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社会に対するモヤモヤを言葉に出してはいけない、なんてない。

辻 愛沙子

「社会派クリエイティブ」を掲げ、独自の視点で世界へと切り込んでいく株式会社arca CEO/クリエティブディレクターの辻愛沙子さん。一人ひとりが気持ちよく生きられる社会をめざし、今日もまた社会と向き合う。コロナ禍にあってもその瞳は、どこまでもやさしく、強く、柔軟だ。「本当にそれでいいのか?」といつも自問を繰り返しながら生きるパンク魂。緊急事態宣言を受けてのSTAY HOMEは彼女をどう変えたのか、はたまた変えなかったのか。

毎日学校や仕事へ行き、慌ただしく日々を過ごしていると、つい忘れてしまうことがある。自分は何のために働いているのか、本当はどう生きたいのかという問いだ。とても個人的な問いだが、大勢の人の多様な「それ」を内包するのが「社会」だ。その社会が今回のコロナで大きく揺らぐことになった。そして、一人ひとりが改めて自分の足元を見直すことになった。これまでどこか自分の生活と切り離して考えていた社会が、突然リアルに身近になったとき、わたしたちはどんなアクションを起こしていくのだろうか。

明日の自分と社会がリンクする
その感覚がすごくリアルで

「思想派ギャル」など、辻さんにはなぜかいつもセンセーショナルなキャッチフレーズがつけられてきた。そして現在は株式会社arcaの代表取締役であり、さまざまな広告プロデュースを手掛ける「社会派クリエイター」だ。最近ではZ世代のオピニオンリーダーとして報道番組のパートナーもこなす。堅いようで、どこか柔らかい。柔らかいように見えて、実に堅い。そこが「越境クリエイター」ともいわれる所以なのだろう。

「どうしても社会課題みたいなことを言ってると、堅い印象があるみたいなんですけど、全然そんなことなくて。夜中にオフィスで一人踊ったり、家ではおデブなぬいぐるみを集めていたり、意外とポップに生きています(笑)。私自身わからないことがまだまだいっぱいあるし、迷いだってたくさんある。だから社会が抱える一つ一つの課題と向き合いながら、みんなと一緒に『今のなんか違うよね』っていうのを共有していきたいなって思ってて」

辻さんにとって社会課題は、あくまで「日常の延長線上にあるもの」。「今日の晩ごはん何食べよう?」と考えるのと同じぐらいに、「このニュースはおかしい」と毎日当たり前に考えているのだ。まさに息をするように、社会のことを考えている。これって辻さんだからなのではと思いきや、若い人たちの間でここ1年の間に強く見られるようになった傾向だという。それがコロナによって、より強まったのだと。

「わたしのスタンスはあまり変わってないんですけど、社会全体で見て、特にZ世代より下の世代で『還元』をすごく意識して生活する人が増えてきたなって感じます。これまで社会と自分の生活っていうのを切り離して考えていたのが、毎日ニュースで見ることと、自分の明日がかなり密接になってきていて。社会の一挙手一投足と、自分の生活っていうのをかなりリンクさせながら、今誰々が困ってるから、自分はどういうことをしなきゃいけないとか、より強く考える人が増えた気がします。SNSの力もあると思いますが、1年ほど前から感じていた傾向がコロナで一気に強まった感じはありますね」

老後2000万円貯蓄問題にしても、コロナでの特別定額給付金問題にしても、環境問題にしたってそうだ。ツケを払うのは、いつも若者たちだ。絶対的に変わらない安心や安全なんてないのかもしれない、と常日頃から痛感させられ続けているのだ。そのリアルに、さらに拍車をかけたのがコロナだった。刻一刻と変わり続ける社会。辻さんは、まさに「考えざるを得ない世代」の代表でもあるのだ。

