運動は得意な人がするもの、なんてない。

栗原ジャスティーン

「運動」を軸に、日本におけるライフスタイルモデルの先駆けとして活躍する栗原ジャスティーンさん。自身のSNSやYouTubeで、運動の楽しさや大切さを伝える活動をしている。2020年には第1子を出産。生き生きと子育てをする様子も発信しながら、2021年4月には会員制オンラインフィットネスコミュニティ「Schellin Fit」を立ち上げるなど、その活動の幅を広げている。

メディアでは、日々スポーツ関連のニュースが報道される。コロナ禍で開催された東京オリンピック・パラリンピックを映像で観戦し、選手たちの活躍に心を動かされた人も多いだろう。しかし、自身が運動をする側となると、どうだろうか。

2012年にシドニー大学などが発表した「世界20カ国における平日の総座位時間」(※)の調査結果によると、日本人の平均座位時間は世界最長の約7時間といわれている。さらに、長時間座り続けると、肥満や糖尿病、がん、認知症などの健康上のリスクが上がるだけではなく、精神面にもマイナスの影響を及ぼすことが指摘されている。

多くの人に根付いていないであろう、運動習慣。「運動には人生を変える力がある」 そう語るジャスティーンさんは、これまで運動とどのように関わってきたのだろうか。
彼女のストーリー、そして、日本でしか知らなかった頃の運動に対する固定観念や、運動が持つ力について話を聞いた。

※Sitting time and all-cause mortality risk in 222 497 Australian adults

仕事、食事、睡眠、運動。
私にとって運動は、ライフサイクルの中にあって当たり前のもの

自分らしさを押さえつけられ、葛藤したモデル時代

中学1年生のときにスカウトされ、ファッションモデルとしての活動を始めたジャスティーンさん。しかし、そこで求められる姿は彼女の本来の在り方とのギャップが大きく、常に心の中で葛藤を抱えていたという。

「当時はモード系がはやっていたこともあり、細くないといけない、日焼けしちゃいけない、髪は染めちゃいけない……などと、容姿に対するさまざまな“縛り”がありました。私の容姿は、そういった日本でのモデルの“理想像”にはフィットしなくて。

本来の自分とは違う、世の中の流行に合わせた“自分ではない人”にならなければいけなくて、とにかくそれが苦しかったですね。そのときは、好きなファッションやメイクをして自分らしく生きているギャルの友達の方が、私よりもずっと輝いているなあ、なんて思っていました」

運動は子どもの頃から大好きで、高校生になると真っ先にジムに登録。しかし、モデルの仕事を始めてからはそれも自由に楽しむことが難しくなった。

「当時は、『筋トレ=マッチョになる』みたいなイメージが世の中にあって。そのせいで、モデル事務所からもっと痩せろと言われている中、ジムで運動をすると体が大きくなったり、太ったりするのかもしれない、という不安が常につきまとっていました。

そこで運動や体についての正しい情報が欲しくて本やインターネットで調べてみましたが、当時は極端なダイエット法がはやっていたこともあり、何が正確な情報なのかがさっぱりわからなくて。事務所のマネージャーさんも『痩せなさい』とは言うけれど、どうやって痩せればいいのかを具体的に教えてもらうことはできませんでした」

大好きな運動をのびのびとできないもどかしさと、運動に関する正しい情報の不足。この2つが、10代のジャスティーンさんを苦しめていた。

自分の強みを生かせる、「ライフスタイルモデル」という職業

日本でのモデル活動に精神的な限界を感じたジャスティーンさんは、一度自身をリセットするため、21歳で単身香港へ。半年間、現地でモデルの仕事を経験したり、自分と向き合う時間をつくったりして過ごした。その後、さらなる挑戦を重ねるために渡ったアメリカのロサンゼルスで、彼女の人生を変える出合いがあった。

「ロサンゼルスで事務所を探していたとき、現地で有名な事務所のマネージャーに会う機会をいただけました。するとそこで、『あなたはモデル部門よりも、ライフスタイル部門が合っていると思うよ』と言われたのです。それが、私の『ライフスタイルモデル』という職業との出合いでした」

ライフスタイルモデルとは、運動やファッションなど、自分の得意な分野を軸にした活動を行うモデルのことで一般的なモデルに比べ、その人自身がフォーカスされるのが特徴だ。

例えばジャスティーンさんの場合は運動が得意なので、ビーチで日焼けをしてトレーニングをしているシーンの撮影をしたり、運動に関する商品の宣伝モデルを務めたりしていたという。

「それまで私は、モデルは“洋服を見せるため”の存在で、容姿だけで勝負するものだと思い込んでいました。でも、ライフスタイルモデルという職業と出合って、自分の本来の在り方を生かすことができる活動の仕方って、すごくすてきだなと思ったんですよ」

