今は居心地の良い言葉が多いです。人を突き刺すような言葉はダメだと言われることが多い。
晋平太:居心地の良い言葉にばかり触れていると、弱くなりますよね。アンコンシャスバイアスもそうだけど、人が傷つきやすくなってるじゃない?
呂布カルマ:そんな状況でも、僕も含めて、もっと攻撃的なビビッドな言葉・汚い言葉を意識して使える人の需要はある。まさにヒップホップは、汚い言葉やスラングがめちゃくちゃ入っていて、それを求める人がいる。結局、どんな言葉も使い方しだいじゃないですか。
よよよちゃん:私は活動を始めて3年目の新人で、「最近出てきたSNS代表」みたいな紹介をされます。メディアには、「モノマネの歴史が変わってきた」という見せ方をしたい時に呼ばれることが多い。世代交代的な演出を求められているとわかる時は、思っていなくても「ぶっ倒してやりますよ」と言ってしまう。それで、「よよよちゃんは生意気」「よよよちゃんみたいな女は受け付けない」と、世間から言葉を投げかけられた経験があります。
でも、メディアで発言したことは、たとえ他者の意思が加わっていても私が言ったこととして責任を持とうと思っているし、当事者たちが暗黙の了解でわかっていれば、1つのエンタメをつくった結果の感想だと思って気にしないようにしています。
>>後編に続く
取材・執筆:石川歩
撮影:白松清之
晋平太(中央)
伝統ある「B-BOY PARK MC BATTLE」を始め日本最大規模のMCバトルの大会 「ULTIMATE MC BATTLE」で2連覇を達成するなど数々の大会で王座を獲得。 HIP HOP界の活動に留らず、フリースタイルの伝道師として内閣府や自治体、企業等と組み全国各地でラップ講座を開催。
晋平太 YouTubeチャンネル 「Yo!晋平太だぜ Raps」
Twitter: @shinpeita
呂布カルマ(左)
愛知県名古屋市を拠点に活動するプロラッパー。 音楽レーベルJET CITY PEOPLE代表。
名古屋芸術大学美術学部を卒業後、ラップを始める。
「フリースタイルダンジョン」の2・3代目モンスターとして注目を集め高い人気を誇る。
巧みなトーク力でテレビ番組など各種メディアへの露出が急増中。
Youtube: 【公式】呂布カルマ沼
Twitter:@Yakamashiwa
Instagram: @ryoff000karma
よよよちゃん(右)
令和を代表する女性アーティストの歌まねで人気急上昇中。
“令和の歌まねヒロイン”の異名をもち、そのレパートリーは30を超える。
SNSやYouTubeでの人気にとどまらず、最近ではテレビ番組への出演も増加。活動の幅を広げている。
Youtube: よよよちゃんのお部屋【水・金 投稿】
Instagram: @yoyoyochan_insta
Twitter: @yoyoyochan_tw
みんなが読んでいる記事
-
2024/09/30女性だと働き方が制限される、なんてない。―彩り豊かな人生を送るため、従来の働き方を再定義。COLORFULLYが実現したい社会とは―筒井まこと
自分らしい生き方や働き方の実現にコミットする注目のプラットフォーム「COLORFULLY」が与える社会的価値とは。多様なライフスタイルに合わせた新しい働き方が模索される中、COLORFULLYが実現したい“自分らしい人生の見つけ方”について、筒井まことさんにお話を伺った。
-
2023/02/27アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)とは?【前編】日常にある事例、具体的な対処法について解説!
私たちは何かを見たり、聞いたり、感じたりした時に実際にどうかは別として、「無意識に“こうだ”と思い込むこと」があります。これを「アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)」と呼びます。アンコンシャスバイアスによるネガティブな影響に対処するための第一歩は、「意識し、理解する」ことです。
-
2023/09/12ルッキズムとは?【前編】SNS世代が「やめたい」と悩む外見至上主義と容姿を巡る問題
視覚は知覚全体の83%といわれていることからもわかる通り、私たちの日常生活は視覚情報に大きな影響を受けており、時にルッキズムと呼ばれる、人を外見だけで判断する状況を生み出します。この記事では、ルッキズムについて解説します。
-
2022/02/22コミュ障は克服しなきゃ、なんてない。吉田 尚記
人と会話をするのが苦手。場の空気が読めない。そんなコミュニケーションに自信がない人たちのことを、世間では“コミュ障”と称する。人気ラジオ番組『オールナイトニッポン』のパーソナリティを務めたり、人気芸人やアーティストと交流があったり……アナウンサーの吉田尚記さんは、“コミュ障”とは一見無縁の人物に見える。しかし、長年コミュニケーションがうまく取れないことに悩んできたという。「僕は、さまざまな“武器”を使ってコミュニケーションを取りやすくしているだけなんです」――。吉田さんいわく、コミュ障のままでも心地良い人付き合いは可能なのだそうだ。“武器”とはいったい何なのか。コミュ障のままでもいいとは、どういうことなのだろうか。吉田さんにお話を伺った。
-
2021/06/17エシカル消費はわくわくしない、なんてない。三上 結香
東京・代官山で、エシカル、サステイナブル、ヴィーガンをコンセプトにしたセレクトショップ「style table DAIKANYAMA」を運営する三上結香さん。大学時代に「世界学生環境サミットin京都」の実行委員を務め、その後アルゼンチンに1年間留学。環境問題に興味を持ったことや、社会貢献したいという思いを抱いた経験をもとに、「エシカル消費」を世の中に提案し続けている。今なお根強く残る使い捨て消費の社会において、どう地球規模課題と向き合っていくのか。エシカルを身近なものにしようと活動を続ける三上さんに、思いを伺った。
「しなきゃ、なんてない。」をコンセプトに、読んだらちょっと元気になる多様な人の自分らしく生きるヒントやとらわれがちな既成概念にひもづく社会課題ワードなどを発信しています。
その他のカテゴリ
-
LIFULLが社会課題解決のためにどのような仕組みを創り、取り組んでいるのか。LIFULL社員が語る「しなきゃ、なんてない。」
-
個人から世の中まで私たちを縛る既成概念について専門家監修の解説記事、調査結果、コラムやエッセイを掲載。