「よくも悪くも、絶対的だと思っていたものが簡単に変わってしまうのを目の当たりにして、なら「ウチら」はどうする?って考えている世代なんだと思います。その上で、コロナがあったからこそ、社会に対してどう思うかとか、何のために生きるの?とか、今まで青臭くて避けていたような話題にも踏み込んで、互いにコミュニケーションをとるようになった気がします。社会とか会社とか、より大きなことに対して、みんなが思っていたモヤモヤをちゃんと言葉に出していいんだっていう空気感ができた。それは一つの希望ですよね」

私はこれからもSTAY HOMEでいこうかなと(笑)

一人で没頭する作業も多いクリエイターという仕事柄、緊急事態宣言下でのリモートワークは辻さん的にはかなり好感触だったようだ。自分のペースで、思考を遮られることなく作業を進められること。さらに打ち合わせの移動時間や突発的なコミュニケーションが減ったことで、より集中して仕事が回せるようになったと感じていた。

「この生活をこのまま続けていきたいなって思ってるぐらい、わたしには合ってますね。ただ問題は、移動など余白の時間がない分、ついついスケジュールが朝から夜まで間髪なく詰め詰めになってしまうこと。意識して休息の時間をとらないと、常に全力投球でゾーンのような全集中をし続けるみたいになって、夜にはグッタリということも多くって(笑)。最近はZoomで打ち合わせの後『お、早めに打ち合わせが終わって、次の打ち合わせまで5分、10分空いたぞ』みたいな時にギターを弾いたり、意識的にゆるめることもしてます。隙間時間で弾き語りできるのは、自宅ならではですよね。ギターを弾くなんて高校の時以来ぐらい。でも歌うと元気になって、結構救われてますね(笑)」

そう笑顔で語る辻さん。とはいえ、取り巻く状況は当然大きく変わった。さすがの辻さんも、普段と違う非常事態に、知らず知らうのうちストレスを抱え「精神的にまいった」と感じたこともあったという。

「楽しみにしていたプロジェクトが中止になったり、仕事上の影響ももちろんありましたし、そうじゃなくても日々ニュースに流れるあまりの非日常感に、ただ日常を過ごしているだけで無意識に疲れていくというか。3.11の時もそうですけど普段と違う状態が続くと、知らず知らずのうちにストレスをため込んでるんですよね。気づくと異様に疲れていて、何もしたくなくて、すぐ横になりたくなっちゃうんですけど、それをとりあえず起きあがって何かしないと逆に気分が落ち込む!みたいな(笑)。わたしの場合、必ず毎週番組出演でどうしてもオフィスに出ないといけない曜日があったのも、精神的にはよかったのかもしれません。『何着ようかな?』とか、それを結構楽しみに考えたりしてました。今までは結構ダウンヘアが好きだったんですけど、遠隔になると映像がバストアップで切り取られる。だからヘアスタイルもアップにして少し後毛を出したりして、いつもと違うヘアアレンジを楽しんだり。そうやってメンタルの部分も微妙にバランスをとってた感じはありますね」

これまではかなりスピード重視の実現力とアクションで、社会的課題に取り組もうとしていたという辻さん。しかし刻一刻と変わる状況に、緊急事態宣言中はそれも大きく見つめ直すことになった。

「クリエイターとしてできることは何かっていうのは、ものすごく考えてました。毎日のようにつらいニュースが入ってきて、焦燥感もすごくあって。はじめは感染症指定医療機関の近くで、医療従事者の方に向けたメッセージ広告を出すのはどうか、とかも考えたんです。でもちょっと待てよ、と。想いファーストの前のめりのアクションが、今果たして適切なのか。そもそも今回は自分のフィールドではなく他のフィールドでのサポートの方が適してるんじゃないか、とか考えて。例えば医療機関でいうと、その時期はとにかく物資が足りない時で。想いの支援も大事だけれど、感情的に動くのではなくて今本当に必要なものは何なのか、いつも以上に慎重に考えて動かなくてはいけないと痛感しました。これまでは社会課題に対してできるだけ早くメッセージを届けられるような、社会との「距離感」や「スピード」が重要だと考えていたのですが、そこをちょっと立ち戻って考えるようになった気がします。向き合う社会は変わらないし、そこに対する想いも変わらない。じゃあ、どうアプローチしていくか、いくべきなのか。それを改めて整理する時間にもなりました」