その後ジャスティーンさんは、ライフスタイルモデルとしてロサンゼルスで数年間活動し、日本に帰国。

帰国後も、日本にはまだライフスタイルモデルという職業は存在しなかった。それなら、既存の枠に自分を当てはめるのではなく、自分で自分の職業をつくってしまえばいい。そう考えた彼女は、自身の大好きな運動についての発信を行うライフスタイルモデルの活動を日本でも始めた。

海外に出てみて変わった、運動に対する意識

香港やロサンゼルスに渡った経験は、ジャスティーンさんのモデル活動だけではなく、運動に対する価値観も大きく変えていったという。

「ロサンゼルスでは、モデルのオーディション会場に行くと、みんなブラトップにレギンスで、ヨガマットを持ってきているんですよ。そこでは日常的に運動をしていることが当たり前、といった雰囲気でした。

街中を見てもそうで、仕事前や仕事後に走ることも、全く珍しくありませんでした。また、どんな体形の人も自分のペースで運動を楽しんでいる様子が、とても印象的でしたね。

私は、10代の頃は体形にコンプレックスがあったので、運動はそれを改善するためにしなければいけなかったり、逆にしてはいけなかったりするもの、という認識でした。

でも今は、食べることや寝ることと同じくらい、運動は私の生活の中にあって当たり前のもの。仕事、食事、睡眠、そして運動。これらがワンセットで、私のライフサイクルは回っているんです」

海外での経験を経て、以前よりさらに運動が身近になったジャスティーンさん。一方、日本に帰国して感じたのは「日常生活と運動が切り離されている」ことだったと語る。

「日本では、運動をすることのハードルを高く設定しすぎているのではないかと私は思っていて。

例えば、ジムに登録するにも、周りの人と同じレベルで運動ができたり、知識を持っていなくては、と思う人が多いようです。ジムに登録してからも、初心者だとフリーウエイトコーナーに行きづらかったり、鍛えている周りの人の体を見て、自分の体形を恥ずかしく思ったり。

極端に鍛え上げられた体を持つフィットネス関連の方々がメディアに出演されることが多いからかもしれませんが、日本では、『運動をしている人=“特別な人”』といったイメージが根強いようです。

本来フィットネスというのは、自分の身体とメンタルをポジティブに保つためのものであり、腹筋をバキバキに割ったり、極端に脂肪を減らしたりすることが目的ではありません。

また、人間の体は本来、長い時間座るためにつくられているものではないので、本当は生活の中に、歩いたり走ったり、ジャンプしたり、といった“動き”が入っているべきなんです。

だから、外を見たらいつでも誰かが走っていたり、仕事の休憩時間にはオフィスでストレッチをしていたりする。そういった光景がもっと日本でも当たり前になるといいなと思っています。

そのためにも、運動に関する正しい知識や取り組み方を多くの人に伝えていきたいと思いますね」

正しい情報を伝えて、日本でも運動を当たり前に

日本でも、多くの人に日常的に運動習慣を取り入れてほしい。ジャスティーンさんはその思いを実現するため、SNSでの発信やメディア出演など、さまざまな活動に取り組んでいる。

例えば、自身が妊娠中にYouTubeにアップした「マタニティートレーニング」シリーズでは、妊娠中の運動の必要性や、その安全な実施方法をレクチャーしている。

「日本では、『妊婦さんは筋トレを控えるべきだ』と多くの人が思っているのではないでしょうか。実際に、妊娠しただけで退会しなければならないジムもあるくらい。妊娠中のエクササイズについて調べてみても、あれはだめ、これはだめ……と、禁止事項ばかりです。

もちろん、人によっては持病があったり、おなかの赤ちゃんの状態もそれぞれ違ったりするので、お医者さんとの相談は必要でしょう。

でも、妊娠中に筋トレをしてはいけない理由を聞いたら、おそらくほとんどの人から明確な答えは返ってこないと思うんです。もちろん、あまりに激しい筋トレは避けるべきですが、『妊婦さんは筋トレを控えるべきだ』というのは、単なる“イメージ”なんですよね。

むしろ、妊娠中の運動によってお母さんの血流は良くなり、それによって赤ちゃんにも酸素が行きやすくなるので、基本的には妊娠中にそれぞれの状態に合わせて運動することは、とても良いこととなるんですよ」

さらに、産後や子育て中のお母さんが運動によってストレスを発散することも非常に大事だという。

「お母さんが、週に何回かだけでも自分のために運動をしてハッピーな気持ちになったら、赤ちゃんやパートナーへの接し方も良くなります。

私は産後うつが増えているコロナ禍での出産を経験しましたが、この1年間は運動のおかげで楽しむことができました」

2021年4月には、オンラインのフィットネスコミュニティ「Schellin Fit」を立ち上げた。7年前から立ち上げを構想していたというこのコミュニティでは、参加者が互いに応援し合い、毎日のトレーニングメニューを実施している。

開始から4カ月目を迎えた現在、「挫折せずに楽しく運動を継続できている人がたくさんいることがとてもうれしい」とジャスティーンさんは語った。

運動をする一番の理由は、ポジティブなマインドを保つため

世の中で運動について語られたり教えられたりするとき、どうしてもボディメイク(体形)がまず一番にフォーカスされがちである。しかしジャスティーンさんが運動に関して一番伝えたいと思っているのは、「運動は“マインド”を変化させる力がある」ということだ。

「実は、私自身、昔はすごく自信がなくてネガティブな性格だったんです。自分のマイナス面をわざわざ探して言い訳したり、“かわいそうな私”を構ってもらいたくて、悲劇のヒロインを演じてみたり。

でも、20代で運動を本格的に始めてからはそれが真逆になって、とてもポジティブなマインドを持てるようになったんです。

運動には頭のリフレッシュ効果もあるので、仕事にも良い影響がありますよ。運動後はシンプルな思考ができるようになるので、目指すゴールに向かいやすくなるんです。だから、企業で働く方々にも、仕事の合間の運動をどんどん取り入れていってほしいです。

運動をしているポジティブな人が職場に一人いれば、その人の周りに明るさが伝染して、全体の雰囲気も良くなりますよ」

提供:UNDER ARMOUR

最後に、運動を挫折せずに続けるためにはどうしたらいいのかという問いをジャスティーンさんに投げかけると、やはり一番に「体形の変化ばかりを意識しないこと!」という答えが返ってきた。

「一番大事なのは、トレーニングをするときに、『身体面』と『メンタル面』をセットで考えることです。

体形の変化ばかりを意識してトレーニングをしてしまうと、筋肉がもっと欲しい、脂肪をもっとなくそう……といったことにとらわれてしまう人が出てきます。すると、段々と人と比べてしまうようになり、逆にメンタルがマイナスの方向に向かってしまいます。もしくは、「理想の体になれないから」「思うように体重が減らないから」といった理由で、途中で挫折してしまうんです。

そうではなく、自分のメンタルを整え、人生を良くすることを一番の目的とすること。

だから、少しでも運動できたら、自分を褒める。それを少しずつ増やして、積み重ねていく。自分に合っていて無理のない運動の方法や、一緒に頑張れる仲間を見つけること、そして何より楽しむことが大事ですね」

明るい声色で楽しそうに運動について語ってくれるジャスティーンさんの話を聞いていると、彼女が語る運動の持つパワーを肌で実感できる。それは、難しい説明を聞くよりもずっと効果的だ。

「最初は続けるのが大変かもしれません。でも、頑張ったその先には、自分や家族の健康、一緒に頑張れる仲間、そしてより良い人生が、きっと待っていると思うから」

トレーニングでは、目標を達成するために、つらい思いをしなきゃいけないときももちろんあります。だからこそ、そういう壁をわざわざ自分でつくって乗り越え続けていると、メンタルがめちゃくちゃ強くなるんです。

運動を本格的に始めた10年前と比べると、身体が強くなったのはもちろん、それ以上にメンタルが強くなったことで、以前だったらこなせなかった大変なメニューも乗り越えられるようになりました。

またそれによって、人生のあらゆる出来事に対処する力も身についたなと思うのです。何かつらいことがあっても、凹まず跳ねのけられる。そして、それがまた自信につながる。そうすると、自分の行動や発言、人との関わり方も、良い方向に変わっていくんです

編集協力:「IDEAS FOR GOOD」(https://ideasforgood.jp/)IDEAS FOR GOODは、世界がもっと素敵になるソーシャルグッドなアイデアを集めたオンラインマガジンです。
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栗原ジャスティーン
Profile 栗原ジャスティーン

1988年生まれ、東京都出身。アメリカで注目を集める「ライフスタイルモデル」として、理想の体形にとらわれない健康な体づくりのための情報を発信。2021年4月、女性のためのオンラインフィットネスコミュニティ「Schellin Fit(シェレンフィット)」を立ち上げ、登録者は1000人を超える。前年には女の子を出産し、ママ世代からも注目を集める。2018年よりアンダーアーマーグローバルアンバサダー。その他、広告・メディア出演多数。

Twitter @JustineKuri

Instagram @justinekurihara

YouTube 栗原ジャスティーンJustine Kurihara
https://www.youtube.com/channel/UCMrQPh6mskETHAMf2-GeXoA

オンラインフィットネスコミュニティ「Schellin Fit」
https://schellinfit.com

STORIES 2021/10/18 運動は得意な人がするもの、なんてない。