ベストの自分で生きるために、空気は読まない

緊急事態宣言が解除された今、少しずつだが社会は「通常」を取り戻しつつある。そんな今だからこそ、改めて自分はどういう働き方、暮らし方、しいては生き方を大切にしたいのか、見つめ直すことも大切だと辻さんは考えている。コロナ前とコロナ後、在宅か出社かといった二者択一的な変容ではなく、少しずつトライアンドエラーを繰り返しながら、本当に自分にとってベストの状態へと近づけていく。それがこれからの課題だという。

「朝定時に来て、何時に帰ったら仕事してるねっていう時代ではもうないですよね。これからは自分のパフォーマンスが一番上がる選択を、いわゆる“普通”や“常識”に縛られず選択できる人っていうのが強くなっていくんじゃないかなと思います。『今日はリモートします!』とか、『今、沖縄で超気持ちいいです!めっちゃ仕事集中できて、パフォーマンス上がります!』みたいな(笑)。社会が思う真面目か不真面目とかじゃなくて、自分のベストを空気を読まずに選ぶこと。それが大事かなと。それでいうと、わたしもパフォーマンスを上げるために少し家を変えなきゃなと思ってて。引越しも考えているところです。恥ずかしながら、今はほぼ寝に帰るだけの家(笑)。次は部屋ごとに色をガラッと変えるなり、インテリアを変えるなりして、世界観を変えて、チルな部屋とアッパーな部屋とかに分けて、心地よく仕事ができる空間づくりに挑戦したいなと思ってます。」

何を買うかの選択だけでも社会にはつながれる

こうして最高のパフォーマンスから生まれるパワーを、次は社会のどこへ渡すかというところまで考えるのが「辻愛沙子」という人なのかも知れない。

「応援経済っていう言葉をよく使うんですよね。単に必要だから買うっていうのも全然アリなんですけど、わたしは『こういう想いを持ってやっている人たちに社会でパワーを持ってほしい』と思って、商品やサービスを選んだり、フォローしたりということも意識します。STAY HOME中は、大好きなアパレルの会社さんが大変だと聞いて、週数回しか外出しないのに通販で服を買ったりもしてました(笑)。わたしにとっても、単調なSTAY HOMEの生活で「商品が届く」とか「消費」とかが、「非日常」という一つの楽しみにもなっていて。でもふっと、不要不急の洋服をリソースが限られている宅配業者さんに今運んでもらってる時点で、これはどうなんだ!?と思ったり。もはや、わからんな正義…と悩んだりもしました。」

そう言いながら、STAY HOME中に買ったあれこれをちょっぴり照れくさそうに紹介してくれる辻さん。社会派クリエイターは、そうやって飄々と真っ直ぐに、今日も社会と向き合う。そんな辻さんに、最後改めてこれからの暮らしについて聞いてみた。わたしたちの暮らし=生き方は、どんなふうに変わっていけばいいのだろう。

どうしても社会課題的な話になってしまうんですけど、社会とつながる、社会課題を解決していくって、大それたことばかりじゃないと思うんです。友だちと話すレベルでもいいし、SNSでフォローするでもいい。どんな人を、どんな企業をエンパワーメントしていくかっていうことを少し意識するだけでいいと思うんです。今この選択が、明日とか来年とか、これから自分たちが生きる社会にどんな影響を及ぼすのか、少しだけ想像する。一人ひとりがそうやって日々のいろんなことを選択していけたらいいのかなって思っています。
Profile 辻 愛沙子

1995年生まれ。社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。中高時代を海外で過ごし、大学入学時に帰国。慶應義塾大SFC在学中からナイトプールなどのリアルイベント、スイーツなどの商品企画など幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアを促す「Ladyknows」プロジェクトを発足。同年11月より報道番組 news zero のレギュラーコメンテーターを務める。

STORIES 2020/08/31 社会に対するモヤモヤを言葉に出してはいけない、なんてない。